2010/02/28

The dawn of the possibility.

『機動戦士ガンダム UC episode 1 ユニコーンの日』
 矢立肇・富野由悠季 原作 古橋 一浩 監督バンダイビジュアル)  
 Link(s): Amazon.co.jp (DVD / Blu-ray) / Rakuten (DVD / Blu-ray)  

前から何度レヴューしてる福井晴敏による書き下ろしの小説を原作とした機動戦士ガンダム UC」のアニメ版の第 1 話。アニメ版は 1 話 50 分 x 全 6 話で構成されることになってて、この第 1 話「ユニコーンの日」は 3 月 12 日に DVD とブルーレイで発売されるんで、一応、カテゴリー的には OVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)ってことになる。

発売に先駆けて劇場でプレミア公開されたのを観たんで、あんまり OVA って感じがあまりしないけど。半月以上早く観れるのに見逃す手はないな、と。2 月 20 日から限定公開されてて(公開されてる劇場についてはこちらを参照)、できれば初日に行きたかったくらいだけど、まぁ、都合がつかなくて数日遅れでやっと観ることができた。

もともと機動戦士ガンダム UC」は、『終戦のローレライ』や『亡国のイージス 上巻 / 同 下巻』等で知られる小説家・福井晴敏による書き下ろしのガンダムの最新シリーズ。(オフィシャルにそうアナウンスされたわけじゃないけど)ガンダム 30 周年のタイミングに合わせてガンダム専門の月刊コミック誌『ガンダム A(エース)』で 2007 年から 2009 年まで連載されてた小説で、ことあるごとに「ガンダムは義務教育だった」とのたまい、『∀ガンダム』のノベライズ(『月に繭 地には果実 上巻 / 同 中巻 / 同 下巻』)も手掛けた「ガンダム世代」の福井氏が、自身と同じガンダム世代の「オトナ」に向けて書いた作品で、過去のガンダムのイディオムみたいなモノが随所に散りばめながら、それなりに(でも、決して十分ではない)社会経験や分別があるオトナだからこそわかる、オトナになってもガンダムを観続けてるようなオトナだからこそグッとくるような濃厚な内容を特徴としてる。長編の多い福井氏にして自身最長だという全 10 巻の壮大な大作に仕上がってる。

タイトルに「UC」ってある通り、舞台は宇宙世紀(Universal Century)で(同時に、「UC」はメインのモビルスーツである「ユニコーン・ガンダム」の「ユニコーン」の略称の「UC」でもある)、メインとなるのは映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』 後の時代となる UC0096 年なんだけど、その根底に広がる宇宙世紀元年以降の人類の歴史を広くカバーするカタチで描かれてる。世界が宇宙世紀を迎える際にこめられた「祈り」であり、同時に、後に世界を揺るがしかねない 「呪い」となった「モノ」を巡って繰り広げられる、複数の勢力の間にまたがった抗争に巻き込まれながら、多くの邂逅と別離を経て、主人公だけでなく、それぞれのキャラクターが成長し、それぞれが自らが取るべき行動を見定めていく。その行動の先には、UC0100 年を迎えようとしている人類の未来、そして「ニュータイプ」という人類の希望にも呪縛にもなり得る概念がある。「ニュータイプ」というガンダムを構成する上で不可欠な、でも、同時に、最も厄介な(そうであるが故に、避けて通ってる作品も少なくない)要素に真っ向から取り組み、ひとつの考え方を提示しながら、宇宙世紀という時代全体を網羅するような物語は、まさに壮大な宇宙世紀絵巻と呼ぶに相応しい(中心となるのは、1 ヶ月程度のハナシなんだけど)。具体的には、ファースト・ガンダムはもちろん、ZZZ(!)、そして『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(さらには『第 08MS 小隊』と『0080 ポケットの中の戦争』と『0083 STARDUST MEMORY』、もっと言えば『MS IGLOO』も)の世界観までカバーしてるんで、ガンダム・ リテラシーが高ければ高いほど楽しめるし、それまでのガンダムに登場してたキャラクターや台詞、設定なんかも要所で出てくるから、オールド・ファンでも楽しみやすい。もちろん、個々のキャラクターや設定に関する描写も緻密だし、それぞれの立場にそれぞれの事情とそれぞれの正義があることもキチンと描かれてる。 

すっかり長くなったけど、ここまでが機動戦士ガンダム UC」の概略で、今回のアニメ版は福井晴敏の小説を原作に、古橋一浩監督がアニメ化したモノ。実は、これまた 2 月 26 日 24:00 までの期間限定でバンダイチャンネル内のページで冒頭の 7 分が視聴できたんだけど、この 7 分間の映像、特にクシャトリアの圧倒的な存在感を見せられただけで十分期待させたんだけど、実際に約 1 時間の映像はまったく期待を裏切らない出来映えだった。見せるべきところはキチンて手を抜かずに見せてて、すごく信頼できる映像作りって印象で。監督に関しては何の基礎知識もないんだけど、安心して観られそうな感じ

原作の小説はあくまでも原作で、全 10 巻に及ぶ小説をそのままで約 6 時間って尺の映像化ができるわけはないんで、当然、一番気になったポイントは、アニメ化に際して原作にどのような変更を加えたかってこと。「加えた」っていうと追加したみたいに感じるけど、実際には大幅に省く必要があるのは明らかなわけで。『ガンダム A』の最新号に載ってたインタビューによると、アニメ版のストーリーにも関わってる福井晴敏は「削る」というよりは「濃縮」したって言い方をしてるんだけど、実際に観た印象は、ただ削るだけじゃなく、設定やストーリーに細かい変更を加えつつ「圧縮」したって感じ。その分、より濃密に、より展開がスピーディになった印象で、60 分がすごく長く感じつつ、同時に、あっという間だったっていう印象もあって。見終わった後は、なんか、そんな相反する印象が共存するような不思議な感覚だった。まぁ、ネタバレになるんで具体的な変更点には触れないけど。

ただ、「より展開がスピーディになった印象で」、「あっという間だったっていう印象」ってのは事実で、事前に入念に小説版で予習をして観た印象がこうなんだから、小説版を読まずに観てキチンと理解できるのかっていうと、ちょっと微妙な感じもなきにしもあらず。まぁ、個人的には、小説版を読まずにいるヤツの気持ちは全く理解できないんで、どうでもいいって言えばどうでもいいんだけど。

キャラクター作りとか音楽とか、重厚な作りになっているし、全体としての印象として大満足で、続きが楽しみで仕方ないんだけど、なんと「episode 2 赤い彗星」の公開は秋ってことらしいんで、このペースでいくと完結まで 2 〜 3 年かかる見通しってになる。正直、半年に 1 本ってのは長いなぁ、とは思いつつも、慌てて作って手を抜かれても困るんで、まぁ、楽しみにしてるしかないかな、と。やっぱり、今後も「削りどころ」っていうか、「圧縮の仕方」がすごく気にはなるけど(いい意味でも、悪い意味でも)。
POSSIBILITY

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