2009/06/15

Not only 'speed' but also 'something special'.

Apple WWDC 2009 Keynote Address (Apple Inc.) 

2009 年 6 月 8 日(日本時間では 6 月 9 日の未明)にサン・フランシスコで行われた WWDC 2009 でのキーノート・アドレス。今回のテーマは 'One year later, light-years ahead.' だとか。これまでにもアップルのキーノート・アドレスはエントリーしてるけど、今回もいつものようにオフィシャル・サイトでのストリーミング配信iTunes で Apple Keynotes を登録しておくとポッドキャストで配信されるカタチで公開されてる。ちょっと時間が経っちゃったけど、やっぱり触れといたほうがいいと思うので。

既にオフィシャル・サイトでも発表されてるように、3 代目の iPhone、'S' が付いた「シャア専用」こと iPhone 3G S が発表されて、すっかりそのインパクトで他の発表のことを忘れちゃいがちなんだけど、実は他にも、MacBook ProSafari 4OS X Snow LeopardiPhone OS 3.0 等、無視できない発表は相次いだ。そうは言っても、内容は既に報じられてるし、実際に触ったわけでもないので、発表内容には気になる部分だけある程度は触れつつも、ここではいつも通り、
キーノート・アドレスを「ライヴ」のようなエンターテインメントとしてレビューを。

まず、療養中の御大、スティーヴ・ジョブズは今回も不在。メインはシニア・バイス・プレジデントのフィル・シラーが担当しつつ、詳細に関してはそれぞれ担当者に任せるカタチで分担して進行された。まぁ、WWDC は 'Worldwide Developers Conference' なわけで、相手は世界中の開発者なわけだから、当然、内容は専門的になるんで、詳しいことはそれぞれの担当者がって側面もあるんだろうけど。それぞれ、ソツなくはこなしてたけど、まぁ、スティーヴと比べちゃうと、さすがに見劣り感は否めない。まぁ、スティーヴに匹敵するプレゼンテーターなんて世界を見渡してもそんなにいないんだけど。

フィルはジョブズのキーノート・アドレスでも、主にデモでのボケ担当として頻繁に登場してて、ユーモラスで憎めないキャラを発揮してたんだけど、さすがにメインは荷が重いのか、スティーヴの不在時は緊張気味で、なんとなく硬さの残る感じ。フィルがまず紹介したのは新しい MacBook Pro。まずは、バッテリーがビルト・インになったけど性能が向上してるから多くのユーザーはバッテリーについて気にする必要がなくなる、と。これはなかなか大胆で、賛否がありそうなところ。ヘヴィーなノートブック・ユーザーとしては、バッテリーの買い替えってわりと経験することなんで、自分で交換できないのはビミョーっぽいけど、それだけ性能が向上すれば確かに要らないような気もするし。SD カード・スロットの搭載は個人的には嬉しいかな。ノートブックをメイン・マシンとして使ってると USB ポートは足りなくなりがちなんで。まぁ、他にも CPU が速くなったりメモリとドライブの容量が増えたりしてるけど、何が驚いたかっていうと、MacBook がなくなっちゃったこと。まぁ、厳密に言うとなくなってはないんだけど。ハナシの流れとしては、まず、15" と 17" の MacBook Pro のアップ・グレードの説明をして、同じ内容のアップ・グレードを MacBook 13" に施して、もう、これは 13" の MacBook Pro だからそう呼ぶことにしたよ、と。まぁ、去年の 10 月に発表されたユニボディの MacBook 13" はすごく完成度が高くて、初代 MacBook Pro 15" ユーザーとしても「次に買うのはこれでいいんじゃね?」って思わせるようなマシンで、その時点で限りなく Pro に近いスペックだったんだんで、そういう意味では驚きじゃないというか、むしろ当然というか、わかりやすくスッキリした感があるんだけど、ホントにやっちゃうのか? って意味ではちょっとビックリかな、と。一応、白いボディの古い MacBook は廉価版として残ってるけど、まぁ、なくなるのも時間の問題だろうし。製品構成的には「デスクトップ:iMac - Mac Pro / ノートブック:MacBook - MacBook Pro」って基本構成は変わらないだろうから、当然、MacBook の部分には、今後、今のラインナップにはない機体が投入されるんじゃないかな、なんてついつい想像したくなっちゃう。タブレット的なモノなのか、日本人だけがやけに欲しがるネット・ブック的なモノなのか、それともそのどちらでもないような別のモノなのか。まぁ、スティーヴがプレゼンテーターだったらその辺の含みみたいのをもうちょっと持たせたかも、なんて思ったりもするけど、フィルはそれはあえて避けたのか、緊張してそれどころじゃなかったのか、そんな権限はないのか、特にそこには触れずにツルッと進めてたけど、エンターテインメントとしてはちょっと物足りなかったりするかな。

バートランド・サーレイ(カタカナ表記はこれでいいのかな? そういう風に聞こえるんだけど。アルファベット表記は 'Bertrand Serlet')が登場して紹介したのは Snow Leopard経歴をちょっと調べてみた限りではフランス人なのかな? 英語の発音がちょっと独特で馴れないと聞き取りにくい。Windows を茶化す掴みで始まった Snow Leopard のハナシはわりと地味目だったかな。一言でいうと 'A better Loepard' だ、と。まぁ、大幅なリファインの結果、インストールが 45% くらい速くなったとか、ディスク・スペースが 6GB くらい空くとか、わりと良心的な内容ではあるけど。既に配付されてる Safari 4 もいいし。Leopard と Tiger だけじゃなくて Windows の XP と Vista のヴァージョンもある。特徴はこんなにあるらしいんだけど、プラグ・インの読み込みによるクラッシュを防ぐクラッシュ・レジスタンスとか、よく見るサイトと略歴の表示も今まで不満だったところだったりするんで。Safari 4 を含む Snow Leopard のデモはクレイグ・フェデリギ(Craig Federighi)ってヤツがやってたんだけど、なかなか上手。早口なわりにハナシも聞き取りやすいし、スティーヴばりの "Boom!" も使ってたし。まぁ、iPhone 発売後、OS X のアクティヴユーザーは 3 倍に増加してるらしいし、Leopard 自体、かなり快適な OS だと思うんで、'A better Loepard' って豪語してる Snow Leopard はすごく楽しみかな。まぁ、Exchange のサポートはどうでもいいけど(でも、特にアメリカでは需要がありそう)。リリースは 9 月。

続いて登場したのは、もう最近はすっかりお馴染みになってる iPhone ソフトウェア担当のスコット・フォーストール(Scott Forstall)。いい意味で、なかなか胡散臭い雰囲気が好きなんだけど、このスコットとバートランドはスティーヴが NeXT から連れて来たソフトウェア・グルなんだとか。今の、そしてこれからのアップルを支えてくキー・パーソンってことなのかな。スコットは、プレゼンテーションも適度にフレンドリー且つフランクで、でも媚びてる感じはなくてなかなか上手いプレゼンテーター。言いにくいこととか皮肉とかもツルッと言いやがるし(「MMS はキャリア側の都合もあるんだけど、アメリカで AT&T は夏の終わり頃に対応する予定だよ」とか言ってたり)。

内容的には 3 月のイベントでやった iPhone OS 3.0 のスニーク・ピークとカブってる部分も多いんだけど(「カット & コピー & ペースト」とか In App Purchase とか)、いくつか、その時には発表されてない、でもすごく大事なポイントが含まれてた。個人的にツボなのは、MMS とインターネットテザリングかな。MMS は SMS でビデオ・写真・オーディオ・連絡先情報等が送れるようになった機能なんだけど、SMS は思いの外、よく使ってる(iPhone 同士のコミュニケーションで一番使ってるかも?)んで嬉しい限り。ロケーション・データが送れるようになったのがデカイかな。これで「今、どこにいるの?」問題(世の中には「自分が今いる場所を言葉で説明できない人がいる」って問題。これは、能力の問題ではなく特性の問題らしい)が解決されるかも。

個人的に一番気になるのはインターネットテザリング。これは、前に一瞬だけ App Store で公開されてすぐに消えた NetShare ってアプリケーションみたいなモノで、よく「iPhone をモデム化する」みたいな説明がされてた(アップルのサイトにも「iPhone をモデム代わりに使えます」って書いてある)けど、この説明はイマイチ何だそれ? って感じがする。まぁ、要するに「iPhone の 3G ネットワークを PC で使う」こと。つまり、外出時で、インターネット接続(有線または Wi-Fi)がないときに、iPhone 経由で PC をインターネット接続できる、と。これはモバイラーにはなかなか嬉しいハナシで、個人的にはウィルコムの 9 + DD + W-SIM / RX420AL から iPhone に乗り換えて唯一不満だったというか、「今までで出来てたのにできなくなったこと」だったんで。そういう人間はけっこう多かったのか、NetShare が出たときも一部ではすごく話題になってて、「法的に問題があったんじゃないか」とか「トラフィックが異常に増加するから NG なんじゃないか」とか、いろいろつまんねぇ正論を言うヤツが多かったけど、個人的にはその頃から「いや、絶対アリでしょ。それなりに需要はあるし(でも、絶対的な需要じゃない)。キャリア側に無許可っていうのは問題ありそうだけど、っつうか、こんなの、オフィシャルでできるし、やるべきだし、っつうか、やれよ」って思ってたんで。実際、アップルのサイトでもそれほど大きな扱いじゃないことからもわかるように、それほど需要がある機能だとは思えないし。だって、ノート・パソコンを持ち運ぶユーザー以外にはどうでもいいハナシだから。しかも、iPhone がもたらした大きな変化は(少なくとも個人的には)「今までかなりの頻度で MacBook Pro を持ち運んでたのに、その回数が著しく減った」ってことだし。つまり、「限られたユーザーの、限られた状況でしか役立たないけど、でも、あるとすごく助かる(ことが、たまにある)機能」だってこと。まぁ、実際、トラフィックに大きな影響を与えるほど多くのユーザーが頻繁に使うとは思えないし。家のプロバイダーを解約しちゃって、パソコンのインターネット接続も全部 iPhone 経由にしちゃうなんて荒技もできなくはないけど、そうすると電話としての機能を制約しそうだから、やっぱり、現状では現実的ではないと思うし。引っ越しとか旅行とか、一時的には十分役立ちそうだけど。あと、USB 接続だけじゃなく Bluetooth でも接続できるのもすごくいいし。まぁ、これも MMS と同様、キャリア側の都合があるハナシで、iPhone OS 3.0 の公開時に即時対応する 42 カ国の 22 キャリアにソフトバンクが入ってないのが気になるところだけど、アップル・ジャパンのサイトにも載ってるし、対応しないってことはないだろ、と。とっとと対応してもらわないと。

あと、MobileMe ユーザー限定だけど、Find My iPhone(日本では「iPhoneを探す」)もいい機能。名前の通り、iPhone を紛失したときにパソコンからアクセスして音を鳴らしたりメッセージを表示したりデータを消したりできる機能で、個人的にはこれが必要なケースに遭遇したことは(幸運にも)ないけど、これって普通、キャリアに連絡して…みたいな煩わしい手続きをしなきゃいけなかったわけで、それ自分ですぐにいつでもできちゃうのはすごくいいな、と。キャリア側にとっても煩わしかっただろうし、番号を止めるような大袈裟な手続きの前にとりあえず探すって面でも便利かな、と。

それから、いつも通り、いくつかのデヴェロッパーが登場して iPhone OS 3.0 の SDK を使ったソフトウェアのデモを演ったんだけど、その中でスコットがボケキャラとして登場したり。トラブルがあって不発に終わったけど、そういうキャラだったんだぁ、なんてちょっと思ったりして。個人的にはゲーム系にはあまり興味がないだけど、そこでのデモの中で紹介されてたエアストリップ・テクノロジーって会社の医療用のアプリケーションの UI がすごくカッコよかったのがすごく印象的だった。こういう堅めなモノの UI がカッコイイとか、見落とされがちだけどすごく大事。超大事。もっとみんな気を配るべき。そして、こういう部分こそ、実はすごく iPhone っぽいところでもあるし。

実は、相変わらず、Google Maps のログ・インの問題(マイ・マップを使いたい)とか、未だに未対応の Flash の問題とか、まだまだいろいろ不満というか、希望もないことはないんだけど、そういうことを感じさせない(忘れさせちゃう?)のもさすがって感じなのかな。

最後は再びフィルに戻って iPhone の第 3 世代モデル、iPhone 3G S の発表。まずは、それまでのケータイを「ゴミみたいなデヴァイス」なんて呼んだり、アプリケーションの数をグラフで比較して、iPhone の 50000 に対して 18 しかない Palm を「少なすぎて見えない」とか言ってみたり(実際にグラフは見えない)、ちょこちょことキャラに似合わぬ毒舌を混ぜつつ iPhone の現状を紹介したりしつつ、わりとサクッとハナシは iPhone 3G S へ。スペックの比較はこれがわかりやすいけど、'S' は 'speed' の 'S' だってことで、シャア専用よろしくまずは「速い」と。これはシンプルで、でもすごく大事なこと。あとは、カメラの性能がアップしたこと(特に 'tap to focus' とマクロは良さそう)とか、動画が撮れる(エディットもできる)ようになったこととか、コンパスが付いたこと辺りが話題なのかな。ヴォイス・コントロールもあるけど、これは、正直、使うのか? って気がするし。外人は好きだけどね、こういうの。音声認識技術は英語のほうが進んでるっぽいし。個人的には NIKE+ に対応したことが嬉しいかな。iPod touch に既に搭載されてたから時間の問題だとは思ってたけど。あとは、やっぱりバッテリー。これは良くなりすぎることはないから。まぁ、実際にすぐに買い替えるかはわかんないけど。すぐに手に入るのかにもよるし、料金体系も相変わらずよくわかんない(2 年縛りとの絡みもあるし)けど、十分魅力的なアップデートではあることは間違いないし、'S' は 'speed' だけじゃなく、同時に 'special' でもあるような、そんな感じも抱かせる。

今回は 2 時間オーバーっていうかなり長めのキーノート・アドレスで、内容的にもかなり盛りだくさんだったけど、'One year later, light-years ahead.' って言葉の通り、OS X にしても iPhone にしてもかなり世の中の先を行ってる内容で、すごくアップルらしい充実した内容だった。しかも、それをスティーヴ不在でこのキーノート・アドレスをやれちゃったことも、これからのアップルにとっては大きかったかな、って気もするし。もちろん、スティーヴは唯一無二のカリスマで、こんなキャラクターは今後もそうそう出てこないと思われるだけに。そういう意味でもすごく観応えのあるキーノート・アドレスだったかな、と。

まぁ、とりあえずは iPhone 3G S を買うか迷いつつ(国内発売は 26 日)、今週 18 日から使える iPhone OS 3.0 を使い倒しつつ、っていうか、MacBook Pro 13" もかなり迷うところだったりして。

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