『MOONLIGHT MILE 17 巻』
. :太田垣 康男 著 (小学館) ★★★★☆
前にレビューした 16 巻で新しいフェーズに突入した『MOONLIGHT MILE』の最新刊は、ちょっと意外性のある表紙にビックリ。
時代は 2030 年。テロリズムを発端として勃発したインドとパキスタンの全面核戦争というスケールの大きな事件さえもイントロダクションに使いつつ、思春期にさしかかったムーンチャイルドを中心にこのフェーズは展開していく。アメリアと中国の対立、ムーンチャイルドと地球で生まれ育った子供の関係、ロストマン亡き後の月の状勢等、さまざまなストーリーが絡み合いながら物語は進展していて、現実社会の事件をサンプリングしてそのエッセンスを反映させながら、どんどんスケールの大きな大河ドラマになってきている。
最近の宇宙・近未来モノの SF コミックはどれもけっこう好きなんだけど、この手のハナシって、『プラネテス』や『度胸星』なんかがそうだったし、『宇宙兄弟』にもその可能性をちょっぴり感じたりするんだけど、ちょっと気を許すとついつい「宇宙とは?」「人間とは?」みたいな哲学的な袋小路に迷い込んじゃって、ハナシが内省的になりがち(それはそれでキライじゃないけど)。まぁ、『ガンダム』もそう言えるかもしれないし。それはそれで、ある種の宿命というか、仕方ない部分はあるんだけど、当然生半可に結論が出せるもんじゃないし、単純化した答えが出てスッキリなんてあり得ないから、マンガという「エンターテインメント」ではなかなか扱いがムズカシイ問題だったりする。
その点、『MOONLIGHT MILE』はリアリティとダイナミズムを前面に押し出すことによって、哲学的・内省的になる部分は要所で押さえつつも主題にすることはせず、あくまでもハードボイルドなエンターテインメントとして成立させてるところが特徴。16 巻のレビューでも書いたけど、マンガという表現の特質に自覚的で、それを上手く活かせるプロフェッショナルな作品だと言える。毎回そうなんだけど、やっぱり今回も続きが気になって仕方がない。
あと、印象的だったのは、奇しくも「演説」。ちょうど、バラク・オバマの演説を前のエントリーで紹介したばかりだったんで。インドとパキスタンの全面核戦争のエピソードの中でマーティン・ルーザー・キング Jr. の演説 "I have a dream." が効果的に引用されてるんだけど、ちょうど、前のエントリーを書くときに見直してたので、余計にグッときちゃった。演説の持つ力を再認識したというか、言葉の持つ力を思い知らされたというか。
*既発巻:
『MOONLIGHT MILE 1 巻』
『MOONLIGHT MILE 2 巻』
『MOONLIGHT MILE 3 巻』
『MOONLIGHT MILE 4 巻』
『MOONLIGHT MILE 5 巻』
『MOONLIGHT MILE 6 巻』
『MOONLIGHT MILE 7 巻』
『MOONLIGHT MILE 8 巻』
『MOONLIGHT MILE 9 巻』
『MOONLIGHT MILE 10 巻』
『MOONLIGHT MILE 11 巻』
『MOONLIGHT MILE 12 巻』
『MOONLIGHT MILE 13 巻』
『MOONLIGHT MILE 14 巻』
『MOONLIGHT MILE 15 巻』
『MOONLIGHT MILE 16 巻』
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