2009/07/29

The originators.

「対談: 富野 由悠季 x 安彦 良和」(『ガンダム A(2009 年 09 月号)』掲載) 
(角川グループパブリッシング)  Link(s): Amazon.co.jp

ガンダム専門の月刊コミック誌『ガンダム A(エース)』の最新号に掲載されてる富野由悠季・安彦良和という 2 人の巨匠の対談。何でも、それぞれ等身大ガンダムを見た後の 6 月 30 日に、その近くのホテルで行われたんだとか。

扉を含めて全 10P なんだけど、3 時間に渡って行われたらしく、かなりのヴォリュームで、ロング・インタヴューならぬロング対談って感じ。もちろん、文量だけじゃなくて、内容もメチャメチャディープで、読み応え十分な内容になってる。

富野由悠季監督はもちろん、言わずと知れたガンダムの原作者で、まぁ、一般的には「ガンダムの生みの親」として知られてる人物。一方の安彦良和先生は、ファースト・ガンダムでキャラクター・デザインと作画監督を務めた人物で、2001 年 6 月からガンダム A』で、ファースト・ガンダムのストーリーや細かい設定を見直し、再解釈・再設定しながら描いている『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を連載してる。このふたりにメカニカル・デザインを担当した大河原邦夫氏を加えた 3 人がファースト・ガンダムを語る上で欠かすことができないコア・メンバーなのは広く知られてる通りなわけで、そのうちのふたり、特にストーリーや世界観、登場人物のキャラクターや心理描写・演出等、ガンダムを他のアニメーションと差別化した重要な要素に多大な影響を及ぼしたふたりの対談ってことで、まぁ、普通に考えても大きなトピックなんだけど、そんな期待を遥かに上回るくらいディープな内容になってて。

まぁ、毎月ガンダム A』を買ってるような物好きは周りにもほとんどいないし、連載されてる作品は単行本で発売されるからそれをチェックすればいいんだけど、こればっかりは買って読んどいても損はないだろ、と。っつうか、読むべき。ガンダム好きであるなら。ここ以外では読めなくなる可能性が高いし、ハナシの内容的にも 30 周年のこのタイミングならではの内容なんで、読まない手はないだろ、と。

対談自体は、「1/1 ガンダムは素晴らしいね。どうせプラモデルみたいなもんだろうとたかをくくってたから、思わず前のめりになっちゃった(笑)」と大絶賛の安彦先生に対して、「僕は途中参加なので、不都合がものすごくあって、困ってます」なんて答えつつも、出来自体には満更ではない富野監督という会話で始まるんだけど、「(前略)いろいろと不満はあります。でも、とにかく完成してよかった。ただ、このまま何の反省もなしに次にザクを作られちゃ困るんです。5 年後にザクを作るなら、せめて自力で立ち上がれと」なんて言ってて、富野節炸裂って感じ(富野節のサンプルとして、これを読めばニュアンスは掴めるはず)。安彦先生が思わず「結局、作れと言ってる(笑)」なんて突っ込んでたりして、なかなか微笑ましい。

そうは言っても、このふたりのことなんで、老人がふたりで昔話に花を咲かせるなんて展開にはなるはずもなくて。もちろん「老人」なんて呼んだら失礼なんだけど、ふたりとも年齢的には十分、「老人」化しててもおかしくない年齢だと思うんで。実際、世の中にはそういうインタヴューも多いし。でも、このふたりに関しては、まったくそんなことはなくて。それは、つまり、ふたりが今でも現役バリバリのクリエイターだから、ってことなんだろうけど(「クリエイター」って単語は、使うのにちょっと躊躇しちゃいがちな単語なんだけど、このふたりには何の抵抗もなく使える。当人が好むかどうかはナゾだけど)。結局、「年齢」なんて数字が問題なんじゃないってことなんだろう、と。

なんでも、ふたりがキチンとハナシをするのは 9 年ぶりなんだとか。別に仲がいいとか悪いとかってハナシではなく、9 年前に安彦先生が富野監督に「『THE ORIGIN』を描いていいか?」って聞いて、富野監督が「じゃあ読ませてもらうよ」って答えた、と。安彦先生としては、『THE ORIGIN』を描き終えたところでもう一度、場を設けて「どうだった?」って聞こうと思ってたけど、30 周年のタイミングだし、『THE ORIGIN』ももう大詰めにきてるんで、今さら富野監督と話をしたことで大きくブレることはないだろ、と。やっぱり、途中で富野監督と話をしちゃうと、どうしても影響を受けちゃうと思ったそうで。まぁ、富野監督も「現在進行形の作品で、何か言ったら影響が出るかもしれないわけだから、僕は口が曲がっても何も言えないです」なんて言ってて。なんてことのないやりとりだけど、作り手である相手はもちろん、いろんな人(それこそ読者も含めて)への配慮が垣間見えて、なかなか味わい深い。

そんなハナシから、制作当時のハナシになっていくんだけど、ふたりとも、ガンダムっていうのはキャリアの中ですごく大きなモノであると同時に、大きな足枷になった部分もあったわけで、言わば、「愛憎入り交じる」ような、何とも言えない感情を抱いてたわけで、でも、それをお互いに、お互いのやり方・考え方で吹っ切ったから今があるわけで、そんな心境の変遷とか、お互いがお互いをどう見てたのかって考察とかがなかなか興味深くて。

僕の場合、今回の 1/1 でまた吹っ切れたんですよ。吹っ切れたから、ガンダム的であろうがなかろうが、もう一度作品を作ろうと思えるようになった。1/1 の発案者は、僕が汲み取ったような意味を汲み取ることはできないだろうけど、僕はそれを汲み取った上で作るアニメ発の物語、ガンダム的な物語を鮮明に構築することができたんです。もちろん、シリーズを作らせてもらえるかは分かりませんが、少なくともこれだけのキャリアを積んだ年寄りをなめるな、と言える何かを提示することはできるかもしれない。だから僕は今、絶対に過去を振り向く気はないんです。それをやってたらファン以下になる。今のガンダムファンというのは、ありがたいことに 40 代からいる。そういう世代に対して、ガンダムが発しなければいけないことは何か考えるようになったときに、エンタメに徹すればいいとか、俺はアニメやコミックが好きだからというレベルで仕事をやってくれるなと、僕はこの業界の人に言いたい。ただそれはこういう場で語るのではなく、作品で語らなきゃいけない。だからしんどいんですけど、でもアニメやコミックというのは、もうそこまで来てるんです。

ちょっとこの引用だけだと意味がわかりづらいとは思うけど、これは富野監督の言葉。富野監督の今のスタンス(っていうか、これまでもそうだと思うけど)をすごくよく言い表してるな、って。同じ号の「教えて下さい。富野です」って連載ページに掲載されてるウェブ・デザイナーの中村勇吾って人との対談(というか、トーク・ショー)でもなかなか辛辣な言葉で強調してるけど、作品を作るっていう行為に付随する「社会性」みたいなモノにすごく自覚的で。まぁ、アニメーションっていう仕事に対する愛憎というか、コンプレックスみたいなモノは、富野監督はいろんなところでたびたび触れてきてる点だったりするんだけど、それに気付いて、自分の中で消化して、受け入れて、それでもひとりのプロの作品の作り手としての誇りもを持って、ひとりの現役のクリエイターであり続けてる(あり続けようともがき続けてる?)感じが、すごく富野監督っぽくていいな、と。

個人的にはすごく思い出深い(っていうか、もはや「自慢」だったりする)仕事のひとつなんだけど、実はある雑誌の仕事で富野監督にインタヴューさせてもらったことがある。ちょうどガンダム 20 周年だったから、もう 10 年前ってことになるんだけど、その時はファースト・ガンダムの映画 3 部作のビデオがボックス・セットとして発売されたりしたタイミングで、当然、20 周年ってのがテーマだったんだけど、実はその時、富野監督は『∀ ガンダム』の制作に取りかかってて、でも、まだ正式に発表はされてなかったから話したくても話せなくて。そういうタイミングだったんで、昔のことを(ちょっとメンドくさそうに)話してくれたんだけど、やっぱり、ハナシの端々から「自分は現役のクリエイターなんだ。昔話なんかしてるヒマはねぇ」みたいなオーラはビンビン伝わってきて。それはそれで、こちらとしてもちょっと申し訳ない気持ちになりつつも、でも、ちょっと嬉しかったりしたこともよく覚えてる。インタヴューの後、ハンパじゃなく疲れたし。やっぱり、人格形成期に影響を受けちゃった人ってのはいつまで経ってもその存在感は絶大で、でも、こちらも仕事として向き合ってる以上、最低限の仕事はしなきゃいけないわけで。でも、ちょっと油断すると、気持ちが決壊しちゃってあっという間に「ただのファン」になっちゃう危険性もヒシヒシと感じてて。富野監督も富野監督で、「ナメんなよ、この若僧。こっちは今、新しいのを作ってんだから昔話してるヒマはねぇんだよ」的な、いい意味での緊張感に溢れてたし。まぁ、その時の印象が鮮明なんで、どうしてもその印象がその後の富野監督像の比較対象になってるんだけど、最近の言動を見たり読んだりする限り、いい意味で変わってないような気もしつつ、でも、その頃よりもさらに吹っ切れてる感じもして、すごくいい感じだな、と(実際、今回の対談で「ガンダムが好きになったのはこの 7、8 年です」なんて言ってたりするし)。

まぁ、内容について細かく触れてたらキリがないんでやめるけど、個人的には、富野監督と安彦先生という、6 歳しか違わないのに、ふたりの間には思想的にけっこう大きな違いがあったりすることとか、すごく興味深かった。安彦先生は時代的な思想みたいなモノの影響をすごく強く受けてたみたいなハナシはどこかで読んだ記憶があるけど、富野監督はビックリするほど受けてなくて。時代的な影響がすごく強い世代なんだって点も含めて。あと、そういうことは、今だからこそ感じるのかもしれないし、当時は目の前のことでいっぱいいっぱいで、いちいち気にしてられなかっ たり、気になっても確かめてるヒマなんかなかったのかもしれないなぁ、なんてことも思ったり。

他にも、ニュータイプについての話とか、もちろん、読み逃せるわけがないし、そんな感じで、ある意味、かなりオトナ向けな会話が繰り広げられてるんだけど、そんな仲でも絶対に読み逃せないのが、富野監督が次回作で描きたいと思ってるテーマは「全体主義」なんだって点。偶然か必然か、個人的にも、最近、何だかわかんないけど、モヤモヤと、でもすごく気になってたんで、「全体主義」って。まぁ、詳細についてはあまり語ってないけど、どういうことを描こうと思ってるのか、すごく興味深い。

あと、このレヴューとは直接関係ないけど、創刊以来、毎号買ってる『ガンダム A』自体は、正直、ちょっとターニング・ポイントを迎えつつある感は否めないかな。もともと『THE ORIGIN』を掲載する媒体として生まれたっぽいから、ソロモン後までハナシが進んでる『THE ORIGIN』が終われば当然、ひとつの転換点になるだろうし、(個人的には)『THE ORIGIN』と並ぶ柱だった『ガンダム UC』も先月で完結したし。まぁ、『ガンダム UC』のアニメ化が冬に控えてるから、その辺の絡みでいろいろ出てくるのかもしれないけど。今月号にも福井晴敏のインタヴューが載ってたりするし。あと、上でも触れた富野監督の対談連載「教えて下さい。富野です」も毎回面白かったりするんで、まぁ、まだしばらくは買い続けちゃうんだろうけど。
 

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