2011/12/17

The art of the storytelling.

THE ROOTS "Undun" (Def Jam) ★★★★☆ 
Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp

'史上最高のヒップ・ホップ・バンド' として絶大な信頼を得ているだけでなく、もはや最も新しい 'リヴィング・レジェンド' と呼ぶに相応しい存在感すら放ちつつあるザ・ルーツ(THE ROOTS)の新作。初期の作品とかコラボレーション作品の数え方が難しいんだけど、通算で 10 作目のオリジナル・フル・アルバムってことでいいのか?

まぁ、結論を先に言っちゃうと、内容的にはメチャメチャディープでタイトで、同時にかなり意欲的なコンセプト・アルバムに仕上がってる。正直なところ、ザ・ルーツに関しては期待の初期設定値がかなり高いんだけど、そのラインは軽々と超えてる。相変わらず、まったく期待を裏切らない出来映えとしか言えない感じかな。

前作 "How I Got Over" から約 1 年半程度のインターヴァルでのリリースってことになるんだけど、その間も話題には事欠かなかったから、1 年半も経ってるって感じはあまりしないかな。ジミー・ファロン(JIMMY FALLON)がホストを務める TV 番組 "Late Night With JIMMY FALLON"(Link: Official)の専属バンドとしての活動を行ったり、いろいろなライヴ・イベントにも積極的に参加する傍ら、ジョン・レジェンド(JOHN LEGEND)とのコラボレーションによるソウル・クラシック・カヴァーアルバム "Wake Up!" っていう傑作をリリースしたし、最近も 1972 年の "Clean Up Woman" のヒットで知られる超ベテラン女性ソウル・シンガーのベティ・ライト(BETTY WRIGHT)のアルバム "Betty Wright: The Movie"(Links: Amzn)に全面参加したりしてたし。かなり精力的に活動してるんで、なんか、あまり話題が途切れることなく、気が付いたらあれよあれよという間に新作がリリースされたっていう印象。思わず、ヒップ・ホップ・シーンの 'ハーデスト・ワーキング・バンド' って呼びたくなるくらい。

この "Undun" の特徴としては、ザ・ルーツ初のコンセプト・アルバムだって点がまず挙げられる。海外のメディアには 'audio novel' なんて表現をしてるモノもあったりするし。これまでにも、例えば、名盤の誉れ高い 1999 年リリースの "Things Fall Apart"(Links: iTS / Amzn)とか、前作の "How I Got Over" なんかもわりとコンセプチュアルっていうか、全体が一定のトーンで保たれてた印象はあったんだけど、今回はより明確なコンセプト(っていうか、もはや 'ストーリー' って呼ぶべきかな?)があるとのこと。

具体的には、1974 年に生まれて 1999 年に若くして死亡したレッドフォード・スティーブンス(REDFORD STEPHENS)という実在の人物の短い生涯を遡るカタチで描いてて、曰く、映画や舞台、iPad アプリ等に展開することも想定した物語とのこと(具体的な計画ってことじゃないらしいけど。実は iPhone / iPad アプリケーションはリリースされてるんだけど、なぜか日本では未リリース)。実際に収録曲 4 曲をフィーチャーした、かなり凝った約 9 分のショート・フィルムも公開されてる。



The Roots - UNDUN from The Ghettonerd Company, LLC on Vimeo.


冒頭で表示されてるイントロダクションのテキストは以下の通り(訳文も一応付けてみた)。設定はこれだけでも十分に解る。

"undun is the story of this kid who becomes criminal, but he wasn't born criminal. He's not the nouveau exotic primitive bug-eyed gunrunner ... he's actually thoughtful and is neither victim nor hero. Just some kid who begins to order his world in a way that makes the most sense to him at a given moment ... At the end of the day ... isn't that what we all do?"
"undun" は、犯罪に走ってしまったものの、決して生粋のワルではない少年の物語だ。彼はヌーヴォー・エキゾチックで原始的で目が出っ張ったガンマンではなく…、実は思いやりがあり、犠牲者でも英雄でもないんだ。ただ、その時点で最もシックリくるカタチで自分なりに自分の周りの世界の秩序をなんとか維持しようとしてる若僧に過ぎないんだ。でも、それって、誰もがやってることなんじゃないか?

ここに写ってるのは 1990 年から 1999 年のシーンの断片なんだけど、ドラッグやら犯罪やらがあからさまなカタチで描かれてて、引用されてる言葉もマルコム X(MALCOLM X)の "Sometimes you have to pick the Gun up to put the Gun down." って言葉だったりして、全体のトーンはシリアス。なかなかヘヴィーな内容になってる。一般論として、実は個人的には PV ってあまり好きじゃないんだけど(本来、PV の善し悪しは曲自体の評価には何の関係もないのに、あたかも重要な要素のように語られがちな風潮がキライなんで)、ここまで作り込まれるともはや PV じゃなくてショート・フィルムって感じ出し、このくらい映像と音の親和性がある作品なら全然アリ(っつうか、やるならこれくらいやらないと意味がない気もするし、これこそが本来の意味での PV なんじゃね? って思ったりもするけど)。素直に、続きっていうか、ロング・ヴァージョンが観てみたいって思うし。

音楽的にも、映画のサウンドトラックやオリジナル・スコアっぽいところがあって、曲ごとに抑揚をつけながらひとつのストーリーがドラマチックに展開していくような構成になってる。最後に "Redford Suite" と題されたピアノやストリングスを全篇にフィーチャーしたビートレスの曲とかフリー・ジャズっぽいフリーキーなインストゥルメンタルが 4 曲収録されてたりするし。全篇で約 38 分ていうタイトな構成で、特定の曲を取り出しても機能するよりも、やっぱりアルバム全体を通して聴かれることを前提にした(最優先した)作りって感じかな(もちろん、それぞれの曲はキチンと個別の曲として成立してるんだけど)。ラップには 'ストーリーテリング' ってタイプの曲 / 表現があるけど、この "Undun" はアルバム全体でひとつの 'ストーリー・テリング' になってるっていうか。まぁ、それこそまさに典型的なコンセプト・アルバムってことだし、過去にもそういう 'いわゆるコンセプト・アルバム' の名盤ってのはいっぱいあったけど、コンセプト・アルバムとしても完成度はかなり高いし、かなり意欲作って言えるんじゃないかな。

それぞれの曲については、日本のレーベルの商品ページでわりと詳しく紹介されてるんでここではあまり触れないけど、サウンド面で印象的なのはやっぱりクエストラヴ(?UESTLOVE)のドラムかな。曲によって、物悲しいピアノの旋律が印象的だったりノイジーなギターをフィーチャーをしてたりストリングスとコーラスでドラマチックに聴かせたりと、わりとヴァリエーションに富んでる感じなんだけど、全体を通じてしっかり貫かれてるのはドラミングのタイトさと何とも言えない音色。まぁ、言ってみれば、クエストラヴのタイトなドラミングこそがザ・ルーツをザ・ルーツたらしてめてる最大の要素なんだと思うけど、今回もそんなクエストラヴのビートが堪能できる。

まぁ、全体として、かなり意欲的で完成度の高いコンセプト・アルバムってことは間違いない。実際のところ、他ならぬザ・ルーツだから、わりとすんなり、まるで当然みたいに受け止めちゃいがちだけと、でも、冷静に考えて、日本でこういう作品を作れるアーティストがいるかって考えると、コンセプト的にもクオリティ的にも、やっぱり全然思いつかなかったりするし。ヒップ・ホップに限らずに音楽シーン全体で考えても(っつうか、日本に限らずかも?)。そういう意味では、決して派手でキャッチーなアルバムではないし、決して '今の' メインストリームのヒップ・ホップって感じではないけど、すごく高く評価されていい作品に仕上がってる。


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