Link(s): Official Site / iTunes Store / Amazon.co.jp
前作を覚えてる人はどれくらいいるんだろ? って思っちゃうくらい懐かしい "Red Hot + Rio" の続編。そう、一時はかなりのペースでリリースされてた懐かしのコンピレーション・シリーズ、"Red Hot" シリーズのひとつで、ブラジル音楽をテーマにしたモノ。前作のリリースは 1996 年ってことなんで、15 年ぶりってことになるんだけど、まぁ、正直、その存在自体、スッカリ忘れてた(リリース当時はわりとよく聴いてたんだけど)。
存在自体も忘れてたくらいなんで、あまり期待せずに聴いてみた感じだったんだけど、コレが思いの外いい出来映えで。キチンとオリジナルのコンセプトとかカラーはキープしつつ、しっかり 2011 年ならではの内容にアップデートされてて。ちょっと嬉しい驚き。季節感的にも合ってるし、気が付いたら何度も聴いちゃってる感じ。やっぱり、コンセプト自体が面白いし、収録されてるアーティスト / 曲のセレクトもいいし、クオリティも高いし。高いレベルでバランスがいいコンピレーションに仕上がってるな、と。
"Red Hot" シリーズってのは、エイズ撲滅のための支援・啓蒙活動を行う NPO、レッド・ホット・オーガニゼーション(Red Hot Organization)がプロデュースしたコンピレーション・シリーズ。記憶では、1990 年代前半にかなりコンスタントにリリースされてて、個人的にも、全部ではないもののわりとチェックしてた印象で、今回、あらためてチェックしてみたら、 1990 年代を通じて、以下のようにいろんなコンセプト / 音楽性でリリースされてた。
- "Red Hot + Blue" (1990) Link: Amzn
- "Red Hot + Dance" (1992) Link: Amzn
- "No Alternative" (1993) Link: Amzn
- "Red Hot + Country" (1994) Link: / Amzn
- "Red Hot + Cool: Stolen Moments" (1994) Link: Amzn
- "Red Hot on Impulse" (1994) Links: Amzn
- "Red Hot + Bothered" (1995) Link: Amzn
- "Offbeat: A Red Hot Soundtrip" (1996) Link: Amzn
- "Red Hot + Rio" (1996) Link: Amzn
- "Nova Bossa: Red Hot On Verve" (1996) Link: Amzn
- "America Is Dying Slowly" (1996) Link: Amzn
- "Red Hot + Latin: Silencio = Muerte" (1997) Link: Amzn
- "Twentieth-Century Blues: The Songs of Noel Coward" (1998) Link: Amzn
- "Red Hot + Lisbon: Onda Sonora" (1998) Link: Amzn
- "Red Hot + Rhapsody" (1998) Link: Amzn
- "By George (& Ira): Red Hot on Gershwin" (1998) Links: Amzn
- "Optic Nerve" (1999)
- "Red Hot + Indigo" (2000)
- "Red Hot + Riot: The Music and Spirit of Fela Kuti" (2002) Links: iTS / Amzn
- "Dark Was The Night" (2009) Links: iTS / Amzn
こうしてあらためて見返してみると、なかなかの数。コール・ポーター(COLE PORTER)のカヴァー集で、全曲にヴィデオがあって、しかも、トム・ウェイツ(TOM WAITS)の曲をジム・ジャームッシュ(JIM JARMUSCH)が、デボラ・ハリー(DEBORAH HARRY)とイギー・ポップ(IGGY POP)の曲をアレックス・コックス(ALEX COX)が撮ってたりして話題になった第1弾の "Red Hot +Blue" とか、ダンス・ミュージックに特化して、アートワークにキース・ヘリング(KEITH HARING)のイラストレーションを使った "Red Hot + Dance" 辺りはリリース時にはけっこうインパクトがあったし。
その中で、個人的にハマったのは 1994 年リリースの "Red Hot + Cool: Stolen Moments" かな、やっぱり。内容的には、時期が時期だったせいもあって、もろにアシッド・ジャズ的な流れを汲んだモノで、言わずと知れたジャズ・レジェンドのドナルド・バード(DONALD BYRD)がグールー(GURU)とロニー・ジョーダン(RONNY JORDAN)と共演してたり、ロイ・エアーズ(ROY AYERS)がザ・ルーツ(THE ROOTS)と共演してたりする感じ。あと、"Red Hot + Cool: Stolen Moments" でジャズを現代的な解釈を提示しつつ、ジャズの名門として知られるインパルス(Impulse)・レーベルの音源を集めた "Red Hot on Impulse" を同時にリリースする感じも面白かったし。過去の名作を知らずに新しいモノだけを '新しい' という理由で面白がる(不勉強な)傾向も、新しいモノを頭から無視して過去の名作だけを無闇にありがたがる風潮も、どちらもどうかと思ってし、単純に過去のジャズに興味津々だった(でも、どこから手を付けていいかわからなかった)リスナーとしてはありがたかったし。
他にも、アブストラクト〜エクスペリメンタル系の "Offbeat: A Red Hot Soundtrip" とか、ヒップ・ホップの "America Is Dying Slowly" もけっこう愛聴したかな。あと、ちょっと時期は後だけど、2002 年リリースの "Red Hot + Riot: The Music and Spirit of Fela Kuti" もかなり好きだった 1 枚。アフロ・ビートの帝王、フェラ・クティ(FELA KUTI)へのトリビュート企画なんだけど、タリブ・クウェリ(TALIB KWELI)、コモン(COMMON)、ディアンジェロ(D'ANGELO)、シャーデー(SADE)、バグズ・イン・ジ・アティック(BUGZ IN THE ATTIC)、そして、もちろんフェラ・クティの息子のフェミ・クティ(FEMI KUTI)等、かなり魅力的なメンツが揃ってて、内容も聴き応えも十分で。
"Red Hot + Rio" (1996) |
例えば、エヴリシング・バット・ザ・ガール(EVERYTHING BUT THE GIRL)の "Corcovado" のカヴァーとか、アントニオ・カルロス・ジョビン(ANTONIO CARLOS JOBIM)とスティング(STING)のコラボレーションとか、他にも、カエターノ・ヴェローゾ(CAETANO VELOSO)、アストラッド・ジルベルト(ASTRUD GILBERTO)、ミルトン・ナシメント(MILTON NASCIMENTO)、ハービー・マン(HERBIE MANN)、マッド・プロフェッサー(MAD PROFESSOR)、マックスウェル(MAXWELL)、インコグニート(INCOGNITO)、マネー・マーク(MONEY MARK)、ステレオラヴ(STEREOLAB)、坂本龍一等、なかなかいい感じのメンツが揃ってる。
一応、リリース当時にチェックはしてたんだけど、当時はそれほどブラジル音楽を聴いてなかったせいもあって、それほどツボって感じじゃなかったんだけど、それでも普通に "Agua De Beber" とか "The Boy From Ipanema" とか "Desafinado" とか、ブラジル音楽の名曲中の名曲を変わったヴァージョンで聴けて楽しかったかな。ブラジル音楽にそれほど馴染んでなかったからこそ、それこそ、マッド・プロフェッサーの "Black Orpheus Dub" とか、変わった解釈のほうが楽しめたりもしたんだけど。
"Nova Bossa: Red Hot On Verve" (1996) |
* * * * *
で、15 年の時を経てリリースされたのが今回の "Red Hot + Rio 2" なんだけど、'ブラジルを軸に、時代と国境を越えて' って基本的なアイデアは前作と同様。アーティストのセレクトも、ブラジルのレジェンドももちろんいるし、新しいアーティストもいるし、ブラジル以外の国のアーティストもいるし、楽曲のハイブリッドな感じも含めて、いいサジ加減に仕上がってる。
例えば、カエターノ・ヴェローゾの曲をプレフューズ 73(PREFUSE 73)ことギレルモ・スコット・ヘレン(GUILLERMO SCOTT HERREN)がリミックスしてたり、ジョイス(JOYCE)が名盤 "Visions Of Dawn" 収録の名曲 "Banana" をマッドリブ(MADLIB)と一緒にセルフ・リメイクしてたり、ベック(BECK)とセウ・ジョルジ(SEU JORGE)のコラボレーションをマリオ C(MARIO C)がリミックスしてたり、なかなか興味深いメンツだし、仕上がりもバッチリ。
他にも、ジョン・レジェンド(JOHN LEGEND)がオシャレにブラジリアン・フレイヴァーで歌ってたりするし、トン・ゼー(TOM ZE)とかリタ・リー(RITA LEE)とかセウ(CéU)とかマネー・マークとかアロー・ブラック(ALOE BLACC)とか、個人的に好きなアーティストも多かったりするし。もちろん、ある意味、すごく "Red Hot" っぽい感じがするデイヴィッド・バーン(DAVID BYRNE)とカエターノ・ヴェローゾのコラボレーションなんかも収録されてたり。
あと、ポイントとしては、前作はボサ・ノヴァだったコンセプトが、今回は 'トロピカリアへの現代的なトリビュート' である点がある。これまでにも何度か触れてるけど、'トロピカリア'('トロピカリズモ / tropicalismo' って呼ばれることもある)ってのは 1960 年代後半に起こったカルチャー・ムーヴメントで、欧米の文化的な束縛から脱して「熱帯に住む者の文化のオリジナリティ」を謳ったブラジル独自の文化の創造を目指したもの。このムーヴメントの、特に音楽面については、カルロス・カラードの『トロピカリア』(Link: Amzn)とクリストファー・ダンの『トロピカーリア ー ブラジル音楽を変革した文化ムーヴメント』(Link: Amzn)で詳しく紹介されているし、その名も "Tropicália" ってコンピレーション(Links: iTS / Amzn)もリリースされてるけど、1960 年代に世界中で同時多発的に起こった多くのムーヴメントがそうであるように、トロピカリアも音楽だけではなく、アートや思想などを含む総合的なムーヴメントとしてすごく興味深いし、個人的にはわりと熱心に本を読んだり音源をチェックしてみたりしてる。
時期的には、トロピカリアの動きはボサ・ノヴァの後で、ある種、ボサ・ノヴァ(とそれを成立させた時代背景)へのカウンター的な側面もあったりして、イギリスやアメリカでもそうだったように、この時期のカルチャー・ムーヴメントは現在のカルチャーにまで大きな影響力を及ぼしてる。音楽面では、何年か前にイギリスのソウル・ジャズ・レコーズ(Soul Jazz Records)もトロピカリアをテーマにしたコンピレーションをリリースしててこれがなかなか素晴らしい出来映えだったり、アート面では日本で 3 年前に「ネオ・トロピカリア:ブラジルの創造力」なんて展覧会が開かれてたりとか(公式カタログも書籍として発売された)、国内外でちょっとした再評価的な動きもあったりするし。そういう意味でも、わりといい流れというか、自然で面白いコンセプトかな、と。もちろん、メントや内容も 'トロピカリアへの現代的なトリビュート' に相応しい、他の国では決して生まれ得ないハイブリッドで面白い仕上がりだし(オフィシャル・サイトにも主要なアルバム等の資料が紹介されてて、なかなか親切。特に、そこで紹介されてる "Brazil - The Tropicalist Revolution" は YouTube で観れる)。
まぁ、曲数の多いコンピレーションで、ジャンルがある程度幅広いんで、もちろん、全部が好きってわけじゃないんだけど、個人的な好みで言うと、ダサいロックとか、苦手なタイプのサウンドが少ない印象。だから、気が付いたら何度も聴いちゃってるんだけど。あと、全然、期待してなかった(存在自体を忘れてたくらいなんで)せいもあって、嬉しい驚きだったし、季節感も相俟って、かなり気に入ってる。
"Red Hot + Rio 2" (E1 Entertainment / Red Hot Organization) ★★★★☆
Link(s): Official Site / iTunes Store / Amazon.co.jp
収録アーティスト / 楽曲は以下の通りで、下のリンクに 1 曲だけ無料ダウンロードできる曲が用意されてて、他の曲も下のプレーヤーで約 45 秒ずつプレヴュー可能。
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