2009/09/22

The strong style.

『日本魂』 山本 小鉄・前田 日明 著(講談社) 
 Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books
 
最近出たらしいんだけど、事前には全然知らなくて、偶然見つけて、ちょっと読んでみたら一気に読んじゃった山本小鉄と前田日明の対談。まぁ、このあまりにも直球なタイトルはどうなのよ? って思わなくもないし、説教臭いところはなきにしもあらずだし、この組み合わせにグッとくるのは一定の年齢以上だけだとは思うけど、まぁ、内容自体は、単なる昔話じゃなくて、現代日本社会のいろいろな問題について忌憚のない意見を述べてて、なかなか読み応えがあるな、と。

個人的には、断然前田派というか、前田世代というか、圧倒的に前田日明に影響を受けてるんだけど、あらためて整理すると、前田日明は新日本プロレス〜UWF〜リングスでの闘いを通じて総合格闘技の礎を築いた日本の総合格闘技のパイオニアであり、現役を退いた今も、格闘家としてだけでなく、運営やプロモーション、育成なんかの面も含めて、日本の総合格闘技界のご意見番として絶大な存在感を放ってる人物(存在感が FC バルセロナ / サッカー界におけるヨハン・クライフにちょっと似てる気がする)。個人的にも、小学生の頃にマスカラス兄弟やファンク兄弟、スタン・ハンセンやブルーザー・ブロディやダイナマイト・キッドで観るようになったプロレスを、今の MMA の世界まで導いてくれた存在であり、幼少期に大きな影響を受けたのがアントニオ猪木なら、青年期に大きな影響を受けたのが前田日明だって言えるかな、と。そのくらい絶大な影響を受けた人物のひとり。

まぁ、わりと強面で小難しい印象を持たれがちだったりもするけど、ウルトラマンが負けたことにショックを受けて、打倒ゼットンを志して格闘技を始めちゃったりとか、アイコラの考案者だって自称してたりとか、無闇に巨乳好きであることをアピールしがちだったりとか、なかなか憎めない一面も持ってる。

その前田が半生の師と仰ぎ、前田をして「猪木イズム・新日イズムと呼ばれるモノは実は山本小鉄イズムだった」と言わしめるのが山本小鉄。言わずと知れた「新日の鬼軍曹」で、(前田を含む)若手の育成に当たりつつ、マッチメイクをして、レフリーや TV 解説までやってた人物。プロモーション面こそ新間寿が取り仕切ってたものの、クオリティ・コントロールやブランディングまで含めて新日の黄金時代を事実上、現場で支えていたのが山本小鉄だ、と。さすがに、星野勘太郎とのヤマハ・ブラザーズ(スゴイネーミングだな、しかし。由来はウィキペディアを参照)時代はほとんど覚えてないし(最後の頃をちょっと観た記憶はあるけど)、当時の印象としては圧倒的にレフリーとか解説者で、裏方としての活躍ぶりを知るのはもうちょっと後になってからだけど、今にして思えば、まさに新日イズムの体現者、ストロング・スタイルの体現者だったってことがよくわかる。

内容は、ふたりが共有してる体験であるプロレス時代の話を引き合いに出しつつも、メインはあくまでも現代日本社会の諸問題で、話は政治、教育、環境、社会問題等から猪木や三沢のことにまで、広く深く及ぶ。まぁ、前田は、リング上で「選ばれし者の恍惚と不安、ふたつ我にあり」なんて言ってプロレス・ファンを茫然とさせたことで知られる通り、かなりの勉強家・読書家、なおかつかなり饒舌な理論家で、この夏は選挙の応援演説を相当やってたくらいの、格闘技界でも屈指の「声の大きな」人物なんで、話は主に前田がリードして、要所に山本小鉄が意見を述べるようなカタチで進んでいく感じ。

まぁ、細かい点をいちいち挙げるとキリがないんでやめとくけど、印象に残ってることのひとつは、前田が引用してる「政(まつりごと)と罰で罪を決めると恥を忘れる」っていう孔子の言葉。つまり、ルールと罰則で行動を縛ると、そのルール内であれば何をやってもいいって考えが蔓延って、結果として恥も外聞も忘れる、と。これって、すごく納得っていうか、シックリくるっていうか、まさに、こういうことをずっとモヤモヤと感じてたんで、こう簡潔に言葉にしてもらえるとスッキリする。つなんない正論を振り翳して単純化することを恥じる感覚すらないヤツが蔓延ってる昨今なだけに。当たり前のことを当たり前に考えることすら放棄した、ちょっとした思考停止みたいなことやたらと多い感じ。やっぱり、昔からそうだったんだ、昔の人はいいこと言うなぁ、なんて思いつつ、その傾向がすごく強くなってる気がして、すごくイヤな感じがしてる。

まぁ、他にも、日本国籍を取得した在日コリアン三世の前田ならではの日本観とか、その前田よりも一世代上の山本小鉄の世代ならではの人生観とか、すごく興味深い内容ではある。そして、何よりも、ひとつのスタイルを作り上げて、体現してきた人間ってのは、やっぱりただならぬモノを持ってるし、まさに「ストロング・スタイル」って言葉が相応しいなってあらためて感じたりもした。

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