2008/11/30

Think universal.

果てしない宇宙のなかで思う未来のこと 
 毛利 衛・林 公代 著(数研出版) ★★★☆

前のエントリーでも書いた通り、訳あって(というか、それにかこつけて、おそらくは必要以上に)、最近、やたらと宇宙に思いを馳せてて、『プラネテス』や『MOONLIGHT MILE』や『宇宙兄弟』なんかをまとめて読み直したりしてるんだけど、その流れの中で読んだ一冊で、宇宙飛行士として知られ、日本科学未来館(MeSci)の館長を務めている毛利衛氏と、毛利さんが団長を務める日本宇宙少年団の情報誌『L5』の編集長を務めていたという林公代氏による著作。

MeSci のオープン前後の時期の毛利さん(及び MeSci)に林氏が密着してまとめられたもので、宇宙のことだけでも、科学のことだけでも、MeSci のことだけでもない内容になっている。毛利さん自身のロング・インタビューはもちろん、ミュージシャンの坂本龍一・美雨親子(それぞれ別々に)、七大陸最高峰を登頂し、スター・ナビゲーションの習得や古代壁画の研究をしている作家・写真家の石川直樹、『パラサイト・イヴ』で知られる小説家の瀬名秀明とのとても面白い対談も載っていたりして、なかなか読み応えがある(でも読みやすい)。

この本を読んでいて、思い出したのは『宇宙兄弟 3 巻』で、宇宙飛行士候補のひとりで、最年少で得体の知れない富井くんというキャラクターが、「宇宙へ行く理由(莫大なコストをかけて国が宇宙開発を行う理由)」を聞かれて答えた以下のセリフ。
バックミンスター・フラーは地球を「宇宙船地球号」という乗り物だと言いました。一方、ジェームズ・ラブロックは地球を「ガイア」という生物だと言っています。この矛盾が気になってましたが、リチャード・ドーキンスが『利己的な遺伝子』で言った「人間は遺伝子の乗り物(ビーグル)」という言葉で繋がりました。人間もいわば地球という生物の遺伝子です。だから利己的だし増殖も続ける。火星のテラ・フォーミングも考える。地球は自分の子孫(コピー)を創ろうとします。生き物としてそれは必然です。ミヒャエル・エンデは人間を増殖する地球のガン細胞に喩えたけど、僕の考えだと人間は増殖する「生殖細胞」です。ただ…、誰もが地球破壊に加担していてガン細胞になりうる、というだけのことです。宇宙へ行くのは僕らが地球の遺伝子なら突然変異が必然だからです。
ジェームズ・ラブロックのガイア理論が出てきたり、リチャード・ドーキンスのミームの話が出てきたりと、別々に知って、興味を持っていたことが繋がったりしたんで、個人的にはツボだったんだけど、このセリフの元ネタみたいなモノが、毛利さんの言葉の中に散りばめられてる気がして、とても面白かった。別に直接的なネタって感じじゃない(つまり、宇宙兄弟』がまんまパクったわけじゃない)んだけど、根底にあるモノが同じ感じで。本能的な部分で。科学技術者でありながら、同時にそういう感覚的な部分も持ち合わせてるのが、毛利さんの魅力だし、すごく面白いなぁ、とあんなジェントルな顔して、けっこう乱暴なことも言うし。前に呼んだ『ガンダム A』2006 年 11 月号の富野監督の『教えて下さい。富野です』に登場した時の対談でもそうだったけど。当たり前のことばっかやってたら宇宙開発なんてできない、みたいなことを言ってたりして。

あと、個人的にツボだったのは、「アメリカでは宇宙はスペース(space)。ロシアではコスモス(cosmos)。ひとつの空間、今の宇宙しか見てなくて、より普遍的なユニバース(universe)って感覚が欠けてる」ってハナシ。なんか大事なモノが秘められてる気がする。毛利さんの提示してる「ユニバソロジ(universe + -logy = universology)」って考え方も興味深いし。これについては、対談の中で瀬名氏が上手く要約してて、曰く、「自然現象の時間とか空間とかいろいろスケールの違うものを、自分の心の中で比較したり組み合わせたり融合させたりすることによって、地球上で暮しているだけでは見えてこなかった違った観点を ー 無意識のうちに感じてるのかもしれないけれど気が付かないようなものを ー 気付かせるような発想」ということらしいんだけど(「ユニバソロジ」については、野村総合研究所の広報誌『未来創発』の Vol. 14Vol. 15Vol. 16Vol. 17 に「ユニバソロジの世界観」という毛利さんの書いたエッセイが掲載されてる)。

ガガーリンの名言に「宇宙から見ると知っているものは全部ある。ないのは国境だけだ」ってのがあるけど、「自分は確かにあの地球で生まれて飛び出した、ひとつの細胞だ」って感じたってハナシとか、宇宙で顕微鏡を覗いてたときに、ふと顔を上げたら、丸い窓の外に見えた地球が顕微鏡の中で見ていたものにそっくりだったって毛利さんのハナシも、なかなか示唆的ですごく興味深い。

宇宙ってある意味で化学と物理の世界っつうか、メチャメチャ理系な世界ではあるんだけど、そのロジックでいくら理詰めで攻めても、やっぱりそれだけじゃ
どうしても理解できない世界なんだなぁ、と。もちろん、そこが面白いところでもあるし、興味がある部分なんだけど。これからの宇宙には文系も必要になってくる気もするし。

それにしても、なんで毛利さんのことは「毛利さん」と「さん付け」で呼んじゃうんだろう?
なんか、とても不思議。他の宇宙飛行士はそんなことないのに。もちろん、他の宇宙飛行士も嫌いじゃないし、興味もあるけど、なぜか毛利さんだけ別格な感じがする。なんか、あるタイプの日本人のあるべき理想の姿に近いイメージだからかもしれない。なんとなく、王貞治氏とイメージがダブるんだけど、実直で、マジメで、プロフェッショナルで、ナイス・ガイで、インテリジェントで、理性的で、謙虚で、老若男女に満遍なく好まれる感じ。もちろん、これだけが理想で他はダメってわけではないけど、日本人が持っている良い資質のあるタイプを最大限まで際立たせた最高傑作、パーフェクト・ジャパニーズ・ジェントルマンって感じで。

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