2010/11/23

Artistically universal.

『レオニー 松井 久子 監督 (角川映画 
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ドウス昌代著の『イサム・ノグチ 宿命の越境者 上』のレヴューの中でも触れた、世界的なアーティストととして知られるイサム・ノグチの母親のレオニー・ギルモアの生涯を描いた日米合作の映画。先週末から公開が始まったので。

この『レオニー』は、ドウス昌代さんがイサム・ノグチの生涯を綴った『イサム・ノグチ 宿命の越境者』の最初の約 1/3 に登場するイサム・ノグチの母親のレオニー・ギルモアの人生に興味を抱いた松井久子監督が、独自の調査と解釈を交えて、これまで、まったくと言っていいほどスポットが当たることがなかったレオニーを主役にして作った映画。言ってみれば、ハーフ・フィクション / ハーフ・ノン・フィクションとでも言うのかな? 基本的には『イサム・ノグチ 宿命の越境者』やその他の資料で確認できた事実をベースにしつつも、不足部分は独自の解釈等を加えて、1 本の映画として仕上げた、と。

時代は約 100 年前。日本人の詩人、野口米次郎とアイルランド系アメリカ人女性のレオニーの間に生まれたのがイサム・ノグチで、母親のレオニーに育てられた後に世界的なアーティストになっていくんだけど、レオニーは 1960 年代の女性解放運動の何十年も前の時代に既に大学で教育を受け、自立した女性像を志向してた女性であり、東洋人との間にこどもを作ることが一般的じゃない時代にこどもを授かり、しかもシングル・マザーとして育て、飛行機のない時代に子供を連れて日本にも来ちゃったっていうかなり先進的な女性で、幼少時から息子をアーティストにすることを明確に意識してた、ちょっとブッチャけた言い方をすると、かなりブッ飛んでた女性。だからこそ、いろいろな困難に見舞われ、それでもパワフルに、そして自由に生きた女性で、その姿はメチャメチャカッコイイし、映画として描きたくなっちゃった気持ちもよくわかる。まさに 'unsung hero' っていうか、歴史には知られざるドラマがたくさんあるけど、まさにそういう例のひとつだって言える。

映画自体は、イサム・ノグチ誕生前からレオニーが亡くなる 30 年ちょっとを描いてて、かなり濃密な約 2 時間になってる。ただ、決してわかりにくいわけでも、過剰にアーティスティックなわけでもなく、あまり基礎知識がなくても十分に楽しめる感じに仕上がってる点は特筆すべき点かな(良い原作を「これってトレーラー?」って思っちゃうようなカタチで映像化しちゃってる映画も多いんで)。いわゆる、ハリウッド映画のような派手さがあるわけじゃないんだけど、ミニシアター系にありがちな小難しい感じもなくて、いい意味でメジャー感があるっていうか、全国ロードショーに相応しい感じの仕上がり。映像も音楽も美しいし、描かれてるテーマも普遍的なので、わりと誰にでも勧めやすいって印象もある。実際、実家の親にチケットを送ってみたし。ウチの親でも観れちゃいそう。

あと、レオニーって女性の魅力とともに、やっぱり、イサム・ノグチってアーティストがいかに独特な存在感のアーティストだったのか、その一端が垣間見えるって意味でも面白い。実際、イサム・ノグチ自身も生前、母親の影響がいかに大きかったかをいろいろな機会に語っていんで。そもそもイサム・ノグチってアーティスト自身も、かなり先進的で、故に相当波乱に富んだ人生を送ったアーティストで、なかなか一言で簡単に表現しにくいアーティストでもあったりする。特に、アイデンティティの帰属の部分がかなり特殊で、故にあれだけユニークでユニヴァーサルな作品を作り出したんだろうけど、その一筋縄ではいかない特殊なアイデンティティを生み出した大きな要因のひとつが、まさにこの『レオニー』で描かれてる部分なんだろうし。

最後に、『イサム・ノグチ 宿命の越境者 上』のレヴューでも書いた通り、松井久子監督はWOMB で行われてるレジデント・ドラムンベース・パーティ、06S の MC で、個人的にも親交のある YUUKi MC の母親で、YUUKi くん自身も映画のプロデューサーを務めてる。その YUUKi くんのインタヴューも WOMB のサイトに載ってるんで(前編後編)、合わせてチェックしてもらえれば。母親と息子の物語を、母親と息子で作り上げたった点も、偶然とは言え、なかなか興味深い点だったりする。


* Related Post(s):

『イサム・ノグチ 宿命の越境者 上』ドウス昌代 著 Link(s): Previous review
イサム・ノグチの 84 年の生涯を綴り、2000 年に第 22 回講談社ノンフィクション賞を受賞した作品で、この上巻に映画『レオニー』のインスピレーションの源になった部分が収録されてる。

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