マイケル・マイヤー 著 早良哲夫 訳(作品社) ★★★★☆
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前から興味があったテーマのひとつに冷戦があって、なるべく勉強するようにしてるんだけど、これはその中でもかなりド真ん中というか、ハズすことのできない '1989 年' という年について描いた一冊。著者は 1988 〜 1992 年という激動の時期に『ニューズウィーク』誌のドイツ〜東ヨーロッパ圏の支局長を務めていた人物で、ベルリンの壁が崩壊したときに東ベルリンにいた数少ない西側ジャーナリストでひとりで、西側の人間で最後にチャウシスクにインタヴューした人物でもある。これだけで、ほとんど反則っていうか、面白くないわけがないんだけど、実際に期待を裏切らない読み応えだった。
原書 "The Year That Changed the World: The Untold Story Behind the Fall of the Berlin Wall" が出版されたのは 2009 年。ちょうど、1989 年から 20 年後ってタイミングなんだけど、さすがに 20 年経ってるし、しかも、その 20 年間にいろいろなことが起こっているんで、いわゆる典型的な西側的な、っていうか、アメリカン人的な視点でハナにつくところがないわけではないけど、でも、まぁ、決して浮かれたテンションってわけでもないことが特徴かな。つまり、冷戦の '勝利' ってのは、本当に多くのアメリカ人が信じてるような '完勝' だったのか? って部分に、多少なりとも疑念を抱いてて、その疑念の根幹に何があるのかを確認するために、あらためて 1989 年に起こった出来事を検証してるって印象。まぁ、さすがに、そうならざるを得ないのが 1989 年の後の 20 年間だったんだと思うし、こういう風にキチンと検証するってことにはすごく価値があると思うし。
個人的には、1989 年っていえばちょうど高校生だったわけで、もちろん、リアルタイムで知ってるはずだし、それなりには分別もついてたはずなんだけど、やっぱり、こうやって読み直してみると、あまりにも当時の記憶とオーヴァーラップしないことに我ながらちょっとビックリする。自分の勉強不足だったのか、当時は(少なくとも田舎の高校生に伝わる程度に)キチンと報じられてなかったのか、それすら判断がつかないけど。まぁ、後から関連書籍とかドキュメンタリーとか多少は読んだり観たりはしてるんで、事実関係的には一応一通りは知ってるんだけど。でも、ここで描かれている '現場で起こってたこと' の微妙な駆け引きみたいなモノは、やっぱり現場にいた人間ならではの臨場感で、文量的にも内容的にも決して容易な内容ではないけど、わりと一気に読めちゃったかな。舞台はベルリンだけじゃなく、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、オーストリア、チェコスロバキア、そしてソ連と広範に渡ってるし、それぞれの国に主要な登場人物がいるんで、読んでて混乱しそうなところだけど、章ごとにわかりやすくテーマや国を整理されてて、でも、同時に相互の関連はキチンとまとめられてて。読み物としてもなかなか上手くまとめられてるから難しい印象を持たずに読めた。
もちろん、東ヨーロッパ各地での動きに関しては、まぁ、わりと穏やかに進んだところもあるし、そうじゃなかったところもあるし、かなり強かだったり、笑っちゃうような偶然があったり、「事実は小説より…」じゃないけど、単純に歴史としても劇的だし、当然、読み物としても面白い。それに、東側の人々の暮らしとか気持ちも、決して単純化できる感じじゃなかったこともよく伝わってくるし。東ドイツ(特にベルリン。そして、同時に西ドイツ)についてはわりと描かれることが多いけど、それ以外の国でも、やっぱり世代だったり職業だったり、いろいろな立場でいろいろな考え方や感じ方があったわけで。'歴史' になると、どうしてもそういう部分を端折って単純化されがちだけど、やっぱり、決してそんなことはないわけで。それに、もちろん、今のヨーロッパ全体を見る上では単なる '歴史' じゃなくて、現在にバッチリリアルにつながってるはずだし。この辺は、イマイチ実感を持ちにくいんだけど。残念ながらというか、勉強不足というか。
あと、同時に、特に '歴史' としてというよりも、'現在' につながる部分でいうと、それほどページ数が割かれてるわけではないけど、当時のアメリカ政府のトンチンカンな動きがなかなか興味深かったりもする。もちろん、「冷戦の '勝利' ってのは、本当に多くのアメリカ人が信じてるような '完勝' だったのか? って部分に、多少なりとも疑念を抱いて」るからこそって側面はあるんだろうけど。20 年経ってて、その間のさまざまなことを経た後だし。まぁ、そこはちょっと差し引いて読んでも、やっぱり、歴史はキチンと現在までつながってるんだってことは感じさせるし、そういう意味では全然 '歴史' じゃないことがよく解る。まぁ、言ってみれば、未だにその呪縛に囚われてるというか、それなり以上に大きなミスをしてて、大きなツケを払い続けてるってこと。しかも、それはアメリカだけの問題じゃないし(っつうか、もはや、アメリカだけの問題なんてあり得ないし。良くも悪くも)。
まぁ、ハードカバーで 300 ページ以上あるし、内容的にもわりと重いってのは事実なんで、決してライトな内容ではないけど、必要以上に 1945 年以降の歴史を語りすぎずに、あくまでも 1989 年に軸を置いたことですごくシンプルにまとまってて、この手の本にしてはかなり読みやすい本であることは間違いないかな。そういう意味では、原著ももちろんだけど、翻訳も素晴らしいのかも。まぁ、読み比べたわけじゃないから、あくまでも推測だけど。
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そういえば、これを読んでて思い出したのはスタイル・カウンシルの "Walls Come Tumbling Down" だったりする。ほとんど、数少ない、当時のリアルな記憶と結び付くイメージとして。まぁ、この曲はベルリンの壁について歌ってるわけじゃなくて、むしろ、ポーランドの '連帯' をイメージしてたんだった気がするけど(ビデオもワルシャワで撮られてるし)。リリースは 1985 年だし。でも、この時代に、こんなにオシャレなサウンドとルックスで、これだけラディカルでストレートなメッセージ("Governments crack and systems fall 'cause Unity is powerful / Lights go out - walls come tumbling down!" なんて歌ってるし)をポップ・ミュージックとして成立させてるポール・ウェラーってカッコイイなって当時も思ったし(そういえば、ブロウ・モンキーズがカーティスと共演してた "(Celebrate) The Day After You" もサッチャー退陣のことだったっけ?)、今、あらためて聴き直すと、なんか、こういうのって最近ないよなぁ、なんて思ったりもする。日本はもちろん、海外でも。こういう部分って、今、全然欠けてるよなぁ。
THE STYLE COUNCIL "Walls Come Tumbling Down"
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