2009/07/17

Minimally fat.

砂原 良徳 "LOVEBEAT"(Ki/oon Records)  
Link(s): Amazon.co.jp

本屋でウロウロしてたら『サウンド & レコーディング』誌の最新号の表紙が砂原良徳で、思わず立ち読みしたら(ちなみに、よく読む雑誌だったりします。音楽誌の中ではかなり好きかも。人には勧めにくいけど。マニアックなんで)、なんと、今月末に新譜が出る(もちろん、だから取材を受けてるんだけど。映画サウンドトラックらしい。映画自体にはあまり興味はないけど)らしく、それはそれですごく楽しみなんだけど、この "LOVEBEAT" 以来だってことで、あらためてちょっとビックリ(まぁ、ベスト盤は出してたけど)。まぁ、新譜は未聴なんですごく楽しみなんだけど、この "LOVEBEAT" は個人的にはクラシック中のクラシックな 1 枚なんで、いい機会だからここでレヴューしとこうかな、と。

'まりん' こと砂原良徳は電気グルーヴの元メンバーで、電気グルーヴ在籍時に 1995 年リリースの "CROSSOVER"(Link: Amzn)、1998 年リリースの "TAKE OFF AND LANDING"(Link: Amzn)、1998年リリースの "THE SOUND OF 70s"(Link: Amzn)の 3 枚のソロ・アルバムを出してるプロデューサー。電気グルーヴ自体にはそれほどハマった経験はないんで、電気グルーヴの中での役割についてはそれほど詳しくないけど、石野卓球・ピエール瀧っていう目立つキャラクター 2 人の影に(自ら望んで)隠れつつ、電気グルーヴのサウンドを支えてた裏方気質のアーティストって印象が強かったかな。

"CROSSOVER"・"TAKE OFF AND LANDING"・"THE SOUND OF 70s" の 3 枚はそれぞれリアルタイムで聴いてたけど、やっぱりそれほどハマらなかった。基本的には電子音楽というか、まぁ、広い意味でエレクトロニカなんだけど、わりとラウンジっぽい雰囲気もあって、別に出来が悪かったわけでは全然ないし、サウンドも面白くてセンスも抜群なんだけど、本人のキャラクターの印象も相まってか、なんか軽いっていうか、小手先でチマチマやってる感みたいなモノを感じちゃって。イマイチ、「芯」みたいなモノを感じないサウンドだなぁ、って印象で。

そんなイメージを見事に覆してくれたのがこの "LOVEBEAT"。電気グルーヴ脱退後、初となる 4 枚目のアルバムで 2001 年にリリースされたモノなんだけど、スゲェ骨太なアルバムでビックリした。少ない音数で、それぞれの音のインパクトが強くて(別にうるさいって意味じゃなく、存在感があるってこと)、ひとつひとつの音の鳴りがすごく美しくて。不必要なモノを削ぎ落として、残ったモノのひとつひとつの純度を極限まで高めたようなサウンド。筋肉質だけどムヤミにマッチョなわけじゃなく、必要な筋肉だけがキチンとついてて、個々の筋肉の質が高く、結果としてすごく美しい格闘家の身体みたいな印象。音自体はメチャメチャファットでドープなんだけど、同時にすごくミニマルで。そんな印象とは最も遠いところにいるようなキャラクターなだけに、そんな意外性溢れる心地いいギャップとか、速すぎず遅すぎない絶妙な BPM(まぁ、ダンス・ミュージックとしては明らかに遅すぎだけど)とかも含めて、メチャメチャ好みで、すっかりヤラれちゃった。海外でもリリースされたけど、「禅(zen)」とかって言われちゃう気持ちもわからないではない。レイ・ハラカミさんほどメランコリックじゃないけど、そこがまた、ちょっと硬質な印象でいい感じだったりして。ハラカミさんとか DJ クラッシュさんとかからも似たようなことを感じたけど、どこか、すごく日本人らしいサウンドだなって思ったりもするし。

リリースから約 8 年経ってるけど、今、聴いても全然 OK。そもそも、ある時期を象徴する(≒その時期を過ぎると古くなる)ようなサウンドじゃないし。まぁ、サウンド的には昼間より夜な音ではあるけど、でも、季節を選ぶわけでも時代を選ぶわけでもないタイムレスなサウンド。ちょっと前にレヴューしたマックスウェルの "Embrya" とかスウィートバックの "Sweetback" と並んで、常に iPod / iPhone に入ってて、コンスタントに何度も聴いてるパーソナル・クラシック・アルバムの中のひとつ。新譜ももちろん、超楽しみ。


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