2012/01/31

Insanely great old days.

『バトル・オブ・シリコンバレー』
 マーティン・バーク 監督 (ワーナー・ブラザース) ★★★★☆
 Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp / Rakuten Books

アップル(Apple)のステーヴ・ジョブズ(STEVE JOBS)とマイクロソフト(Microsoft)のビル・ゲイツ(BILL GATES)という、言わずと知れたパーソナル・コンピュータ史に燦然と輝く 2 人の巨人の若き日のライバル関係を描いたマーティン・バーク監督の作品。もともとは TV 映画として制作されたもので、アメリカでは 1999 年 4 月に OA された。

たしか 1999 年当時は日本ではも TV での放映も劇場公開もなかったんじゃなかったかな? その後、VHS で日本語字幕版は観たんで発売かレンタルかはされたと思うんだけど、まぁ、基本的には「アップル好きの間ではわりと知られてる」程度な感じだった印象かな。長い間、DVD 化もされてなかったし。

まぁ、別に新しい作品ってわけでもないし、歴史的な名作でもないと思うけど(正直、監督も出演俳優もよく知らなかったし)、VHS のリリース当時には観てて、個人的にはわりと好きで。ちょうど、去年の年末に DVD と iTunes Store での取り扱いが始まってて(スティーヴ・ジョブズの逝去のせいなのかな?)、最近、あらためて観直したんで、あらためてレヴューしとこうかな、と。iPod とか iPhone 以降のスティーヴ・ジョブズに関してはそこら中で語られてるけど、パーソナル・コンピュータ黎明期のエピソードはあまり語られてない感じがするというか、わりと知らない人が多いみたいなんで。まぁ、逝去がキッカケってのはあまりいいキッカケじゃないけど、知らないより知ってたほうがいいハナシだとは思うんで。それこそ、もはや現代生活の基礎知識のレベルで。

原題は "Pirates of Silicon Valley" なんだけど、邦題の 'バトル' よりは、より正確にストーリーのニュアンスを伝えてるかな。'海賊' ってのは、もちろんスティーヴ・ジョブズとビル・ゲイツのことで、この 2 人がどのように '海賊行為' を行い、交錯しつつも競い合ってたかが描かれてる。ライバル関係って意味では 'バトル' なんだけど、やっぱり、原題の '海賊'、同じ海に現れた 2 組の海賊の争いのほうが、あの時期の両者の動きをより適切に喩えてると思うんで。

具体的には、1955 年生まれの両者がまだ大学生だった 1970 年代初頭から、マックが盛大に世に発表された陰でウィンドウズが開発され、ひっそりと出荷されたことで両者の対立が鮮明になった 1980 年代の半ばまでがメイン・パートとして描かれてる。

当然、アップル側には 'ウォズ' ことスティーヴ・ウォズニアック(STEVE WOZNIAK aka WOZ)はもちろん、マイク・マークラ(MIKE MARKKULA)やマイク・スコット(MIKE SCOTT)、ジョン・スカリー(JOHN SCULLEY)等、マイクロソフト側にもポール・アレン(PAUL ALLEN)やスティーヴ・バルマー(STEVE BALLMER)といったお馴染みの名前も軒並み登場してて、マック / ウィンドウズ以前のアップル I(Apple I)/ アップル II(Apple II)や MS-DOS 等の開発も含めて、ホームブリュー・コンピュータ・クラブ(Homebrew Computer Club)やアルテア(Altair)、IBM、シアトル・コンピュータ(Seattle Computer)、ゼロックス(Xerox)のパロ・アルト研究所(PARC)のアルト(Alto)等も絡んだパーソナル・コンピュータ創世記のめくるめくエピソードの数々が、ちょっとコミカルに描かれてる。

もちろん、ドキュメンタリーではないし、あくまでも「事実をベースにした」ってレベルの作品なんで、細かい部分の描き方とか脚色・演出とかは気になる部分ももちろんあるんで、そういうモノとして観る必要はある(まぁ、厳密に言えば、ドキュメンタリーであっても、そういう視点は不可欠なんだけど。写っているモノはウソではなくても、決して全てが余すところなく写ってるわけではないんで)し、ちょっとチープというか、B 級感も否めないけど、まぁ、それが決して不快な感じではない。むしろ、チープな感じが当時のコンピュータ・ナードたちのビミョーにイケてない感じに上手くマッチしてる気もするし。

あと、スーパーボウルのハーフ・タイムっていうアメリカで一番高額な CM 枠で 1 度だけ OA し、新たな時代の到来を高らかに宣言して大きな話題を呼んだマックの CM、いわゆる "1984"(Link: YouTube)のシーン(そういえば、この CM は当初、取締役会に大反対され、呆れたジョブズはウォズと 2 人で費用をポケット・マネーで負担するつもりだったってエピソードが、こないだレヴューした『ジョブズ・ウェイ』に載ってた)と、スティーヴ・ジョブズのアップル復帰直後のマックワールド(Macworld)でマイクロソフトとの業務提携を発表するシーンっていう、アップルの歴史の中でもすごくインパクトの大きかった 2 つのシーンを、ただ劇的な出来事として一面的に見せるんじゃなくて、善くも悪くもとれるような描き方をしつつ効果的に使ってたりして、構成もなかなか見事。全体のストーリーも違和感なく把握できるし、主要人物のキャラクターも含めて、パーソナル・コンピュータ誕生のストーリーの概要を掴むための資料のひとつとしても十分よくできてる。

そういう意味では、出演者の好演も光ってる。主要人物の見た目は似すぎなくらい似てるし、スティーヴ・ジョブズのエクセントリックさとか、ビル・ゲイツのルサンチマン溜めまくってる感じとか、ウォズの愛すべきキャラクターとか、ポール・アレンのクールさとか、スティーヴ・バルマーの憎めない感じとか、かなりいい感じに描けてる。

まぁ、別に映画史に残る歴史的な傑作とかでは全然ない。でも、なかなか愛すべき B 級作品だとは思うし、現代社会を支えるテクノロジーのベースを理解するための基礎知識的な意味で、今でも(今だからこそ?)十分観る価値はあるかな、と。

ちなみに、スティーヴ・ジョブズ役を演じたノア・ワイリー(NOAH WYLE)は、OA 後に行われた 1999 年のマックワールドの基調講演の冒頭にスティーヴ・ジョブズになりきって登場して話題にもなった。探してみたら YouTube にあったので下に貼っとくけど、こういうセンスって、すごく大事。今、観ても微笑ましいし、今ではちょっとなんか長閑な感じすらしちゃうけど、同時に、最近のアップルは会社としてもその影響力も大きくなりすぎたせいか、こういうユーモアがちょっと減った感じがして、ちょっと残念だったりもする。





* Related Post(s):

『ジョブズ・ウェイ』
 ジェイ・エリオット / ウィリアム・L・サイモン 著 Link(s): Previous review
IBM やインテルで働いた後に、若かりし日のスティーヴ・ジョブズを側近の '大人' として支えた著者によるジョブズ論。
『スティーブ・ジョブズの流儀』リーアンダー・ケイニー 著 Link(s): Previous review
"The Cult of Mac" や wired.com での活動で知られる著者が、具体的な事象やジョブズ本人及び周辺の人物の発言を用いながら綴ったジョブズの仕事の流儀。


『アップルを創った怪物』スティーブ・ウォズニアック Link(s): Previous review
スティーヴ・ジョブズとともにアップルを設立した 'もう 1 人のスティーヴ' として知られ、今もなお、世界中から愛される 'ウォズ' ことスティーヴ・ウォズニアックの自伝。

0 comment(s)::