2009/10/24

So classical. So futuristic.

"4HERO Presents Extensions" Various Artists (Raw Canvas) 

4 ヒーローの主宰するレーベル、ロウ・キャンバスのニュー・リリースは、なんと 4 ヒーローのカヴァー・アルバム。まぁ、「4 ヒーローのカヴァー・アルバム」って言われると、「4 ヒーローがいろんなアーティストの曲をカヴァーしたモノ」みたいに思われそうだけど(しかも、それはそれですごく良さそうだし。これまでにも、ミニー・リパートンの "Les Fleur" とかロイ・エアーズの "2000Black" とか、秀逸なカヴァーが多いんで)、今回はそうではなくて、逆の企画。つまり、「4 ヒーローがカヴァーされる側」で、いろんなアーティストが 4 ヒーローの曲をカヴァーしてる、と。まぁ、それをカヴァーされる側の 4 ヒーローが自らイニシアチブをとって制作してるってのは、この手の企画としてはちょっと珍しいとは思うけど、企画としてはすごく面白い。普通ならリミックス・アルバムになりそうなもんだけど、あえてカヴァー。曰く、「1 ファイルも渡してない」んだと。まぁ、もちろん、企画だけじゃなくて、作品としての出来自体も素晴らしいんだけど。

4 ヒーローは 90 年代の中頃から活躍してるディーゴマーク・マックの 2 人組プロデューサー・ユニット。 90 年代中頃にレイヴ・シーンで生まれたハードコア・ブレイクビーツをジャングル〜ドラムンベースってアート・フォームに昇華させたドラムンベースのパイオニアのひとり。90 年代末頃以降はドラムンベースってフォーマットにこだわらずに、より音楽的でフリー・フォームなサウンドを指向しつつ、それぞれソロとしてもヒップ・ホップやデトロイト・マナーのテクノ、ジャズ、ブロークン・ビーツ等、さまざまなスタイルで優れた作品をコンスタントにリリースしてて、 UK クラブ・ミュージック / UK ブラック・ミュージック・シーンを牽引してきた実力派のアーティストとして日本での評価・人気も高い。

今回のアルバムでカヴァーされてるのは、トーキング・ラウドから 1998 年にリリースされたサード・アルバムの "Two Pages" と 2001 年リリースの 4 作目の "Creating Patterns" の 2 枚と、2007 年にロウ・キャンバスからリリースした 5 作目の "Play with the Changes" に収録されてる曲(厳密には "Universal Love" は、もともとは 1995 年リリースのセカンド・アルバム "Parallel Universe" 収録曲で、"Two Pages" で再演されてる)で、参加アーティストは、ジャザノヴァが主宰するソナー・コレクティヴ・クルーによるソナー・コレクティヴ・オーケストラ、トゥルービー・トリオのメンバーとして知られてるクリスチャン・プロマー、4 ヒーローのアルバムのドラマーで、ホッパー名義でオリジナル作品もリリースしてるルーク・パークハウス、ジャズ系のシーンで人気のリ・ジャズ等、なかなかの実力派揃い。

サウンドは、ストリングスを全面にフィーチャーした流麗でゴージャスなサウンドから、ちょっとフリーキーでディープなフリー・ジャズっぽいアレンジ、さらに映画のスコアを思わせるようなちょっとクラシカルなサウンドまで、全体としてすごく洗練されてて美しい仕上がり。特に、名曲の誉れ高い "Universal Love" とか "Star Chasers" なんて、出来が悪いはずがないとは思いつつも、予想以上の素晴らしい出来映えで(オフィシャル・サイトで全曲視聴可能。YouTube で "Give In" の映像も観れる)。こういうカタチでリアレンジされたモノを聴いてると、個々のトラックのクオリティの高さだけじゃなくて、純粋に楽曲としての素晴らしさもあらためて実感できる。あと、すごくクラシカルなのに、同時にフューチャリスティックな感じもするのが、ちょっと不思議な感じ。もちろん、いい意味で。

ちなみに、4 ヒーロー自身が、実際のプロダクション / レコーディングの現場でもトータル・プロデューサー的な役割を果たしたらしいんで、そういう意味でも、単なるリミックス・アルバムとかカヴァー・アルバムとは一線を画してるって言えるのかな。たぶん、イニシアチブをとってるのはマークだと思うけど。こういう、流麗でゴージャスなアレンジはマークが得意なんで。4 ヒーローって、ダウンタウンみたいなところがあって、それぞれの個性も違ってて、けっこう別々に活動してることが多いんだけど、今回の企画に関しては、完全にマークの仕事っぽいんで。

カヴァーというと、ちょっと前にレヴューした "Tru Thoughts Covers" も良かったけど、この "4HERO Presents Extensions" も相当ヤバイ仕上がり。印象としては、カルロス・ニーノとミゲル・アットウッド・ファーガソンの "Suite For Ma Dukes" に近いかな。そのくらいのクオリティの高さ。"Suite For Ma Dukes" もそうだけど、あくまでも「踊ること」を第一の目的として制作されることが宿命づけられてると言っていいクラブ・ミュージックをベースとして生まれながら、これほど美しくて高い音楽性にまで昇華されるような作品が生まれるようになったってことも、ちょっと感慨深かったりもするし。

* SONAR KOLLEKTIV ORCHESTER "Universal Love" (From "4HERO Presents Extensions")









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