2010/03/08

Inspirations compilation.

COURRiER Japon 2010 年 3 月号』(講談社)  
 Link(s): Amazon.co.jp

発売からちょっと時間が経っちゃてるけど、これまでにも何度かレヴューしてる『COURRiER Japon』誌の最新号は、『ルポ 貧困大国 アメリカ』の著者としてすっかりお馴染みになったジャーナリストの堤未果さんの責任編集によるアメリカ特集。今月もなかなか読み応えのある内容になってる。

特集は、予想通りというか、予想以上というか、かなりヘヴィーな内容。フード・スタンプとか、経済的徴兵制とか。ただ、しっくりくる部分もたくさんあるけど、個人的には、ちょっとはポジティヴな側面みたいなモノも拾っててもいいのにって印象もあったりはするかな、正直なところ。まぁ、まったくないってことなのかもしれないけど。『ルポ 貧困大国 アメリカ』もそうだったし。

ただ、こういうのを読んで「アメリカ、ヤバくね?」なんて呑気に言ってられないのももちろん事実なわけで。日本についてこういう特集を組んだら、同じくらいヤバイモノになることは容易に想像がつくし。「人の振り見て…」じゃないけど、外を見ることによって中が見えてくるし、海外を見る(知る)ことは、すべからく自分(の国)のことを知ることだったりするわけで。こういう感覚がどんどん軽視されてるような昨今の風潮には強く懸念を感じてたりするだけに、こういうメディアの存在は貴重だなと思ったりもする。

まぁ、日本もそうだし、アメリカもそうだけど、やっぱり 'change' は難しい。っていうか、どうも、なんか、みんな、早急に成果を求めすぎな、簡単に言っちゃえば「慌てすぎ」な感じがする。個人的には、そんなに簡単じゃないよなぁって思うんだけど。もちろん、急がなきゃな課題もたくさんあるけど、でも、何もかもが短期間で劇的に変わるってのは、少なくとも平時の民主主義下ではかなり難しいってなんでみんな思えないんだろう? 軍事革命でも起こった気でいるのか? 小さな 'change' の積み重ねを見ずに、短期的な大きい 'change' を求めるには、それ相応のリスクが要るはずだから。

ハナシはちょっと変わるけど、毎号レヴューをしてるわけじゃないけど、実は『COURRiER Japon』はけっこう前からずっと愛読してる雑誌のひとつで、最近、特にキレキレになってきてる印象。個人的には、今月号のように誰かを責任編集者に立てたときの特集がわりとツボで(例えば、宮沢和史責任編集のブラジル特集号とか)、「コレって何かに似てるなぁ」って思ってたんだけど、ようするにコンピレーションなんだなってことに気が付いた。

つまり、"Gilles Peterson in Brazil" がジャイルス・ピーターソンがコンパイルしたブラジル音楽のコンピレーションであるように、今月号の『COURRiER Japon』は堤未果さんがコンパイルしたアメリカのニュースのコンピレーションだ、と。テーマが「ブラジル音楽」って言っても、もちろんブラジル音楽にはいろいろなブラジル音楽があって、編纂者がジャイルスだからこそジャイルスらしい内容になると同じように、堤未果さんが「アメリカ」ってテーマで 2010 年にニュースを編纂するとこういう内容になる、と。

コンピレーションってのは、オリジナル・アルバムとは違った味わいとか意義があるフォーマットで、そこで重要になるのは造詣の深さと編集能力なわけで、情報量が過剰になっている時代だからこそ、ある意味、今まで以上に重要になってきてる気がするんだけど、それをニュースって題材で雑誌ってフォーマットで上手いカタチでやるとすごく面白いってことが、『COURRiER Japon』を読んでるとよく解る。もちろん、特定の編纂者を立てなくても面白いんだけど、「これ!」ってテーマで特定の編纂者を立てることでより内容が濃くなるし、編集方針も徹底されるし。それに、音楽のコンピレーションと同様に、ここをキッカケに '掘って' いくこともできる。

あと、『COURRiER Japon』は iPhone 用のアプリケーション(有料版無料版)もかなり早い時期から出してて、これもなかなか興味深い。いい意味でも悪い意味でも。アプリケーション自体はなかなか頑張ってるんだけど、これだけの情報量(文章量)を iPhone の画面サイズで読ませるのはけっこうキツイと思っちゃうのもまた事実だったりして。いろいろと考えさせられる。現状ではリアル雑誌(変な呼び方だ!)に軍配が上がるかな。そうは言っても、雑誌のタイプが違えばまた違ってくるだろうし、iPad のこととかも当然想定に入ってくるわけで、いろんな意味ですごく興味深いことは事実。'THIS DAY OF CHANGE' にまつわる一連の動き(雑誌写真集写真展)も含めて、最近の『COURRiER Japon』はすごくいい感じな気がする。

ただ、『COURRiER Japon』のツイッター・アカウントで、オリンピックで現地からやたらと実況ツイートしてたのは心底ウザかったけど。何かの嫌がらせかと思った。せめてアカウント分けてやるとかすればいいのに。スポーツ・メディアでも通信社でもない『COURRiER Japon』がわざわざやる意味解んないし、メディアの特性を理解してないとしか思えない。むしろ、オリンピックなんて前時代的イベントの意義を問うことこそ『COURRiER Japon』みたいなメディアには求めたいのに。これだけは超ガッカリ。


LAURYN HILL "A Change Is Gonna Come [Acoustic Version]"







普通が何だか気付けよ、人間。

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