2010/11/24

Growth is addictive.

『経済成長なき社会発展は可能か?〈脱成長〉と〈ポスト開発〉の経済学
 
セルジュ・ラトゥーシュ 著 中野佳裕 訳 (作品社)  
 Link(s): Amazon.co.jp

何のキッカケで読もうと思ったか忘れたけど、すごく興味があったテーマなんで、本についても著者についても特に予備知識のないまま読んでみた一冊。かなり、手強い内容だったけど。

内容は、タイトルにある通り、「脱成長(デクロワランス / decroissance)」ってキーワードでこれからの社会の在り方を論じたモノ。著者はフランスを代表する経済哲学者・思想家のセルジュ・ラトゥーシュで、本書は 2004 年の『〈ポスト開発〉という経済思想』と 2007 年の『〈
脱成長(デクロワランス)〉による新たな社会発展』の 2 冊をまとめて、日本語訳のための序文が追加されてる。

基本的には、「経済成長」という信仰の呪縛から逃れ、「ポスト開発」ってプロセスを経て
「脱成長(デクロワランス)」って段階にいく(いかなければならない)というハナシ。まぁ、中身自体はかなり手強くて、正直なところ、読み終えてこんなに自分の理解度が低い感じがするのも久しぶりな感じなんだけど、でも、要所要所で、日頃、事あるごとに感じながらも、何故かほとんど指摘されない「経済成長に関する思考停止状態」へ明確に言及(というか批判)してくれてるので、読んでてなかなか気持ちいい。
まぁ、細かい点に言及できるほど理解できてるとも思えないし、語るだけの基礎知識もないんだけど、いろいろなモノを観たり読んだりしてて、いつもモヤモヤするのは、「なんで '経済成長しなきゃいけない' ってのが大前提になってるの?(っつうか、永遠に成長し続けるなんて、フツー無理じゃね?)」ってことだったので。頭のいい(はずの)評論家だとかコメンテーターだとか専門家だとかが、どいつもこいつもそこは見事にスルーしてて。まぁ、そういうことは結構いろいろ多いけど(例えば、フリー・ペットとか)。本書はその部分にズバリと言及・批判しててくれるんで、個人的にはすごくスッキリするっていうか、ちょっと安心するというか。もちろん、決してメインストリームではないんだろうけど(残念ながら)。

本書に収録されてるインタヴューで、著者は「
脱成長(デクロワランス)は、経済モデルと経済理論のテーマである成長に反対し、'成長主義者' の言語体系をぶち壊すことを目的とする一種のスローガン」であり、民主主義的でエコロジカルな自律社会で、「無神論を語るように無成長を語らなければならない」と述べてる。まぁ、古くは『成長の限界』とかでも語られてたことだけど、曰く、「今日の消費水準で見ると、地球の生物物理学的な許容能力は 230 億人のブルキナ人を擁することはできるが、6 億人のオーストラリア人しか擁することができない」と。まぁ、ここで論じられてるのは、ちょっとディープ・エコロジー的なところとか(ちなみに、ディープ・エコロジーについては環境中心主義が強過ぎるって主張しているけどゲーリー・スナイダー的な最定住(reinhabitation)的なモノとの共通点も感じられる(著者の言葉を使えば 'ヴァナキュラー: vernacular: その土地固有の価値に根差している' な社会・経済の自己組織化)ような、地に足が着いたサステイナブルなライフスタイルってことになるんだろうけど、右派でも左派でもなく、政治的・倫理的に「経済成長を抜け出た状態」ってのは、なかなか興味深い。

具体的には、赤道ギニアのブビ族の言葉では、 '成長' は同時に '死' を意味し、ルワンダ人が使う 'developpement' って言葉には、いわゆる右肩上がり的な志向はなく、単に「歩行すること・移動すること」を意味するなんて例を挙げつつ、「成長は中毒」であり「ウィルスであり麻薬」だと明言し、「持続可能な発展」なんて二律背反以外の何物でもなく、「成長という幻想が、自然や貧しい人々からの窃盗を隠蔽し、資源の欠乏を創り出しているのに、それを成長と偽っている」と主張。「脱成長(デクロワランス)へ向かう運動とは、労働時間が削減された完全雇用社会に向かうこと」で、ここでいう「労働」とは、「他のあらゆる生活時間より優先されるような現代的な勤労ではなく、給与に縛られない生産、'労働' ではなく '仕事' の倫理において物事を為す喜びを見出すこと」と述べ、「友情や知識など、人間関係に基づく財の '生産' を推進する」って考え方を提示してたり、スペインのシエスタ廃止に反対だったり、「長距離旅行を消費する黄金時代は、すでに過去のもの」と言い放ってたり、なかなか好感が持てる内容で。

まぁ、個人的にはまだまだ掘らなきゃいけない感じで、イマイチ具体的なイメージができてる感じではないんだけど、いろいろとヒントは多かったかな、と。

あと、本書の中でちょっと紹介されてた本で、ちょっと興味深かったのが、マルクスの娘婿のポール・ラファルグの『怠ける権利』。だってタイトルが最高。有名な本なのかどうか、知らないけど。これはチェックしないと。
SAMBO

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