2008/11/30

Life in space.

『(コミック)プラネテス 1 巻 / 2 巻 / 3 巻 / 4 巻
 幸村 誠 著(講談社) ★★
『(アニメ)プラネテス Vol. 1 / Vol. 2 / Vol. 3 / Vol. 4 / Vol. 5 / Vol. 6 / Vol. 7 /
 Vol. 8 / Vol. 9谷口 悟朗 監督(バンダイビジュアル) ★★ 

最近、訳あって(というか、それにかこつけて、おそらくは必要以上に)、宇宙に思いを馳せてるんだけど、そんな中で、ここでもレビューしてる『MOONLIGHT MILE』や『宇宙兄弟』なんかをまとめて読み直したりしてるんだけど、これまで何度も触れながら、過去の作品なのでレビューしてなかった『プラネテス』も読み直した(観直した)ので、あらためてレビューしてみようかな、と(写真はコミックの第 1 巻)。

『プラネテス』は、現在、月刊『アフターヌーン』で『ヴィンランド・サガ』を連載中の幸村誠のデビュー作で、コミックは全 4 巻(完結してないようにも読めなくもないけど)。サンライズ+ NHK BS という信頼できる組み合わせでアニメ化もされてて(監督は谷口悟朗)、現在は DVD 化されてる(全 9 巻)。コミックは 2002 年度の星雲賞コミック部門を、アニメ版も 2005 年度の同メディア部門を受賞。同賞のコミック・アニメのダブル受賞は『風の谷のナウシカ』以来で、連載中の作品が受賞したのは本作が初めてなんだとか。さらに、常盤陽による『家なき鳥、星をこえる - プラネテス』という外伝的な小説も発表されている。

舞台は宇宙で人間が普通に暮すようになった近未来で、主人公は「スペース・デブリ」という宇宙のゴミを回収する EVA(船外活動)スペシャリストで、民間企業に勤めるサラリーマンでもある。主人公の親の世代が火星を探索し、月ではルナリアン(月生まれ・月育ちの人間)が育ち、エネルギー開発というビッグ・ビジネスが新たな格差を生み、テロリストすら企業に飼われ、そんな中で人類が遂に木星を目指す、そんな時代。それほどディティールを細かく描写しているタイプの作品ではないけど、それでもリアリティを感じさせる、絶妙なサジ加減の設定の中で、宇宙と向き合い、人間(人類)を顧み、愛や哲学を考える。そんな、SF モノでは避けては通れない問題と正面から向き合い、(おそらく作者自身も)試行錯誤しながら、根拠のないノーテンキな楽観や過剰に危機を煽る絶望的な結末を押し付けることなく、(読者・視聴者が自分で考える)心地いい余白を残してくれる。個人的には、幼少時からの影響でいうと圧倒的にガンダムなんだけど、ある程度、分別がキチンとつく年齢になって以降に出会った作品では、トップクラスに好きな SFで、コミックもアニメも両方好きという意味でも希有な作品と言えるかも(コミックの魅力をアニメで表現し切れてない場合が多い)。

コミック版は、わりとアブストラクトというか、スキマが多いというか、詩のようなイメージで、(デビュー作ってこともあってか)必ずしも完成度が高いわけではない気もするけど、それも味わいになっているような、何とも言えない魅力がある。連載自体も不定期連載だったせいもあるのかもしれないけど、とかくバタバタしたような、スピート感と情報が過剰なコミックが多い中、不思議な感じのゆったりとしたスピード感というか、時間とスペースの移ろいが心地よくて、なんかジワジワと効いてくる。

アニメ版は、原作コミックの良さとポイントをキチンと押さえ、活かしながら、より細部を作り込み、ストーリーを大幅に膨らませて、キャラクターも増やし、エンターテインメントとしての完成度を高めてる。映像がキレイな印象的なカットも多く、サウンドトラックも凝った作りで、完成度が高いし、楽しめる作品に仕上がってる。監督の谷口悟朗については特に予備知識はなかったけど、原作を知ってるだけに、このアニメ版の出来映えには、いい意味でビックリ。今でもたびたび見返すことが多いアニメのひとつ。

ただ、単純に「コミック < アニメ」ってわけじゃなくて、アニメ版ではフィーチャーされてないキャラクターやエピソードがコミック版にもあったりして、その辺の関係性も不思議だし、それぞれの魅力になってたりもする。 宇宙モノの SF には理系っぽいのが多いけど、この『プラネテス』は、なんか、ちょっと文系っぽい。もちろん、いい意味で。

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