2009/03/08

Power of photography.

『Coyote No.35 特集 ロバート・フランク はじまりのアメリカ』 
(スイッチ・パブリッシング Link(s): Amazon.co.jp

ちょっと前にニーナ・シモンの "Forever Young, Gifted & Black: Songs of Freedom and Spirit" のレビューの中でも触れた『coyote』の最新号の特集は言わずと知れたフォトグラファーのロバート・フランク。歴史的な名著の誉れ高い写真集 "The Americans" の出版から 50 年という節目を迎えたことを受けて、バラク・オバマの大統領就任を数日後に控えるというタイミングでもある 1 月 18 日から、ワシントン DC のナショナル・ギャラリー・オブ・アートでロバート・フランクが 50 年前に切り取ったアメリカを見つめ直す展覧会、'Looking In: Robert Frank's "The Americans" and Reading the Modern Photography Book: Changing Perceptions' が開催されているという。

今年で 50 周年といえば、もうひとつ、すぐに思い浮かぶのはキューバ革命。つまり、
"The Americans" が発行されたのは、そういう時代だったってこと。スイスからやってきた 30 歳のフォトグラファーがグッゲンハイム財団から奨励金を受けて、ライカを片手にアメリカ全土を移動しながらリアルな光景を切り取ったのが "The Americans" なんだけど、実際に撮影が行われたのは 1955 〜 1956 年で、アメリカン・モータリゼーションとロックンロールが花開き、第二次世界大戦後の世界を席巻したアメリカン・ドリームの時代。でも、同時に、キューバ革命に象徴されるように、後に激化する冷戦がワン & オンリーの世界的イシューになった時代でもあり、必ずしも能天気なだけじゃいられない激動の 60 年代の胎動が聞こえつつあった時代でもあったわけで、"The Americans" はそういう時代のリアルなアメリカを、外国人の視線で切り取ったドキュメンタリーのような作品だ、と

もちろん、何の予備知識を持たずに見ても、生々しいまでの強烈なインパクトを放ってるんだけど、そういう時代背景を頭に入れて "The Americans" を見直してみると全然違って見えるし、50 年経った今、アメリカで初めてアフロ・アメリカン(というか、有色人種)の大統領が誕生するまでの期間を鑑みつつ見てみてもメチャメチャリアルで、ファッションとか髪型とかグッズとか、細かいアイテムを見なければ今のアメリカだって言われても違和感がないくらい。作品自体ももちろんだけど、写真という表現形態の持つ力みたいなモノも強く感じる。

今回の特集では、展覧会のレセプションの様子からはじまって、1958 年にローバトと一緒に旅をした時のことを綴ったジャック・ケルアックの原稿、各界の著名人の "The Americans" 評(というか、それぞれのツボの紹介)、展覧会のキュレーター(1995 年に横浜美術館でも開催された 'Moving Out' も手掛けてる)のインタビュー、ドイツの出版社のシュナイデルが手掛けてるロバート・フランク・プロジェクト、ニーナ・シモンの "Forever Young, Gifted & Black: Songs of Freedom and Spirit" も含むピーター・バラカンが選ぶ "The Americans" のためのサウンドトラック等、多角的に展開されてて読み応えは十分。さらには、 "The Americans" の版違いのディティールの比較なんてマニアックな企画まであったりする。トリミングとかがビミョーに違ってたりして、ちょっと、ジャズのレコードの別テイクとかミックス違い / リ・マスタリングみたいな感じだったりして、まぁ、そこまで気にするか? って気がしないでもないけど、まぁ、そうしたくなる気持ちもわかったりするし、その価値があるとも思う。こういう風にキチンと見直すような展覧会を大規模にやることにもすごく価値があると思うし、そういうことができちゃうのは、やっぱりいい意味でアメリカの力だと思う。

個人的には、高校くらいのときにビートニクスにすごく興味を持ってた流れで、
"The Americans" のイントロダクションをジャック・ケルアックが書いてたから引っかかってチェックしたのが出会いだったんだけど、まぁ、ザ・ローリング・ストーンズの "Exile on the Main Street" を筆頭に、名盤のアートワークの写真を数多く手掛けてることは知ってたんで、どっちかっていうとそのイメージのほうが強くて、正直、純粋に写真集としてすぐにピンときたかっていうと、あまりよくわかんなかったところもあった。でも、その頃にムリして(カッコつけて?)買ったモノはたびたび見直すことがあったし、自分で写真を撮ることが楽しくなってきた今、あらためて見てみるとやっぱりインパクトは強烈だったりする。実は、持ってるのは今回の特集では触れられてない(スルーされてる?)日本語版だったりするんだけど。

あと、第 2 特集として掲載されてる「巨大な世界の小さな震え TWENTY AMERICANS」って記事もすごく面白い。2009 年 1 月という歴史的にもシンボリックなタイミングで "The Americans" の手法をなぞってみることで、知ってるようで、実はほとんど知らない本当のアメリカ(人)像を自分の目で確認しようって企画で、取材をしたのは NYC に 10 年以上在住してる佐久間裕美子さんという日本人女性ジャーナリスト。彼女のことはよく知らないんだけど、なかなか興味深い内容で、"The Americans" を通してアメリカを見直すのに際して、ちょっとコンテンツを分厚くしてるっていうか、過去と現在を結びつける脳内リンクみたいな役割を果たしてる。記事自体ももちろんだけど、雑誌全体の編集的にもすごくいいな、と。

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