2011/12/01

Down on earth.

『機動戦士ガンダム UC episode 4 重力の井戸の底で』
 矢立肇・富野由悠季 原作 古橋 一浩 監督 (バンダイビジュアル) ★★★★☆  

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前から何度もレヴューしてる福井晴敏による書き下ろしの小説を原作としたアニメーション版「機動戦士ガンダム UC」の第 4 話。4 月に発売された第 3 話「ラプラスの亡霊」の続きで、全 6 話の予定だからこれで 2/3 を消化したことになる。

DVD の発売は 12 月に入ってからだったんでレヴューしてなかったんだけど、これまでと同じように DVD 発売に先駆けて映画館で行われたプレミア公開で観た。

機動戦士ガンダム UC の概略については第 1 話「ユニコーンの日」のレヴューに詳しく書いたから省くけど、第 3 話「ラプラスの亡霊」の最後のシーン(っつうか、ほぼエンディング・クレジット)で描かれてた通り、第 4 話の舞台はタイトルにもなってる '重力の井戸の底' と呼ばれている地球。宇宙で始まって地球に舞台が移るってのはガンダム・シリーズの王道なんで、その王道に沿った展開って言える(そして、その後は当然、もう一度…って展開になる)。

第 1 話「ユニコーンの日」のレヴューにも書いた通り、原作の小説版を既に読み終えているんで、当然、原作との比較をしながら観てる感じなんだけど、この第 4 話の第一印象は「派手でトリッキー」+「サーヴィス満点」って感じかな。いろんな意味で。

あまりネタバレ的なことを書くのは相応しくないと思うけど、やっぱり、この第 4 話に関して気になってたポイントとして、ロンド・ベル司令として登場するブライト・ノアについてがある。なぜなら、声優を務めてきた鈴置洋孝氏が 2006 年 8 月に 56 歳の若さで逝去しているから。その後、制作されたゲーム等では、基本的に過去のライブラリーで凌いできたんだけど、さすがに完全新作の機動戦士ガンダム UC ではそうもいかないわけで。

ファースト・ガンダムが制作されたのは30 年以上前であるにも関わらず、今でもこうして新作アニメーションやゲーム等が作られているわけで(それこそがガンダムのすごさでもある)、当然、こういう事態は今後も出てくることは容易に想定される(特に安彦良和先生の『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は心配)し、そういう意味では、今後のガンダム・シリーズ(特にファースト・ガンダムの世界観やキャラクターが登場する宇宙世紀モノ)の在り方を考える上でも、今回のブライト・ノアの件はひとつの試金石になるとも言えるし。

もちろん、いろいろな理由(主に声優の死)でオリジナルの声優が変更されたケースは、ガンダム以外にもいくつもある(例えば、ルパン三世とかドラえもんとか)んだけど、上手くいったケースもあれば失敗してるケースもあって、しかも、失敗はけっこう大きなダメージになってる印象があって。実は、案外、簡単なことじゃないし、でも、けっこう重要な問題だったりもする。

で、肝心の、成田剣氏が演じた今回のブライト・ノアだけど、結論としては成功って印象かな。もちろん、意識して聞けば鈴置洋孝氏とは明らかに違うけど、雰囲気というか、存在感はしっかりとブライトな印象で、流れの中で観てる限り、いい意味で違和感はない。安易にそっくりさん的なキャスティングをせずに、ブライト・ノアってキャラクターを考えた上でキャスティングしてる点も好感が持てるし。まぁ、強いて懸念を挙げると、成田剣氏も若くはないって点があるけど。既に芸歴 20 年を超えるベテランらしいんだけど、今後のことを長いスパンで考えるとなるべく若い人にしといたほうがよかったかも? なんて思わなくもない(ちょっと考えすぎな気もするけど)。だた、まぁ、気になった点はそれくらいで、基本的には上手く、違和感なく声優を変更できちゃった印象かな。

まぁ、成功の理由として、そもそも機動戦士ガンダム UC においてブライト・ノアの役割自体がそれほど大きな比重を占めてないって点も大きいんだけど(主に登場時間的な意味で。役割的には、実はわりと重要なロールを演じてるんで)。もともと、原作者の福井晴敏自身が無類のガンダム好きであり、機動戦士ガンダム UC はまず第一に福井晴敏と同年代の 'ガンダム世代' をターゲットに描かれた(=大人になった 'ガンダム世代' でも納得できて楽しめる)作品で、随所にオールド・ファン向けの、ある種のサーヴィスがちりばめられてて、ファースト・ガンダムだけでなく、その後の『機動戦士 Z ガンダム』〜『機動戦士ガンダム ZZ』〜『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』まで含めて、観てれば観てるほど楽しめるような仕掛けが密か且つ自然にたくさんちりばめられてることが特徴のひとつだったりして、言ってみれば、ブライト・ノアの登場もサーヴィスのひとつで、でも、逆に言えば、そのひとつでしかないわけで。

で、肝心のストーリーはというと、実は、アニメーション版「機動戦士ガンダム UC」シリーズの中では一番、原作の省略・改変が大きいハナシになっているかな。まぁ、冷静に原作の全体と約 6 時間って尺を考えると、少なくとも一ヶ所は何処かで '大ナタ' を振るわないと厳しいなとは思ってたんだけど(そうしないと、ただ全体を早送りで観てるような、'約 6 時間の予告編' 的なテンションになっちゃうと思うんで)、その '大ナタ' を振るった場所が第 4 話になった感じ。

その結果、印象深いエピソードがわりとたくさん削られちゃってて、ちょっと性急な印象はなくはないけど(まぁ、個人的にすごく好きなダイナーでのシーンが削られてなくて良かったけど)、でも、逆に言うと、これまでと同様、息をつかせぬ展開でもあって、約 1 時間が濃密に、アッという間に過ぎてくし、観終えると、ある種の心地良い疲労感があってりもして。上に、第一印象は「派手でトリッキー」+「サーヴィス満点」って書いたけど、その辺が「トリッキー」って第一印象につながってるのかな。

残りの、「派手で」と「サーヴィス満点」ってのは戦闘シーン。ネタバレになるから詳しくは書かないけど、これまでのシリーズ中ではもっとも派手でサーヴィス満点な戦闘シーンって言える。地上戦ってのも燃えるし、あっと驚くモビルスーツやモビルアーマーも出てくるし、一回観ただけじゃいろいろ観逃しちゃってる点がたくさんあるくらい、サーヴィス満点な感じ。

残り 2 話で完結することになるんだけど、今回、'大ナタ' を振るったおかげで、今後はわりとオーソドックスに展開できるじゃないかな? 第 5 話は春公開予定なんで、また、数ヶ月待たされるのはシンドイけど、まぁ、やっぱり同時に楽しみでもあるかな。


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