2009/12/01

Get the knowledge. Free your mind. Ride your cycle!

『自転車会議!』
 疋田 智・片山 右京・今中 大介・勝間 和代・谷垣 禎一 著 
PHP 研究所 Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books

前にレヴューした『自転車の安全鉄則』の著者、疋田智氏を中心(=進行役)に 5 人の自転車乗りが集まって、自転車の魅力や問題等について「会議」した議事録をまとめたモノ、なのかと思いきや然に非ず。実際に集まって「会議」に参加してるのは疋田智・片山右京今中大介勝間和代の 4 氏で、肝心の(そう! 肝心の!)谷垣禎一氏は別の場で疋田智氏がインタヴューするようなカタチで巻末部に載ってる感じ。特別扱いって言えば聞こえはいいけど、オマケっぽい印象も拭えないし、出版社のオフィシャル・サイトには「各界の有識者を虜にし、ますます加熱する自転車ブーム。それを牽引してきたリーダーたちがその魅力、これからについて熱く語り合う!」なんて書いてあるのに、正直なところ、ちょっと騙された感じがしないでもないし、(出版社なのか編集者なのか著者なのかはわかんないけど)作り手側に誠意を感じないというか、あざとさみたいなモノは感じちゃう。まぁ、サブ・タイトルの「なぜ、各界のトップランナーは自転車を選ぶのか」とか、帯に書いてある「デキる人は、漕いでいる」なんて痛々しい言葉から、胡散臭さは十分すぎるほど感じてはいたんで、警戒心は持って読んだんだけど、残念な意味で間違いじゃなかったらしい。

まぁ、なんで谷垣禎一氏が「肝心の」なのかというと、まぁ、こないだ事故ってニュースになってたときにもよく触れられてたけど、自転車活用推進議員連盟日本サイクリング協会の会長だから。好き・嫌いはともかくとして、疋田氏は NPO 法人・自転車活用推進研究会の理事でもあるし、他の 3 人も相当な自転車乗りなわけで、日常生活の中で感じるいろいろな問題は実感として持ってるはずだから、キレイごとじゃなくて、現実にある問題について突っ込んだハナシを谷垣氏としてることを期待したんだけど。まぁ、さすがに、谷垣氏が政治家(それも、腐っても最大野党の党首)として、そしてひとりの自転車乗りとして忌憚のない真摯な意見を聞かせてくれる、とまで期待するほどウブじゃないにしても、その片鱗くらいは話してるのかな、と思ったら、まぁ、自分だけ別席だし、言ってることはお茶を濁すようなキレイごとだし、まぁ、まったく期待外れっていうか、ちょっと見損なった感じもしつつ、同時に、他の参加者と並列で著者として名を連ねてることに不信感を感じたりもした。

一応、「会議」参加者の 4 人を整理しておくと、
疋田氏は「自転車ツーキニスト」(この呼び名はどうかと思うけど)として知られてて、自転車に関する著書も多い NPO 法人・自転車活用推進研究会の理事(本業は TBS のプロデューサー)で、勝間和代氏はウィキペディアによると「タレント、経済評論家、公認会計士、中央大学大学院戦略経営研究科客員教授」らしいんだけど、まぁ、気持ち悪いくらい(っつうか、実際、気持ち悪い。いろんな意味で)いろんなところで目にする人物。片山右京氏は元 F1 ドライヴァーであり、自転車の選手として活躍してる人物で、今中大介氏は(少なくとも、今の大会形式なってからは)初めてツール・ド・フランスに出場した、言わずと知れた日本の自転車ロード・レース界の第一人者。まぁ、メンツとしては、なかなかメジャー感があるというか、キャッチーなメンツではあると言えるのかな。良くも悪くも。

で、内容はというと、まぁ、タイトル通りって言えばそうなんだけど、「自転車好きが集まって自転車のハナシをしてるのをまとめた
」モノでしかない印象。「会議」っつうか「談義」的な。「じゃあ、結論として、こういう風にしましょう」的な具体的な提案とか提言みたいなモノって感じではないし。個別にはちょこちょこといいハナシもないわけじゃないけど、でも、「談義」というか、「雑談よりはちょっとマシ」くらいなところで留まってる感じで。まぁ、なるべくいろんな面を網羅しようって意図なんだろうけど、イマイチ論点も定まってないし。これが何か、「自転車好きの有名人が集まってあるべき自転車文化の確立のために何かのプロジェクトを進めてて、その企画の企画会議の第 1 回の議事録なんですけど、せっかくなんで見せちゃいます」的なハナシならわからなくもないけど、これで終了ってのは、あんまり建設的じゃないというか、すごく安直な印象は否めないかな。「とりあえずこのメンツが集まって、何時間か話せば本にできるでしょ」って感じというか(っていうか、実際にそうなってて、おそらく、本人たちの稼働は数時間+ゲラチェックくらいなはず)。

そう考えると、企画意図自体もナゾになってくるし。誰に読ませたいんだろう? って。自転車好きが読んで「だよねぇ」って同意して、(疑似)馴れ合いをする以外の目的がイメージできない。そうだとすれば、形態とか装丁とか違うと思うし、本気で考える気があるんだとしたら薄っぺらいないようだし、広い間口として考えてるなら書籍って形態なのはどうなの? って思うし。いろんな意味でナゾ。ついつい、「わりと楽に、わりと売れそうな本、作れちゃうんじゃね? ブームだし、いろいろキャッチーなキレイごと、言えそうだし、オイシくね?」って誰かが安易に考えたのかな、って勘ぐりたくなっちゃう。

あと、個人的な印象としては、自転車のハナシばっかだと、あんまり面白くない、って思っちゃったのも事実。まぁ、自転車の本だから当たり前って納得されがちな部分なんだけど、実は、それってちょっと違うと思ってて。何か上手く言えないけど、自転車のハナシばっかだと、すごくチマチマしたハナシに見え(聞こえ)ちゃう。自転車に限らず、いろんなことについて言えることだってすごく感じてるんだけど。音楽にしてもサッカーにしてもファッションにしてもそうだけど。他のモノといろんな角度から比較しつつ、ちょっと俯瞰した視点がないと、「馴れ合い」の域を超えないと言うか。もちろん、あるジャンルに以上に特化した「バカ」とか「オタク」のハナシは、それはそれで聞くに値するんだけど、この「会議」の参加者は、そういうタイプではないし、それぞれのジャンルでもっといろんな引き出しを持ってるはずなんで。それを活かせてないって意味では、「会議」の参加者ではなくて、まとめ方(=編集・出版サイド)の問題だと思うけど。

まぁ、細かい部分は、自転車好きとしては共感できる部分とか参考になる部分もあるし、自転車好きとして(疑似)馴れ合いは馴れ合いでそれなるに楽しめるし、文量とか文体を含めてすごくライトなんで、サクッと読めちゃうけど、「で?」的な読後感が微妙に気持ち悪かったりもする。ここから何かが始まる期待感とか、何はしないとヤバそうだっていう危機感とか、そういうモノが全然感じられないから。


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