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2015/01/10

Art of building. Art of playing.

『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか』 ★★★★☆

 デビッド・C・ロバートソン / ビル・ブリーン 著 黒輪 篤嗣 訳(日本経済新聞出版社)

 Links: Amazon / Rakuten Books 


言わずと知れた世界的なおもちゃ / ブロック・ブランドのレゴ(LEGO / Link: website)に関する書籍で、2014年の春に出版されたモノ。原書は2013年に出版された "Brick by Brick: How LEGO Rewrote the Rules of Innovation and Conquered the Global Toy Industry"(Link: iTunes Store / Amazon / Rakuten Books)で、イノベーションや製品開発の研究を専門とするペンシルベニア大学の教授のデビッド・C・ロバートソン(David C. Robertson)とビジネス・メディアの『ファースト・カンパニー(First Company)』(Link: website)の創設メンバー / 編集主幹であるビル・ブリーン(Bill Breen)の共著。原書の「いかにレゴはイノベーションのルールを書き直し、世界の玩具産業を席巻したか」ってサブタイトルや著者2人の経歴だけでなく、訳書も「最高のブランドを支えるイノベーション7つの真理」なんてサブタイトルで日本経済新聞社から出版されていることから予想できるように、基本的にはレゴというブロックの楽しさや素晴らしさ、その革新性や普遍性等ではなく、企業としてのレゴの経歴や製品開発といったビジネス面にフォーカスが当てられてる。

特に多くのページが割かれてるのは、存続すら危ぶまれるような危機的状況に陥ったレゴがどのように業績を回復したかという部分で、そのためにどんな策を採ったのか、何が成功して何が失敗したのか、その成功と失敗の原因は何だったのか等といった点を、'イノベーション' って言葉をキーワードにしつつ、レゴという企業(ブランド)固有の要素と業種を問わない普遍的な要素を整理しながら、さまざまなビジネスのヒントや教訓になるように一般化して述べられてる。まぁ、いかにもアメリカの学者やビジネス業界の人間が書いたビジネス書って言ってしまえばまさにその通りなんで、個人的にはそれほど好きなタイプの本ではなかったんだけど、レゴっていう研究対象自体が魅力的だし、思ってた以上に大きな紆余曲折があったし、単にユーザーとして見てただけでは気付かなかった点も多かったんで、思ったよりも楽しんで読めちゃった印象かな。あと、新しい書籍なんで、あまり意識的にはチェックしてなかった21世紀に入って以降の動きが整理・アップデートされてる点も魅力のひとつって言える。

2012/08/16

A giant story. A giant vision.

『銀輪の巨人 ジャイアント』 野嶋 剛 著(東洋経済新報社) ★★★★☆ 
 Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books

これまでありそうでなくて、でも、前から読みたいと思ってたテーマをドンピシャで扱ってくれた書籍で、今年の 6 月に発売された。

「前から読みたいと思ってたテーマ」ってのは、タイトルであり、表紙に写真も載ってる台湾の自転車メーカー、ジャイアント(Giant / Official Website)について。自転車メーカーとしても、純粋にひとつのアジアの企業としても、何かと興味があって、でも、あまり目にすることがないテーマだったんで。自転車雑誌とかを熱心に読んだり、自転車に関する書籍をたくさん読めば触れられてないことはないのかもしれないけど。でも、少なくともちょこちょこと自転車関連の書籍や雑誌、ウェブサイトなんかを見てる限りは見かけたことはなかった。ただ、自転車にまつわるモノはこれまでにもたびたびレヴューしてきた通り、自転車は常に気になってるジャンルのひとつだし、自転車について気にしてれば、当然、ジャイアントは目に入るんで。

最近は日本でもすっかりお馴染みになったジャイアントは、その名の通り、世界の自転車産業の中でも屈指の '巨人' で、台湾の小さな工場として起業し、数十年の間に世界最大の自転車メーカーになったんだけど、特筆すべきはその規模的な成功だけではなく、それ以外にもいろいろ興味深い特徴がある。例えば、台湾の自転車産業は直近の 10 年で、輸出台数がほぼ同じでありながら総輸出額は約 3 倍増させてるんだけど、それを牽引してるジャイアントの業績は、1999 年に 319 万台を売って 118 億台湾ドルを売り上げていたのが、2011 年には 577 万台を売って 474 億台湾ドルを売り上げてる。どちらの数字も販売台数の増加率よりも売り上げの増加率のほうが急激であり、1 台当たりの販売価格を上昇させてるわけで、つまり、より価格の高い自転車を売れるようになったことで成功したってこと。これはすごく重要なポイントで、実は個人的にもすごく実感があったりもする。

2012/07/09

Unique ideas. Unique business.

『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』
 ブライアン・ハリガン / デイヴィッド・ミーアマン・スコット 著

 糸井 重里 監修・解説 渡辺 由佳里 訳 (日経BP) ★★★★☆
 Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books


去年の年末に発売された当初から話題になり、ベストセラーになってた(っぽい)一冊で、ロック史上でも屈指のユニークさで熱狂的な支持を集めてきたグレイトフル・デッド(GRATEFUL DEAD)がやってきたことから、現代のビジネスに応用できるポイントを抽出し、それが解りやすくまとめられてる。

あまりにも評判が良かったんで、ついつい警戒度を上げちゃいつつ、でも、あまり予備情報を頭に入れずに読んだんだんだけど、まぁ、結論としては、評判がいいのも十分に理解できる感じだったかな。

ライブは録音 OK! 音楽は無料で聴き放題。それなのに年間 5000 万ドルも稼ぐ。40 年前からフリーもシェアも実践するヒッピーバンド、それがグレイトフル・デッド。

表紙の表 2 側の折り返し部分にはこんな言葉が書いてあるし、「彼らはそれをやっていた。」と題された前書きから、いきなり、なかなかいいサジ加減で上手いこと言ってて、「ほぉ」なんて思ってたら、書いてるのが「この本を出そう出そうと言った者」こと糸井重里氏だったりして。

ハード・カヴァーで 274 ページあるわりに文章量はそれほど多くないし、文体も柔らかくて読みやすいし、挙げられてる事例も解りやすいんで、そういう点も人気が出た理由なんだろうって推測できる。

あと、個人的にすごく魅かれた点は装丁かな。表紙回りのデザインは原著より出来がいいくらいだし、ページの中にも長年グレイトフル・デッドを撮り続けてきたジェイ・ブレイクスバーグ(JAY BLAKESBERG)による写真が多数、効果的に使われてるし、本文の文字のサイズ・文字間・行間も読みやすいし、単なる単色ではなく、赤をアクセントに使ってるので適度にポップな印象を与えてるし(アマゾンの 'なか見! 検索' で確認できる)。ひどい装丁デザインの本が多い中、かなり秀逸な部類って言えるんじゃないかな。

2011/03/28

Stories behind the unripe Apple.

『スティーブ・ジョブズの王国』 マイケル・モーリッツ 著
 林 信行 監修・解説 青木 榮一 訳(プレジデント社) ★ 
 Link(s): Amazon.co.jp

いわゆる 'スティーヴ・ジョブズ / アップル系' はこれまでにもたびたび取り上げてきたけど、コレは去年の末頃に出版されたわりと新しめの一冊。原著は 2009 年に出版された "Return to the Little Kingdom: Steve Jobs and the Creation of Apple" なんだけど、もともとは 1984 年に出版された "The Little Kingdom: the Private Story of Apple Computer" で、2009 年に増補版用のエピローグと解説を加えて出し直された。つまり、決して新しい書籍ではなく、むしろ、数ある 'スティーヴ・ジョブズ / アップル系' の中でも最古の部類に入るって 1 冊で(訳書も 1985 年に『アメリカン・ドリーム』ってタイトルで出てたらしい)、昨今のアップル / スティーヴ・ジョブズへの追い風に乗って、お色直ししてて再刊行された一冊って言えるのかな。

まぁ、埋もれてた過去のアーカイヴを掘り起こしてくれたって意味はあるけど、追い風に上手く便乗するような、ちょっと打算的な商売っ気みたいなモノも感じちゃうし、「アップルはいかにして世界を変えたのか」ってサブ・タイトルもちょっと内容とは印象が違うんで、ちょっといいとも悪いとも言えない、ビミョーな印象かな。確かに、アップルの上場は当時最大の規模だったらしいんで、そういう意味では '世界を変えた' って言えなくもないのかもしれないけど、現在のアップルのイメージで考えると '世界を変えた' って感じではなかった気もするんで。

2010/12/10

Deeper understandings. Shallower understandings.

ネット・バカ』 ニコラス・G・カー 著 篠儀 直子 訳(青土社)  
 Link(s): Amazon.co.jp  / Rakuten Books 

前にレヴューした『クラウド化する世界』の著者の新刊で、サブ・タイトルは「インターネットがわたしたちの脳にしていること」。原著は今年発行された "The Shallows: What the Internet Is Doing to Our Brains" なので、サブ・タイトルはほぼ直訳だけど、タイトルは相当な意訳。『クラウド化する世界』のレヴューでも書いたけど、けっこう悪質というか、正直、ヒドイ邦題だと思う(ちなみに、『クラウド化する世界』の原題は "The Big Switch: Rewiring the World, from Edison to Google")。

一応、本書の基になったのが "Is Google Making Us Stupid?"(「グーグルは我々をどんどんバカにしているのか?」って感じかな)って論文だからってエクスキューズが付いてるけど、それにしてもかなり印象が違うし、実際の内容とも違ってるし。せっかく、内容はわりと面白いのに。まぁ、著者や訳者じゃなくて編集社(編集者)がやってることだってのは解ってるけど、それにしてもセンス(と常識)を疑いたくなるし、単純に、こういうのって、なんか、すごいイヤな気分になる。

2009/11/23

Business as usual.

『IT 帝国の興亡 スティーブ・ジョブズ革命』
 村山 恵一 著日本経済新聞出版社
 Link(s): Amazon.co.jp

さすがに最近はアップル / スティーブ・ジョブズ関連の本だからって片っ端から読んだりはしてないけど(数が多過ぎるし、胡散臭いモノも多いんで)、久しぶりに読んでみたジョブズ関連の本。日本経済新聞社のシリコン・ヴァレー支局長である著者が現地で取材を基にまとめたモノで、今年の 7 月に出版されたモノなので、記憶に新しいハナシが多い。

アップル / スティーブ・ジョブズ関連の本は、主に iPod・iPhone 以降にフォーカスしてるモノと、必ずしもそうではないモノがあって、最近は、当然のように前者のモノが圧倒的に多いんだけど、まぁ、本書も前者のひとつと言っていいのかな。ただ、そう言っちゃうとちょっと誤解があるというか、「(多分に胡散臭いことが多い)最近のアップル / スティーブ・ジョブズ関連本」のひとつに思えちゃうかもしれないけど、本書はちょっと印象が違ってる。というのは、タイトルに「IT 帝国の興亡」ってある通り、アップルだけじゃなく、わりと広く IT / コンピュータ業界の動向をカヴァーしてるから。

2009/11/03

Publish: (vt) To issue for public.

新世紀メディア論 ー 新聞・雑誌が死ぬ前に

. :小林 弘人 著バジリコ

今年の春頃に何かで著者のインタヴューを観て、ちょっと気になったので読んでみた一冊。まぁ、タイトルが大袈裟なんで、ちょっと引いたというか、ついつい警戒感を持っちゃったんだけど、タイトルのわりに内容は読みやすい感じではあったかな。良く
も悪くも。

読後の印象として
も、まぁ、個別の中身自体には合意する部分も多々ありつつも、同時に、読む前に抱いてた警戒感は間違いじゃなかったって印象もあるというか、全面否認ではないけど、諸手を挙げて大賛成でもない感じというか、参考になる部分は大いにありつつも、決して感動したりはしてないというか、ビミョーな感じの読後感も事実だったりはする。これまた、良くも悪くも。

著者はインフォバーンの代表で、『サイゾー』とかギズモード・ジャパンとか真鍋かをりのブログなんかを仕掛けたことで
も知られる(らしい)小林弘人氏。とは言っても、個人的にはその辺のモノにはあまり馴染みがなくて(もちろん、目にすることはあるけど)、イメージとしては断然、『WIRED 日本版』を立ち上げた人って感じ。『WIRED 日本版』は当時(大学の頃だったかな?)、けっこう熱心に読んでたんで。ただ、当時は小林氏について自覚的だったって記憶はないし、その後の動きに関しても、別に熱心に追いかけてたわけじゃない。だから、特別な思い入れとかはなくて、わりとフラットというか、どっちかっつうと、やや警戒感を持って読んだ感じかな。『WIRED 日本版』以降のモノには、チャラさっていうか、けっこう強い胡散臭さを感じてたんで。しかも、そこに小林氏の存在を意識せずにそれぞれを胡散臭いって感じてたんで、変な先入観を持っちゃってたわけではなく、ホントに胡散臭いって感じてたってことなんだと思うし。

内容の特徴としては、まず、「出版」という言葉の定義を明確にしてる点がある。これが大前提というか。小林氏は自身を「出版人」であると言ってるんだけど、一方で「出版は死ぬ」って言ってて、ここで使われてるふたつの「出版」は同じ「出版」ではないんだ、と。小林氏の定義する「出版」は 'publish'、つまり「公にする行為」のことで、小林氏は自身を、この意味での「出版人」であると言ってる。一方、「死ぬ」と言われている「出版」は、「紙に印刷した新聞・雑誌・書籍等を取り次ぎを経由して書店等に流通させ、売り上げと広告で利益を上げるビジネス」という意味での「出版」で、小林氏は特に書籍よりも新聞・雑誌のほうが危うくて(そう述べてる媒体が書籍だっていうのもある意味アイロニカル)、特にそういう会社(出版社・新聞社等)はそのビジネス・モデルに固執しがちで、特に大手になればなるほど、変にプライドが高いからか、その傾向が強くておハナシにならん、と(そのわりに、他のモノに文句を言ったり、愚痴ったりばっかしてるから、目も当てられないんだけど)。

この考え方自体に関しては、まぁ、全面的に合意できるかな。ただ、いわゆる後者の「出版」(狭義の出版)をやっている会社(出版社・新聞社等)の「中の人」として働いた経験はないんで、あくまでも、フリーランスの立場で「外の(周辺の、かな?)人」って立場でつきあってきた中で感じる部分として、ってことになるけど。 個人的に「編集(者)」って言葉について持ってる感覚に似てるかな? つまり、自分の仕事を「編集(者)」って呼ぶときに、「本や雑誌等を制作する」って意味の、狭義の「編集」ではなく、「本や雑誌等のフォーマットだけじゃなく、いろんなフォーマットでいろんなモノを収集・取捨選択して、あるコンテキストに沿ってカタチにすること」を「編集」だって(少なくとも自分では)意識してるんだけど、感覚的には似てるんじゃないかな、って。ただ、こういう言い方が通じる人と通じない人がいて。しかも、通じない人が、いわゆる「大手」に多かったりもするし。そういう部分も含めて、わりと感覚的に理解できる部分ではある。

たぶん『新世紀メディア論 ー 新聞・雑誌が死ぬ前になんて大袈裟なタイトルを付けた意図のひとつは、「狭義の出版人」の凝り固まった頭をガツンとやるみたいなことなんだろうと思うけど、じゃあ何だってハナシになると、ブログに代表されるインターネットだ、つまり、特定の限られた人(法人)が特権的にメディアを持つ時代ではなく、意思さえあれば誰でもメディアを(すごく安いコストで)持てる「誰でもメディア」な時代で、「誰でもメディア」の時代には「誰でもメディア」の時代ならではのやり方があるってハナシになって、具体的な事例とか特徴がいろいろと述べられてる、と。

まぁ、細かい部分は納得したり感心したりする部分も少なからずありつつも、同時に、何を今さら? って思うところもけっこうあったりして。例えば、収益構造のハナシとか。もうちょっとブッ飛んだ議論というか、アイデア提起みたいなモノを期待してたんで。そこがちょっと物足りない部分だったりもしたんだけど(まぁ、でも、どうも世の中では、「何を今さら?」をそれらしくまとめるとありがたがられるっぽくて、それはそれで、個人的にはすごく気持ち悪いんだけど。例えば、やたらと顔を出したがる勝間ナンチャラ女史とか)。

そういう感じなんで、具体的なハナシになると、SEO 的なハナシとかコンサルティングみたいなハナシになったりもして、その辺がどうしても胡散臭く感じちゃう部分だったりはするんだけど。まぁ、いろんなところで講演をしたり、コンサルティングをしたりしてるってのは、ある意味、なんとなく納得できるけど(もちろん、ネガティヴな意味で)。

そうは言っても、「細かい部分は納得したり感心したりする部分も少なからずある」ってのも事実なんで、イヤな感じで引っかかる部分は、まぁ、それはそれとして、「忘れないようにメモ」として書いておくと、以下のような感じかな(多分に「何を今さら?」とか、ちょっと気持ち悪いハナシも含まれてるし、すべてに同意なわけではないけど)。
  • まず「それが自分で読みたいモノであり、それを誰も作ってないから自分で作る」ことが基本。
  • 「雑誌の本質はそのカタチに非ず」。「コミュニティを生み出す力」こそが雑誌の本質。
  • メディア・ビジネスはコミュニティへの影響力という実態の掴みにくいモノを換金することだ。
  • 情報収集はソフトウェアでできるが、文脈を編むためには人間の視点が不可欠。その価値はむしろ高まる(相対的に質の低いモノが蔓延するため)。
  • 紙は「情報コモディティ」から「嗜好品」に変換する必要がある。狭義の出版は、カメラの世界に於ける銀塩カメラのようになるのかも?
  • 紙のメディアは、その信頼を担保にひたすら企業ブランド向上のために記事を書いたり、広告を集めるという、ある種の心理的なマーケティングのために用いられる方向に進むのかも?
  • 雑誌はコミュニティ・メディアであり、ライフスタイルの数だけ雑誌はあって然るべき。
  • 情報過多なインターネットの世界では、限られた人々の関心というパイを奪い合うカタチのアテンション・エコノミーになる。
  • ザ・サーチ グーグルが世界を変えた』の著者として知られるジョン・バッテル曰く、メディアには「パッケージされた物のメディア(packaged goods media)」と「会話型メディア(conversational media)」に分かれ、「パッケージされた物のメディア」は既存のメディアと同じで、インターネットを使うとしても、単に流通チャンネルが増えただけで、基本的には店頭等と変わらない。前者が依拠するのは「知的財産の所有と統制」と「高価な配布システムの所有と統制」で、「このふたつに依拠する広告と定期購読によるビジネス・モデル」であり、「会話型メディア」のビジネス・モデルは違う。
  • 「ディストリビューション・オリエンテッド」ではなく、「ユーザー・オリエンテッド」「テーマ・オリエンテッド」に。
  • 編集者に求められるスキルも変わる。1) ウェブ上での人の流れや動きを直感し、情報を整理して提示するスキルがある。 2) システムについての理解を持ち、なおかつ UI やデザインについての明確なヴィジョンと理解を持つ。 3) 換金化のためのビジネス・スキーム構築までを立案できる職能者である…、というスキル・セットが体系的に訓練されるか、もしくは各自独学でジャンルを越境していく必要がある。
  • 「誰でもメディア」なので「誰でもライバル」。ライバルは同業他社だけではない。
  • 「ナット・グラフ(nut graph)」が大事(たぶん、これまで以上に)。
  • 「自らが編んだ情報を伝えたい」という編集者の欲求を満たすためのモノから、「情報によってつながった人たち」の欲求を満たすために何をすべきか考え、立体的にサービスを提供できるように価値変換を図ることがポイント。
  • 思想や態度(アティチュード)に訴えながら、インターネットを媒介として広がる社会運動的なマーケティング手法、コーズ・マーケティング(cause marketing)の可能性。
個人的には、銀塩カメラの例えとか、けっこう好きで。ポジティヴな意味で。これだけデジタル・カメラ全盛で、それこそ「(ほぼ)全人類カメラマン化」な時代だからこそ、「銀塩カメラ(で撮れる人)には敵わない」感が強くなってるんで。ちょっと乱暴な言い方だけど、たぶん、タバコとか音楽(特にレコードとか CD)もそうな(る)んじゃないかって思ってて。個人的には「趣味:乗馬」って言ってるんだけど。どういうことかっていうと、喫煙っていうリラクゼーションとか、音楽を熱心に聴くこととかって、どんどんレアな趣味、それこそ乗馬くらいな感じ(つまり、「何それ?」って言われるほど知られてないわけじゃないけど、ポジティヴでもネガティヴでもなく、フラットに、素で「珍しいねぇ」って言われちゃう感じ)の趣味になっていくんじゃないかなって(音楽の場合は、音楽自体がなくなるわけじゃなくて、あくまでも、「積極的にお金を払って音楽パッケージを購入する」って意味でだけど)。

それから、本書で引用されてるアメリカの未来学者(なんて肩書きだ!)のポール・サッフォの「未来を見通す法則」ってのもちょっと面白い。
  • 見通せないときがあることを知れ。
  • 突然の成功は、20年以上の失敗の上にある。
  • 未来を見通すには、その倍、過去に注視せよ。
  • 前兆を見逃すな。
  • (見通すときは)中立であれ。
  • 物語れ。あるいは、図にするがよい。
  • 自分の間違いを立証せよ。
まぁ、「(見通すときは)中立であれ。」とか、実はすごく難易度が高いと思うけど。個人的には「未来を見通すには、その倍、過去に注視せよ。」が好みかな。

あと、個人的には、情報の分類として「フロー」と「ストック」の中間的な形態として、「エコー」って
モノがあるってハナシはちょっとツボだったかな。つまり、流動性とか回転率、新しさとか即時性とかとしての「フロー」と、アーカイヴとしての「ストック」ってのが、まぁ、基本なんだけど、それをコピーするだけの「エコー」自体にも意味が生まれ得る、と。これには、すごく大事な面と、すごく気持ち悪い面の両方が含まれてる気がするけど。

まぁ、そんなわけで、それなりに読み応えがありつつも、読みやすくもあり、でも、期待外れ面もあり、なんか、モヤモヤ感があるのは事実かな。著者に対する印象も、読後も特に変わってないし。『WIRED 日本版』以降のモノから感じてた胡散臭さも増幅こそされても減ることはなかったし。けっこう大きなこととか厳しいこととか言ってるわりに…、みたいな部分も、正直、感じるし(例えば、ギズモード・ジャパンのダサさとか。何だろう? 似たようなことに興味があって、だからビミョーにズレてるところが過剰に気になっちゃうような、近親憎悪って言うのか知らないけど(そもそ近親じゃねぇし)、前に、いわゆるジャジー・ヒップ・ホップについて書いたことに、ちょっと似てる感覚なのかな。まぁ、一見、フランクでありながら、まるで親近感を感じられない文体が好きじゃないだけなのかもしれないけど。

あと、この内容なら、こんな装丁じゃなくて、新書でいいんじゃね? と
も思ったり。なんか、最近、そんなことばっか言ってる気がするけど(中谷巌氏の『資本主義はなぜ自壊したのか』とか)。新書が飽和状態だからなのか、文体的に新書くらいライトじゃないと読まれない(好まれない)のか、新書でいいんじゃね? って本が増えてる気がするのは、なんかイヤな傾向。でも、新書だったら別に全然アリな感じの内容な気がするし

それから、この新世紀メディア論の内容とは直接関わりがないから触れられてなくても当然だけど、ウェブの世界には「逆」もあって、それはそれで、けっこう深刻で、根が深い厄介な問題だよな、なんて思ったりもした。つまり、「ウェブ屋の論理」しか知らないヤツがたくさんいる(のさばってる)、ってこと。本書で小林氏が言ってる、「紙媒体の編集者がそのままウェブ媒体の編集者になれるわけではない」ってのが真実であるのと同様に、「ウェブを作ってるヤツが編集者の資質を持ってるとは限らない(っていうか、圧倒的に不足してる気がする)」ってこと。これはこれで、大きな問題だな、と。
PUBLISH

2009/10/10

Organized confusion.

資本主義はなぜ自壊したのか ー 「日本」再生への提言

. :中谷 巌 著集英社インターナショナル

なんで読もうと思ったのか、イマイチ思い出せないんだけど、たぶん、今年 2 月に OA された『ニュースの深層』を観てちょっと興味を引かれたからだったと思うんだけど、どう
も、実は話題作だったらしく、池田信夫氏のブログとかアマゾンのカスタマー・レヴュー酷評されてたり、まぁ、賛否両論というか、良くも悪くも話題の一冊だったらしい(去年の年末発売なんでさすがにもう落ち着いてると思うけど)。まぁ、何となく、言わんとしてることは解る気がするけど(賛)。

個人的には知らなかったんだけど、著者の中谷巌氏ってのは『ワールドビジネスサテライト』なんかに出てたわりと有名な経済学者らしくて(それが賛否を激しくしてる理由だと思われる)、著書の『入門マクロ経済学』はマクロ経済学の教科書として日本の大学で広く使われているんだとか。肩書き的には、三菱 UFJ リサーチ & コンサルティング理事長 / 多摩大学名誉学長・経営情報学部教授・ルネッサンスセンター長 / 一橋大学名誉教授 / ハーヴァード大学経済学博士 / オーストラリア国立大学名誉法学博士。そして、自民・公明連立政権が行った構造改革を積極的に推進したメンバーのひとりでもある(本人曰く、「急先鋒だった」んだとか)にも関わらず、その考えをこの本書で一転させたことから大きな話題(っていうか、ちょっとした「騒動」)になったらしい。まぁ、それなりに有名人だったなら、そうなったことは十分理解はできるけど。

まぁ、こんなこと書いてて、実は、その「騒動」の問題の中身に関してはイマイチよくわかってないんだけど。だって、今年 2 月に OA された『ニュースの深層』への出演ってのはこの本書出版(とそこから起こった話題)を受けてのものだったし、そこでの話を聞いてちょっと興味を持ったんだから。それ以前の主張の中身も存在感がどんな感じだったのか全然知らずに、まぁ、ある意味、何の先入観も持たずに話を聞いて、興味を持って、本書を手に取ったわけなので。

もそも、経済学なんて個人的には最も興味がない学問だし(胡散臭いとすら思ってるんで)、詳細になんか触れられるわけがないけど(それらしいことを書こうとするとボロが出るのが目に見えてる)ザックリと乱暴にまとめちゃうと、話としては、1970 年代にアメリカの大学に留学して、アメリカの新自由主義・市場原理主義的な経済学に「かぶれた」経済学者が、昨今の世界的な状況を鑑みて、「何かがおかしい」と思い、変節した、と。そこに至る経緯と、今、どんな風に考えてるのかってことを、一般書のテンションでわかりやすくまとめたのが本書(本人の言葉を借りれば、「自戒の念を込めて書いた懺悔の書」なんだとか)、ってのが概要になるのかな。

変節後の著者の話を聞いて何故興味を持ったのかは、本書のまえがきを読んですぐにわかった。著者は今、単なるビジネス・スキルを超えた歴史観・世界観・人間観を身につけるための「40 代 CEO 育成講座」ってのを多摩大学で塾頭として主宰してて、そこで、いろいろなジャンルの専門家と、本人の言葉を借りると「知の格闘技」を行ってるらしいだけど、そこに参加してる講師の中に、環境考古学者の安田喜憲氏とか経済学者で現静岡県知事の川勝平太氏とかって名前があったんで。ニュースの深層』での著者の話の中に、明らかに安田氏や川勝氏に重なる(影響を受けたと思われる、っていうか、イジワルな言い方をすると「請け売り」っぽい)話が出てきてたんで。で、安田氏や川勝氏の考えに興味を持ってる身には、親近感を感じる部分があった、と。まぁ、さすがに、元ネタが同じだとは思わなかったけど。

そんな感じなんで、変節前の著者を知ってる人たちが、ちょっとヒステリックとすら思えるような反応をしてるのは、正直、ちょっと引いちゃうところがあるかな。まぁ、気持ちはわからんでもないし、思わず突きたくなる重箱の隅がたくさんありそうなこともなんとなく想像はできるけど。いきなりキューバとかブータンの話とか持ち出されても、唐突過ぎだし、文章自体もそれほど説得力があるとは思えないし(著者がキューバとかブータンに魅かれる気持ちは個人的には共感はできるけど)。かと言って、なんか経済学に詳しい(っぽい)人の批判に合点がいくかって言うと、やっぱり、そんなことはなくて。なんか、経済学村の内輪話っていうか、オタクどもの戯言って感じがしちゃうのも事実(永田町村の政治オタクどもの戯言とかみたいな感じ。霞ヶ関とかもそう。ただ自分たちの「常識」を振り翳してる感覚というか)。こういう話を聞いてると、つい「重力に魂を引かれた者たちのロジッとか言いたくなっちゃう。

個人的には、カール・ポランニーの『大転換 ー 市場社会の形成と崩壊』の話とか、知らなかったんで普通に興味深かった(特に、労働・土地・貨幣は、再生産が不可能であるため、取引の対象にしてはいけないって話とか)し、
ポランニーの「市場経済のもとでは、自由も平和も制度化することはできなかった。というのは、市場経済の目的は利益と繁栄を作り出すことであり、平和と自由を作り出すことではないからである」って言葉も、まぁ、当たり前っていえば当たり前なんだけど、でも、忘れてる人って結構多い気がするし。著者の唱える「そ新自由主義・市場原理主義は英米のエスタブリッシュメントにとって都合のいいシステム(勝者が勝者のためにつくったルール)であり、そのためのツールでしかない」的な見解とか、理性や論理を過度に重んじるアメリカって国の特殊性を語る言説とか、ちょっと陰謀説的な考え方だったりもするけど、そんなに嫌いじゃないし、あながち外れてもないと思うし。特に、理性や論理だけじゃ整理できない、何とも言えない信念というか、価値基準というか、「核」みたいなモノがヨーロッパの国にはアメリカにはない感じとか、個人的にも前から感じてたことだったりして、けっこう共感できたりもするんで。あと、株取引を例に挙げて「形式知」と「暗黙知」の話(インターネットなどで誰でも知ることができる情報がすべてではないし、それをもって「情報の平等」なんて言えない)とか、具体的な施策として挙げてる還付金付き消費税とかも、ちょっと面白いと思うし。

ただ、同時に、胡散臭さみたいな
モノ感じちゃうのも事実だったりはするんだけど。アメリカって国と同様に、「理性や論理」で物事を整理しようとする「経済学」が見落としがち(わざと見ないようにしてる?)部分に目を向けてるのはいいんだけど、胡散臭さというか、請け売り感みたいなモノが感じられて、イマイチ、著者自身の言葉(主張)に聞こえない感じがしちゃう。キューバブータンの部分とか一神教と多神教の部分とか、縄文時代の部分とか。まぁ、この本自体の企画意図として、それほど専門的で難解なモノにはしないことがあるっぽいから、内容的にも字数的にもリミッターをかけてるのかもしれないけど、イマイチ説明不足というか、説得力に欠けるというか、愛を感じないというか、あまり心を動かされない感じはあるな、と。「理性や論理」じゃなくて、「心」を動かす部分について書いてるのに。とは言いつつも、まぁ、「変節」して間もないっぽいから、まだ「変節前」の癖が抜けてないのかも? とか思えるレベルではあったりするんだけど。個人的には。
民主主義が完全で賢明であると見せかけることは誰にもできない。実際のところ、民主主義は最低の政治形態であると言うことができる。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが。ー ウィンストン・チャーチル
チャーチルってなかなかのパンチライン職人で、個人的にはけっこう嫌いじゃなかったりするんだけど、著者はそんなチャーチルのこんな言葉を引用して、「民主主義」の部分を「マーケット・メカニズム」に、「政治」を「経済」に置き換えても成り立つって主張してて、それはそれで一理あるというか、まぁ、そういうことなんだろうな、とは思えるし、言われてみればその通りなんだけど、それを意識してるか意識してないか(気付いてるか気付いてないか)って、けっこう大事だよな、と。気付いてない人、かなり多そうだし。

まぁ、そういうことに気付いたり、たとえ賛同しなかったとして
も、考えてみるキッカケにはなりそうだし(まぁ、思考停止して拒否するヤツもいそうだけど)、そういう意味では別にそれほど悪い本じゃないと思うし、(賛否両論を含めて)話題になることも悪いことじゃないのかな、と。ただ、個人的には、この内容で、この分量で、このテンションなのであれば、新書でよかった気がするけど。っつうか、新書の方がよかったんじゃね? って思ったりはするけど。
THE END OF THE ENTRY

2009/09/10

Back in business.

Apple Special Event September 2009 / Keynote Address (Apple Inc.) ★
 
2009 年 9 月 9 日(日本時間 10 日未明)に行われたアップルのスペシャル・イベントでのキーノート・アドレス

今回のイベントは事前に告知されてたコンセプトが 'It's only rock and roll, but we like it' ってことで、iTunes と iPod を中心にした音楽メインのイベントで、最近、毎年この時期にこの手のイベントをやることになってるらしい(日本人にはイマイチピンと来ない「ホリディ・シーズン」向けの新製品を発表するのはこのタイミングだってことなんだろうけど)。今回も、オフィシャル・サイトからの QuickTime を使ったストリーミングと、iTunes 経由のポッドキャストとして配信されてる。

2009/07/24

Cloudy (is my sunny mood).

クラウドの衝撃

. :城田 真琴 著(東洋経済新報社)

こないだレヴューした『クラウド化する世界』に続いて、クラウドモノをもうひとつ。別にそれほど興味があったわけじゃないんだけど、
クラウド化する世界』は外人が書いた本だったんで、日本人が書いたモノも読んでみたほうがいいかな、と。いろいろ、ニュアンスとか捉え方が違ってて面白いんで。いい意味でも、悪い意味でも。この本を選んだ理由は装丁の印象だったりするんだけど。

アマゾン見ると著者名が「野村総合研究所 城田 真琴」ってなっててちょっと(っつうか、かなり)ビックリしたんだけど、まぁ、その通り、著者は野村総合研究所の技術調査部の主任研究員の城田真琴氏。そうは言っても、別に知ってるわけじゃないんで、特に何ってわけじゃないけど。ただ、そこをそんなに強調したいのか?! って思っただけで。まぁ、読んでみたら、なんで今まで知らなかったのか、わかったような気もしたけど。

どういうことかっていうと、個人的にはあまり面白くなかったから。あぁ、こういう感じだったら、これまでに接点がなくても不思議じゃないな、って。わりと著名な人らしいんだけど。アマゾンのカスタマーレヴューを見ると、けっこう評判がいいっぽくてビックリしたんだけど、個人的には全然グッとこなくて、前半はともかく、中盤くらいからは読んでてドンドンテンションが下がってくのが自分で感じたくらい。一応、せっかくだから最後まで読もうと思って読んだけど、最後のほうは「早く読み終わっちゃわねぇかなぁ」って思いながら読んでた気がする。そこまでして読まなくてもよくね? って思ったりもするけど。我ながら。

「IT 史上最大の創造的破壊が始まった」って表紙には(サブ・タイトルとして?)書いてあるんだけど、読み終わった後にそんな印象は全然、受けなかったし。内容的には、主にアメリカのエンタープライズ市場での動きについて、グーグルアマゾンセールスフォース・ドット・コム等、いくつかの「クラウド・ネイティヴ」な事例を挙げながら、クラウド・コンピューティングの概要と主立った動きを説明してるんだけど、図が多かったり文章量が少なめだったり、なんかあんまり面白くない新書を読んでるような印象で。実際、すぐに読み終わっちゃったし。可もなく不可もなくっていうか、なんか、そういう印象しか残ってない。

なんだろう? ハナシ的に、わりとエンタープライズ的な視点のハナシに終始してるからなのかな。ちょっと狭いところを見て「スゴイスゴイ」って言ってるんだけど、つまんないロジックとデータを駆使するだけで、全然スゴイことを話してるようなエキサイティングな部分が伝わってこない感じ?
『クラウド化する世界』のレビューでも書いた通り、個人的にはクラウドって、もちろん大きな動きではあるとは思うけど、多様性と可能性が広がって選択肢が増える以上のことではないと思ってるんで。「IT 史上最大の創造的破壊」って言われて納得できるような説得力は全然感じられなくて。

逆に、どんな人がこれを読んで満足するんだろう? って考えてみても、やっぱり新書的なモノを求めてる人なのかな、と。概要だけツルっと一通り押さえたい(わかったような気になりたい)人っていうか。別にビックリするようなことが書いてあるわけではないし、実際に運用するにしても、技術的な面でも、先のヴィジョンを描くって面でも、特にインスピレーションに富んでる感じはしないし。なんか、個人的には薄っぺらな印象は否めないかな。

2009/07/19

Above the clouds.

クラウド化する世界
. :ニコラス・G・カー 著. :村上 彩 訳(翔泳社)

ちょっと前に流行ったビジネス書なのかな? けっこう売れてたっぽい。まぁ、正直、ちょっと恥ずかしい感じもなきにしもあらずなんだけど、テーマ自体は興味がないわけではないんで、ちょっと読んでみようかな、と。

著者は『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌の上級編集者を務めてたビジネス・ライターで、日本でも『IT にお金を使うのは、もうおやめなさい』が出版されてる。
なんか、印象としては、ちょっと胡散臭いビジネス臭がして、正直、ちょっと抵抗を感じてたんだけど(サブ・タイトルに「ビジネスモデル構築の大転換」なんて付いてるし)、原タイトルは "The Big Switch: Rewiring the World, from Edison to Google" だったりして、そういわれるとちょっと印象が違ってきたりする。ちなみに、IT にお金を使うのは、もうおやめなさい』の原タイトルは "Does It Matter?: Information Technology and the Corrosion of Competitive Advantage" で、これは著者が『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に発表した論文 "IT Doesn't Matter"('IT' が大文字なところが大事。日本語版は「もはや IT に戦略的価値はない」)が大きな議論を呼んだことを受けて、その "IT Doesn't Matter"、それに対する反論、そしてそれに対する再反論をまとめたものらしい(読んでないけど)

周辺情報としてはこんな感じなんで、思ったほど胡散臭いビジネス書ではないっぽいとは思いつつ(やっぱり邦題の付け方って大事だな、と。まぁ、そういう風に見せたほうが売れるんだろうけど。悲しいかな)、まぁ、やっぱり、こういうのに対してはついつい一定の警戒心は感じちゃうんで、わりと冷めた感じで読んだんだけど、結論から先に言っちゃうと、思ったよりも楽しめたかな。別に感動したりとか、今まで見えなかったものが見えたりとかしたわけじゃないけど、いろんなことがわりとスッキリする感じ。

内容としては、前半では電力発電と情報産業と比較するカタチで、発電が発明された当初は各事業所が発電機を購入・導入してた(発電機を販売して儲けてた会社があった)のが、大規模発電と安定した送電網が確立されるとともに発電所から購入したほうが安価になった(=電力がコモディティ化した)ように、情報産業もインフラの整備が整うとともに SaaS(Software as a Service)が可能になり、アマゾンやグーグルに代表されるようなクラウド・コンピューティング / ユーティリティ・コンピューティングが実現しつつあり(企業のレベルだけでなく、むしろ個人のレベルにこそ起こってる)、そして、さらにはワールドワイド・ウェブがワールドワイド・コンピューティングになる方向に向かうってことについて、後半ではそういう環境がもたらす人間社会の変化について、いろんなデータやさまざまな人物の発言、事例などを用いながらわかりやすく述べられてて、それほど専門知識がない人でもわりとすんなり理解できちゃう感じ。たぶん、前半部には
IT にお金を使うのは、もうおやめなさい』の内容も含まれてるんだと思うし。

まぁ、これを読むと、グーグルがなんで独自ブラウザの Chrome を開発したか、そして、さらに最近発表された Chrome OS って流れになるかってことはすごく腑に落ちたりはする。まぁ、要するに、一連のグーグルのサービス(そして最大の収入源である広告)って全部インターネットありきなわけで、それを使うインターフェースはブラウザだから、それに特化したブラウザがあれば OS なんて何でもいいってこと。
Chrome ってのはそのためのブラウザであり、同時に、ワールドワイド・コンピューティング(≒グーグル)に最適化された並列コンピューティング環境のプラットフォームでもあって、OS ってのは Chrome さえキチンと動作すれば OK だ(だから、そのために余計なコストをかけなくていいように無料の OS = Chrome OS を用意した)、と。こんな感じなんじゃないかな、と。まぁ、Chrome OS については、まだ詳細はわかんないから、あくまでも憶測だけど。でも、グーグルはインターネットを単なるデータベースじゃなくて AI 化しようとしてるわけで、そのために着々と動いてやがってて、そういう流れも確かにあるよな、と。ユーザーとしての実感のレベルでも。

ただ、個人的には、クラウドに関しては、それこそ iPhone 3G について「10 年くらい前にイメージした未来のデジタル携帯デヴァイス」った感じたことと似てるんだけど、同じ頃から「近いうちにクラウド的な状況が来るかもなぁ」なんて感じてた(もちろん「クラウド」なんて用語はなかったけど)りもしたんで、わりとリアルな実感はありつつも、同時に、何とも言えないモヤモヤ感もあって、それほど楽観的じゃなかったりもしてるんだけど。もちろん、いい面がたくさんあることは認め(そして、その恩恵を享受し)つつも、クラウド・オンリーとか、クラウドがメインみたいな状況に関しては、かなり疑問を感じてたりするんで。まぁ、これに関しては書き出すと長くなるから止めるけど(実際、ちょっと手を着けてみようと思ったらスゲェ大変で、それこそ論文とか本にでもなっちゃいそうなんで止めた)。
社会とか国家とか歴史とかのハナシになってくるんで。
ルイス・マンフォードは『権力のペンタゴン』で、テクノロジーに我々をコントロールさせるのではなく、我々人間がテクノロジーをコントロールできると述べた が、それは間違いだ。なぜなら、それは我々の選択ではなく、我々の力が及ばない経済的な力による帰結だからだ。テクノロジーには容赦のないロジックがある。我々は一個人としては、テクノロジーの命令に疑問を呈したり、抵抗もできるかもしれないが、この種の行為は常に孤独であり、結局は無駄である。経済的取引が支配する社会においては、テクノロジーの規範は、まさに規範なのである。個人的選択が関係する余地はほとんどない。
これは本書からの引用なんだけど、まぁ、一理ある。それでも抵抗したくなっちゃうヒネクレ者だったりするんで、いろいろ面倒だったりもしてるんだけど。あと、関連して、興味深い指摘としては「産業革命初頭から始まった富の集中を加速させたのは配電網の整備だった」って点もあるんだけど、確かに、似たような傾向があるかもしれないなぁ、と。けっこう笑えないハナシとして。「ウェブ・ベースの無報酬の貢献・労働を価値・サービスに変える企業へ富が集中し、格差をドンドン広げてる」って指摘とも関連して。これも、個人的にも利用もしてるし、恩恵も享受しつつも、同時に迷惑なハナシでもあったりして。著者は「その打撃を受けるのは企業でもユーザーでもなく、個人のプロフェッショナル」って言ってて、実際、ライター業とかってその影響をモロに受けてる分野のひとつだったりするんだけど、でも、それだけじゃなくて、それはイコール情報の信頼性の下降とかクオリティの劣化にもつながると思うんで、最終的にはユーザーに対しても打撃だと思うし。もちろん、欧米のリベラルなインテリの定番になってる感がある(もちろん、これもメチャメチャ一理ある懸念ではあるんだけど)ジョージ・オーウェルの『1984 年』のビッグ・ブラザー的な「管理社会」に対する懸念も強まるだろうし(実際、大企業とかそうなってるように見えるし)、まぁ、全然楽観的にはなれないな、と。

あと、ちょっとハナシはズレるけど、もっとヒドイ状況として、福井晴敏の『ガンダム UC』みたいに無線通信なんて危険すぎてできない(ネットワークはすべて有線)ような社会ってのも考えられなくはないし。まぁ、ミノフスキー粒子ありきのハナシだし、クラウドとは直接関係ないけど、今の無線天国みたいな状況が果たして本当にベストで、今後も続いてくのかってことはちょっと疑ってかかってみてもいいのかも? とは思ったりもするし、そうなると、クラウドはもちろん、コンピューティングとネットワーキング自体の質とか意味も変わってきそうだし。まぁ、これはかなり飛躍した想像(妄想?)だけど。

まぁ、クラウド・コンピューティングがある程度、実用的になって、ますます発展することで、今まで胡散臭いことで儲けてやがったヤツら(ナンチャラ・インテグレーターとか、そんなヤツね。ちょっとウェブ屋に似てる胡散臭さを漂わせてる。まぁ、もちろん、全員が、ってハナシではないけど)が喰いっぱぐれたりとか、胡散臭いヤツらに騙されてオーバー・スペックなモノを売りつけられてた企業 / 事業者が救われたりするのはいいことだな、って純粋に思ったりするけど。それだけでも十分意味がある気がするし。

もちろん、アップルも巨大なデータ・センターを作ってるなんてニュースを聞くと、iTunes Store / App Store みたいなオンラインの事業を支える設備投資の面もあるんだろうけど、製品マトリクスから MacBook が(実質的に)消えてるだけに、クラウド絡みの何かがあるのかな(たぶん、中途半端なモノじゃないと思う)、なんて勘繰りたくはなっちゃうし、まぁ、グーグルとかマイクロソフトの動向も含めて、いろいろ注目すべきことが多い分野であることは確かだとは思うけど、天変地異というか、社会がひっくり返るようなハナシではないってのが個人的な印象かな(ある狭い世界では天変地異クラスの衝撃なのかもしれないけど)。社会をひっくり返すようなモノでも何でもなくて、単に多様性が広がって、選択肢が増えただけのハナシかな、とも思うし。だって、どれだけ環境が整ってもクラウドだけですべて OK とは思えないし(いろんな理由で。これを述べると長くなる)、365 日・24 時間、いつでもどこでもオンラインなんて社会はそれ自体どうかと思うし、個人的には「クラウド」より「同期(synch)」って思ってたりもしてるし。

まぁ、この
クラウド化する世界』に関しては、具体的にクラウドの導入云々みたいなことよりも、もっと大きな枠で現在のこととこれからのことを考えるのにいい参考書って印象。特に、ビジネスだけじゃなく、個人の生活とか社会も含めてって意味で。

あと、個人的には、クラウドの根幹を成す技術のひとつの「仮想化(virtualization)」って考え方は、具体的な技術のハナシだけじゃなく、いろいろなことに応用できそうな考え方のような気がしてて、ちょっと興味がある。「仮想化」・'virtualization' って言葉は、個人的にはどっちもイマイチシックリきてないけど、考え方としては面白いなって。何かありそう。

BGM はポール・ウェラーの "Above The Coulds" を。もちろん、内容とはまったく無関係だけど。ただの 'cloud' つながり。でも、それだけじゃないかも。たぶん、'above the coulds' な何かをイメージしていかないといけないな、とか思ったりもするんで。


PAUL WELLER "Above The Clouds" (From "Paul Weller")







2009/01/19

How to direct a dream team.

スティーブ・ジョブズの流儀』 リーアンダー・ケイニー 著 三木 俊哉 訳  
白夜書房)  Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books

ウォズ(スティーヴ・ウォズニアック)の『アップルを創った怪物』のレビューの中で、「特に最近はピクサー〜 iPod / iPhone の成功もあって、時代の寵児として派手に表舞台で紹介されることの多いジョブズ」って書いたけど、まさにそんな内容の一冊で、原書は 2008 年に出版された "Inside Steve's Brain"。最近はスティーヴ・ジョブズ / アップル絡みの本はハズレも多いんだけど、本書の著者は "The Cult of Mac" などでも知られる wired.com のエディターで、10 年以上アップルを取材してきてるだけあって、さすがにそういったものとは一線を画してて、なかなか読み応えがあった。

自らの個性を事業哲学にまで高めた男がここにいる。

序章にこんな言葉がある。これが著者の抱くジョブズ像であり、本文でそれを具体的に説明していく。取り上げてる項目は、フォーカス・独裁・完全主義・エリー ト主義・情熱・発明欲・ケーススタディ・トータルコントロール。良くも悪くもジョブズにピッタリな、一般的な「ジョブズ像」みたいなモノとして挙げられがちなイメージだ。そのそれぞれについて、具体的な事象やジョブズ本人及び周辺の人物(スタッフや元スタッフ、ジャーナリスト等)の発言を用いながら説明し、一般に語られる「ジョブズ像」と一致する部分と間違ってる部分を指摘しつつ、ジョブズの仕事の仕方(日本語タイトルを使えば「流儀」ってことになるのか?)を描いてる。

2009/01/18

Music is playing inside my head over and over again.

ヒットこそすべて ー オール・アバウト・ミュージック・ビジネス

. :朝妻 一郎 著 白夜書房)

古い(なんて失礼かな? 熱心な、と言ったほうが適切かな)音楽ファンには、キャロル・キングの名盤『つづれおり』等、数多くのアルバムのライナーノーツを執筆してる音楽評論家 / ライターとして知られ、音楽ビジネスの世界では数多くのヒット曲を生み出した(それこそ『帰って来たヨッパライ』から『千の風になって』まで)仕掛人として知られる朝妻一郎氏が、そのキャリアを振り返りつつ、自身の手掛けてきた音楽出版という仕事を中心に、音楽ビジネス自体についても広く、そして詳しく記した一冊。音楽業界のみならず、音楽ファンの間でも広く知られている朝妻氏なので、これまでにこういった著作がなかったことが不思議なくらいだけど、多忙で、現役感の強い人なので、こういうタイプの「これまでを振り返る」的なモノには抵抗があったのかな、なんて気もするし、そういう意味では待望の一冊と言える。内容は、これまでの経歴やエピソードを書き下ろしただけでなく、過去に手掛けたライナーノーツや雑誌での連載、さらに大滝詠一や秋元康との対談など、数多く収録されてて、資料性も高いし、読んでてメリハリもあるし、予想通りというか、文句なくすごく面白いし、500 ページ近くある(しかも、段組み構成のページがかなりあるので、実質的な文量はもっと多い)にも関わらず、すごく読みやすいし、読み応えがある(ただ、書き下ろしの部分の文量がちょっと少ないかな、って印象はあるけど)。

「ヒット曲の仕掛人」って書いたけど、朝妻氏は現在、フジパシフィック音楽出版というフジサンケイ・グループの音楽出版社の会長で、当初は音楽ライターとして、後に音楽出版というビジネスを通じてヒット曲を量産し、日本の 音楽業界に大きな功績を残してきた人物。音楽出版っていうビジネスについては、音楽業界で働いてる人でもキチンと理解してない人が案外多いし、『部長 島耕作』の中でチラッと触れられてたことがあったけど、それもイマイチ明確じゃなかったんで、たぶん、音楽ファンでも多くの人はよくわかってないと思うんだけど、 基本的には「楽曲の著作者(作詞・作曲者)の著作権を、著作者の代理として管理・運用する」のが仕事。つまり、簡単に言うと、
著作者のために楽曲が生み出すさまざまなカタチの利益(作詞・作曲の印税)を少しでも多く発生させるように努力し、同時に、その契約・経理等の手続きをキチンと行い、その仕事に対して(手数料として)一定の「取り分」を得る、ということ。

その「
さまざまなカタチの利益」 というのが、具体的にはその曲が収録された CD の売上げや音楽配信だったり、テレビ・ラジオ・映画・CM 等での使用だったり、カラオケであったりする。そういう風に、いろいろなカタチで楽曲が使用されて、作詞・作曲印税が多く発生している状態というのが、いわゆる「ヒット」ってことになるわけで、ヒット曲を生み出し、そのヒット曲をスタンダード(時代を超えて、いろいろなカタチで愛され続ける曲)にしていくことが音楽出版の最大のミッションで、それこそが朝妻氏がフジパシフィック音楽出版(前身のパシフィック音楽出版を含む)でやってきたこと。なので、朝妻氏のやってきたことを紐解いていくと、必然的に、音楽出版というビジネス、そして、音楽ビジネスがどのように成り立ってるのかがよくわかる。

ちなみに、「音楽出版(music publishing)」と呼ばれてるのは、もともと
楽譜(譜面)の印刷・頒布というカタチで初めて音楽の著作権使用が始まったから。もちろん、まだ放送もレコードもない時代で、人気のある曲の楽譜はよく売れて、その売上げの一部を、作詞・作曲者に印税というカタチで支払っていた、と。つまり、楽譜が印刷されるようになって初めて音楽の複製・頒布が可能になったわけで、そういう意味では、音楽ビジネスそのもの始まりが音楽出版だったとも言える。その後、昔ながらの出版に加えて(楽譜だけでなく歌詞の掲載なども含む)、レコードや CD といったパッケージ、放送、カラオケ、CM、映画、さらにはネット配信等、音楽著作権がさまざまな形態で使用されるようになるにつれて、音楽出版社のカバーする範囲も広がった、と。間違えられやすいけど、決して音楽関係の雑誌・書籍を出版してる会社ではない。

あと、もうひとつ、混乱しやすい部分として、レコード会社(レーベル)やアーティスト・マネージメント(事務所)との違いがあると思うんだけど、簡単に言っ ちゃうと、音楽出版社が扱うのは「楽曲」で、レーベルが扱うのは「音源」で、事務所が扱うのは「タレント(アーティスト)」って整理できる。例えば、山崎まさよしの『セロリ』っ て曲について整理すると、この曲の作詞・作曲は山崎まさよし本人、レコードのリリースは所属レーベルであるポリドールで所属事務所はオフィスオーガスタなんだけど、『セロリ』は SMAP のカバーも大ヒットしてる(他のアーティストのカバーもある)。この時に、ポリドールにとっての「商品」は、あくまでも山崎まさよしがレコーディングした 「音源」で、その「音源」が収録された CD という「商品」を売ることで収益を上げる。SMAP のレーベルはビクターなので、ビクターは SMAP のヴァージョン(音源)を収録した CD という「商品」から収益を上げる。つまり、レーベルはあくまでも「音源」が収録された「商品」を製造・販売するのが仕事ということ。オフィスオーガスタは山崎まさよしというアーティスト自身が、ある種の「商品」なので、CD 以外でも、ライヴとか CM 出演とか、いろいろな活動すべてにおけるアーティストの活動から収益を上げる。ジャニーズと SMAP の関係も同様。つまり、ポリドールの立場から見ると、SMAP の CD がいくら売れても、いくらカラオケで歌われても直接的には一銭の利益も生まないということ(もちろん、プロモーション面での相乗効果はあるけど)。

それに対して、『セロリ』って楽曲の著作権を(著作者である山崎まさよしに代わって)管理する音楽出版社は山崎まさよしの CD が売れようが、SMAP の CD が売れようが、他のアーティストのカバーが売れようが、カラオケとかオルゴールとかで使われようが、『セロリ』という楽曲には違いがないので、等しく利益を得ることができる。ここがけっこうキモの部分で、もちろん、全部売れればみんなハッピーだし、そのために協力して相乗効果を生み出そうとするんだけど、 純粋な目的はそれぞれ似て非なるというか、微妙に違ってるってこと。逆に言うと、それぞれ違う立場の人間がそれぞれの目的達成のために努力することが副産物的な効果も生み出すし、1+1 が 3 にも 4 にもなるってことだし、これが音楽ビジネスのダイナミズムの根源にもなってる、と。実際には、レーベルと事務所と音楽出版社がキレイに分かれてないことも多いし、いろんなケースがあるんで、何でもこう単純に整理できるわけではないけど、原則としてはこういうことになる。

ちなみに、もうひとつ、理解しにくいモノとして JASRAC(日本音楽著作権協会)があるけど、これはレコード会社や放送局、カラオケ・メーカー等、著作権使用者から使用料を徴収する団体で、楽曲の使用状況に応じて音楽出版社に使用料を分配する。いわば、著作権使用者と音楽出版社の間にある存在(現在は JASRAC 以外にも同様の業務行う企業があり、著作者が選択できる)、レーベル・事務所・音楽出版社と競合するものではない。

すっかり、前書きが長くなっちゃったけど、こういう前提がわかっていたほうが、朝妻氏の功績がわかりやすいし、本書を楽しめる(もちろん、本書の中でも丁寧に説明されてるけど)。
僕はひたすら「ともかく胸キュンの曲、悲しい曲を書いてよね」って言ってた。(中略)どうして「胸キュン」にこだわったかと言うと、やっぱりヒットする曲の 要素って 2 つしかないという思いが僕にはあった。聴いてハッピーになるか、聴いて胸がキュンとなるか、そのどちらか。もちろんそれ以外だってあるんだと思うけど、常にヒットの王道はその 2 つ。
これは朝妻氏が、大滝詠一の名盤 "A LONG VACATION" の原盤制作に携わっていたときに、大滝氏に対して出したリクエスト。
"A LONG VACATION" と一連のナイアガラ関連の作品は朝妻氏の携わった仕事の中でもマスターピースのひとつであるだけじゃなく、日本のポップ・ミュージック史の中でも燦然と輝く金字塔だと思うし、この辺りが個人的にはこの本のクライマックスだったりするんだけど、このセリフが朝妻氏の音楽の嗜好と音楽出版社の人間としてのスタンスが如実に表れている気がする。

もともと海外の音楽、特に
アメリカン・ポップスが好きで、ポール・アンカ・ファンクラブの会長を務めてた流れでライナーノーツの執筆を依頼されるようになり、徐々に音楽ビジネスの世界に入ったという朝妻氏は、当時の、いわゆるアメリカン・ポップスの黄金時代を体験してる。アメリカン・ポップスの黄金時代というのは、実は音楽出版ビジネスの黄金時代でもあったわけで、今とは比べ物にならないほど情報が少なかった当時、雑誌やレコードに必ず明記されてる音楽出版社の情報が貴重な情報ソースだったそうで、そうした中から音楽出版ビジネスに興味を持ったというのも頷ける。どういうことかというと、「アメリカン・ポップスの黄金時代」っ ていうのは、職業作家(作詞家・作曲家)が曲を書き、その曲をピッタリな歌手に歌わせる、というカタチでレコードが作られてた時代。数多くのソングライ ティング・チームがたくさんの曲を書き、契約している音楽出版社がいろいろなレコード会社や歌手にそれを売り込み、レコード化する。そんな中で、ヒットを 連発する優れたソングライティング・チームと音楽出版社が出てきて、そうして生まれたヒット曲がシーン(=ヒット・チャート)を支えてた。

その代表格が、ソングライターならバート・バカラックとハル・デヴィッドのコンビだし、音楽出版社なら、朝妻氏が本書の中で繰り返し名前を挙げてる(相当好 きらしい)、キャロル・キングとゲリー・ゴフィンやニール・セダカとハワード・グリーンフィールドといったソングライティング・チームを抱えてた音楽出版 社、アルドン・ミュージック。そういう音楽に傾倒していった朝妻氏が、そういった優れた音楽を日本に紹介しつつ、同じようなことを日本でやっていこうと 思ったのが、後の功績につながるわけで、その辺の経緯が、自身の携わった仕事だけでなく、アメリカの音楽(とビジネス)についても広く記されてるのが本書 だ、と。

実際には、ザ・フォーク・クルセーダーズの帰って来たヨッパライ』からジャックスの『ジャックスの世界』、シュガー・ベイブの『ソングス』、元ザ・フォーク・クルセーダーズの北山修・加藤和彦の『あの素晴しい愛をもう一度』、 オフコース、ダウン・タウン・ブギウギ・バンド、ナイアガラ等々、さらにはおニャン子クラブやウィンクまで、時代を変えたり、時代を超える金字塔的な作品から、ちょっと芸能界・業界チックなモノまで、挙げればキリがないほどのヒットを手掛けてるんだけど、やっぱりその根底にあるのは、(ガールズ・ポップやバブ ルガム・ポップみたいなポップとかいい意味で笑えるコミック・バンド的なモノも含めて)ポップ・ミュージック(=広く愛されるポピュラー・ミュージック) がすごく好きだってこと。あと、同時に、一件ウサン臭そうに見える業界チックなモノも含めて、やっぱり、まず音楽として考える「音楽の人(ミュージック・マ ン)」なんだな、ってことがすごく伝わってくる。個人的には、おニャン子クラブで大ヒットを連発した作詞家の秋元康氏との対談で、朝妻氏が「卒業とか、人が成長していく時期を描いた曲としては、ほんとにいい詞だし、いいメロディーだし、明るいし、大好きだね」っておニャン子クラブの『じゃあね』を評してるのがすごく印象的だった。そう言われてみれば確かにそうだし、やっぱり、こういう風に音楽を聴いてるんだな、って(そう、サウンドは古くなるけど、名曲は決して古くならない。だから、スタンダードって呼ばれるんだし)。

自身の経歴の部分以上にページを費やして、ティン・パン・アレイ(もちろん、細野晴臣が組んでたバンド名ではなく、その由来となったアメリカの音楽業界で音楽出版社が全盛だった時代・場所を指す言葉として)の詳しい解説、マイケル・ジャクソンのビートルズの著作権買収について、海外の音楽ビジネス事情、さらには音楽著作権の資産価値に至るまで、音楽ビジネスのさまざまな側面について語られてるんで、とても勉強になる(例えば、アメリカの音楽業界が昔からいかに商魂逞し かったか、とか)。

実は、個人的にもすごくお世話になった人で、社会人としての最初の 2 年間、朝妻氏の下で働かせて(というか、学ばせて、かな)もらったりしてるんで、そういう意味でもすごく面白く、同時に勉強になったりしたんだけど、 まぁ、面識もあるしキャラクターも知ってるんで、イマイチ客観的に読めないところもあるんだけど、そういう個人的な部分を抜きにしても、日本のポップ・ ミュージックの歴史とか、音楽ビジネスについてとか、音楽ファンだったらいろいろな意味ですごく楽しめる一冊になってる。

あと、この手の(って言ったら失礼かな?)にしてはタイトルもいいし、装丁デザインも素晴らしい。タイトルは、まぁ、語感にはただならぬセンスを持ってる人だから、当然って言えば当然だけど、想定は誰がやったんだろう? と思ったら、アート・ディレクションはピチカート・ファイヴの小西康陽氏。そういえば、小西氏は生粋のバカラック好きで、それこそティン・パン・アレイに代表されるような職業作曲家に憧れてたと公言してる人物で(そうなれなかったからバンドを組んだらしい)、もちろん朝妻氏とも(世代は違うけど)知己の仲なので、まさにうってつけのキャスティングで、さすがの出来映え。

2009/01/09

1 decade to come. 29 more to go.

プラネット・グーグルランダル・ストロス 著 吉田 晋治 訳 
日本放送出版協会)
 
ニュー・ヨーク・タイムズ紙のコラム等で知られるランダル・ストロスが、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長してきた、でも、最近はちょっとスロー・ダウンしてる感もあるグーグルの最初の 10 年についてまとめた著作で、珍しく(そして、ありがたいことに)日米同時発売(原著は "Planet Google")。

飛ぶ鳥を落とす勢いで成長してきた時期のグーグルを取り上げた本は多かったけど(例えば、読んだことがあるモノだけでも『グーグル誕生 — ガレージで生まれたサーチ・モンスター』とか『ザ・サーチ グーグルが世界を変えた』とか『NHK スペシャル グーグル革命の衝撃』とか『アップルとグーグル』とか)、そういった本が書かれた時期と比べると、グーグルを取り巻く状況はけっこう変わってて、必ずしも順風満帆ではなくなってきてたりするので(少なくとも以前に比べて)、その辺をカバーしてる本って意味でなかなか面白い。

2008/10/10

The shapes of future to come.

アップルとグーグル

. :小川 浩・林 信行 著(インプレス R&D

タイトルの通り、とてもキャッチーで、テクノロジー業界で光ってるふたつの企業の特徴を、共通点・類似点と相違点を挙げながらまとめた著作。結論を先に言っちゃうと、タイトルを見てちょっと興味を持った人なら読んでみてもいい内容だし、あまりグッと(ピンと)こない人は別に読まなくてもいい、そういう感じの一冊。ただ、文体自体は読みやすいし、難解な表現や過度に専門的な部分はほとんどないので、あまり詳しくなくても興味があれば苦労せずに読めちゃうと思うので、そういう意味ではよく考えられている気がする。

構想段階のアイデアのヒントのひとつとしてあったのが、EPIC 2014(及びその続編の EPIC 2005。その内容の詳細に関しては『INTERNET magazine』のこの記事が詳しい)に登場する 'Googlezon'(「グーグルとアマゾンが合併して、よりパーソナライズされたサービスを提供する」という近未来予測)だっということで、'Googlezon' ならぬ 'Googplepple' って感じのイメージらしい。このネーミング(というか造語)はどうなの? って気がするけど(個人的には、'Googlapple' のほうがいいな。グラップラーっぽくて。ホントはスペルは 'grapple' だけど、わざとちょっと間違えるんもまたアリかな、と)、まぁ、気持ちはとてもわかる。

わかるが故に考え方や捉え方的には相容れない部分も多いけど(つまり、個人的にもすごく気になってて、それなりにチェックしてたり調べたりしてるので、必ずしも同じような結論には至ってない、ということ)、それを差し引いても、個別の事例とか検証とかは勉強になるし、知らなかったり忘れてたネタは豊富。キレイに印刷するためにはコストがかかることを承知でスティーヴ・ジョブズが 6 色のロゴマークを採用したハナシとか、2007 年 2 月に発表した "Thoughts on Music" ってオープン・レターとか、「アップルの製品の裏面は、他社製品の正面より美しい」ってジョブズの言葉(いい言葉だ!)なんてその代表的なモノだし、2001 年にラリー・ペイジが日本で行ったプレゼンテーションで語られた「グーグルを成功に導いた 6 つの教訓」(1. 何よりも製品が大事 2. まずはポテンシャルを試せ 3. マーケティングは不要!? 4. 明快な目標と焦点の絞り込み 5. 人々の暮らしに影響を与えよ 6. 大きなマーケットに狙いを定める)なんて知らなかったし。小ネタとしては、アキバが好きなブリンとサーゲイに対して、骨董通りが好きで富山の窯元に通うジョブズなんてハナシもあったりして。

あと、なんとなくわかってた気になってたことを、キチンとわかりやすく整理してくれている。例えば、アップルはモノを売る会社だけど、グーグルはモノを売らない会社であることとか。つまり、ユーザーとの関係性の違い。例えば、設立時期の違い。インターネット以前に設立されたアップルと、インターネット以降に設立されたグーグル。まぁ、言われてみれば当たり前なんだけど、ついつい忘れちゃいがちで、でも、キチンと理解するためには、曖昧にしとくと論点がズレちゃう原因になりがちなところだったりするので。アップルと Mac と iPod の区別をキチンとしてる(言葉を使い分けられてる)人ってほとんどいないと思うけど、それと似てるかな。

この本自体は今年の 4 月発売(当然、執筆はそれより前)なので、iPhone 3G に関する事実は反映できてないんだけど、そのことを差し引いても、ケータイにまつわる部分は、これからを見ていく上で頭に入れといていいことかも。特に、Android も採用してる WebKit についてとか。iPhone と Android を対立するものではなく、 WebKit ベースのケータイ用ブラウザーを共に広めていくって視点で見てるところとか、ちょっと面白い(しかも、今では Chrome もあるし)。未だに iPhone の本当の意味や価値を理解できずにいる(メーカー的にもユーザー的にも)鎖国状態の孤島を尻目に、って感じだけど(個人的には、Android なんかより、グーグルには端末代金・通話料が完全無料で広告ありのグーグル・ケータイとか出して、日本のケータイ業界を完全に壊滅するくらいのことをして欲しいんだけど)。

個人的には、やっぱりアップルのほうが思い入れがあるし、どっちも決して安泰ではないと思ってるけど(アップルはやっぱりジョブズ以降が心配だし、グーグルは、まぁ、もともと諸手を挙げてって感じではないし、これからはけっこう難しい部分も出てきそう。ある意味、インフラと化してるから。マイクロソフトがそうであるように、単なる一私企業がインフラになっちゃうと、ディフェンスの部分が多くなると思うんで、ラディカルさが保ちにくくなる)、この本が出てから半年の間でも iPhone 3G だの Chrome だの、新しいモノを出してたりするし、やっぱりこの 2 社の動向から目は離せないのは間違いない。

ただ、本自体の結論として、ついつい「この 2 社から学び、日本の企業に活かすには」云々的なハナシになっちゃうところは、どうなんだろう? お約束のようにそういう方向にハナシをまとめた瞬間に、ウサン臭く感じちゃう(仕方ないのかもしれないかも)。

最後に、一番気に入ったエピソードを。iPhone に搭載されてる Google Maps のビューアー・ソフトはアップルのエンジニアが作ってて、その仕上がりの美しさにグーグルのエンジニアが感動してたとか。Google Maps なんてソフトを作っちゃうグーグルと、ついつい美しく仕上げちゃうアップル。とても象徴的で、いいハナシだな、と。

2008/09/11

Let's rock.

Apple Special Event September 2008 / Keynote Address (Apple Inc.)  

2008 年 9 月 9 日に開催されたアップルのスペシャル・イベントでのスティーヴ・ジョブズのキーノート・アドレス。毎回、アメリカのアップルのサイトで QuickTime のストリーミングで視聴することができ、最近は後にポッドキャストでも配信される。

基本的には、アップルの新しいプロダクト / サービスの発表でしかないわけで、まぁ、言ってみれば新製品のお披露目会見でしかないんだけど、それをキチンとイベントとして成立させて、もはやエンターテインメントと呼べる域にまで昇華させているのがアップルの特徴。特に「スペシャル・イベント」と称されているイベントは、マックワールドや WWDC といったカンファレンスの冒頭で開催されるものとは異なり、わざわざこのためだけに会場を押さえ、プレスや関係者を呼んでいるのが特徴で、iPod 絡みの製品発表で行われることが多い(あまりキチンと認識されてないけど、iPod は Mac ブランドの製品ではないことを考えると、別におかしいことではないけど)。

2008/06/29

Logic built to build.

ビジョナリー・ピープル 
 ジェリー・ポラス / スチュワート・エメリー / マーク・トンプソン 著 
 宮本 喜一 訳(工作舎) 

「2007 年ベストセラー経営書」「世界 20 カ国で翻訳!」といった言葉が帯に踊る一冊。面白そうな感じもしなくはないけど、ウサン臭さも感じる。そんなビミョーな印象を持ってたんだけど、実際に読んでみて抱いた印象は残念ながら後者だった。しかも、かなり。帯には「名著『ビジョナリー・カンパニー』の著者が、10 余念をかけて、200 人以上の偉業を成し遂げている人々をインタビュー。彼らには、共通する 3 つの要素があった!」とも書いてあるんだけど、ここでウサン臭さを感じ取るべきだった感じかな。

名著とされてる『ビジョナリー・カンパニー』は未読なんで何とも言えないけど、せっかく 200 人以上にインタビューしてるのに、それを全然活かせてない印象かな。正直なところ。

2008/04/30

Radical business.

ザ・ボディショップの、みんなが幸せになるビジネス。アニータ・ロディック 著 
トランスワールドジャパン) 
 
ボディ・ショップの創業者で、昨年 10 月に亡くなったアニータ・ロディックの著書。個人的には、ボディ・ショップ自体には特別に思い入れを持ってるわけじゃない(コスメティックとか、あんまり使わないし)けど、ブランドとしてはわりと好きだし、ちょっと前に『デモクラシー・ナウ』で彼女のインタビューを観て(字幕なしの動画はここで観れる)ちょっと興味が出たので読んでみた。

デモクラシー・ナウのインタビューでも感じたんだけど、思った以上にラディカル。実際に交流もあるらしいけど、パタゴニアのイヴォン・シュイナードの『社員をサーフィンに行かせよう』にも通じる、かなりラディカルで一貫した主張はすごく好感持てる。原題は "Business As Unusual" なんだけど、まさにそのタイトル通りで、期待以上の内容。また、女性の視点から描かれている点も新鮮。つい、うっかり、見過ごしがちなことが多いので。かなり示唆に富んだ一冊。