2011/11/30

The finale.

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 23 巻 ひかる宇宙編』
   安彦 良和 著 矢立 肇 / 富野 由悠季 原案(角川グループパブリッシング)★★★★★
 Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books


月刊『ガンダム A』で 2001 年から連載している安彦良和先生によるファースト・ガンダムの描き下ろしリライト版『THE ORIGIN』が、約 10 年をかけて遂にこの 23 巻で完結を迎えた。連載開始当初から、安彦先生の健康が何よりも心配だったので(連載前に入院していたんで。それに、最初の数話を読んだだけで、ある意味、クオリティに関しては何の心配もなかったんで)、まずはこうして無事に完結を迎えたことが嬉しい限りだし、感慨深い。

この『THE ORIGIN』シリーズに関しては、17 巻以降、最新巻が発売されるたびにレヴューしてきたんだけど、当然、それ以前からも読んでたわけで、もっと厳密にいうと、『ガンダム A』で連載開始時から毎月読んできたんで、この機に作品全体を振り返ってみようかな。まぁ、細かいエピソードを拾っていくとキリがないんでやめとくけど。

『THE ORIGIN』は、ファースト・ガンダムのキャラクター・デザインと作画監督を務めていた安彦先生が、あらためてそのストーリーや細かい設定を見直し、再解釈・再設定しながら(メカニック・デザインのリファインは大河原邦男先生が担当してる)コミックとして描き直した作品。基本的にはファースト・ガンダムのストーリーに沿って進行していくんだけど、アニメ版や映画版との変更点も多く、初めて語られるエピソードも多くて、特に 9 巻・10 巻の「シャア・セイラ編」〜 11 巻・12 巻の「開戦編」〜 13 巻・14 巻の「ルウム編」で開戦前からガンダム登場までの時期(つまり、ジオンの独立やシャアとセイラの物語、モビルスーツ開発のエピソード等)のストーリーまで描かれた点は大きな特徴であり、古いガンダム・ファンにとっては最大級の嬉しいサプライズだった。

ただ、「シャア・セイラ編」〜「開戦編」〜「ルウム編」が加えられたことだけが『THE ORIGIN』の魅力なのかというと決してそんなことはなくて、物語が完結した後にあらためて全編を読み直してみると、むしろ、『THE ORIGIN』の最大の魅力はそこにはないのかな、と思ったりもしたくらい(もちろん、「シャア・セイラ編」〜「開戦編」〜「ルウム編」は読み応え十分なんだけど)。

巻末に『THE ORIGIN』を描き終えたばかりの時点での安彦先生のインタヴューが載ってて、そこで「基本的に、ファースト・ガンダムと比べて改変や追加がある部分は疑問点や違和感、不足部分があると感じた部分で、ファースト・ガンダムと変わっていない部分はその描き方を全面的に支持しているからだ」みたいなことを言ってるんだけど、読み終えた後の率直な感想は、まさにその通りで、あの時代・制作環境等に起因するファースト・ガンダムのちょっとトンデモな点は自然に修正されつつ、味わい深い部分はより深みが加えられてる印象かな(ファースト・ガンダムとしての 'お約束' をキチンと押さえてる部分も含めて)。

安彦先生は 80 年代末頃からアニメの世界を離れて漫画家として活動してるんだけど、個人的に、アニメでもコミックでも共通してると思うのがキャラクターの描き方。特に表情ってことなんだけど、単純に喜怒哀楽のひとつではなく、驚きとか恐怖とかも含めて、複数の感情が混じり合ったような、何とも言えないキャラクターの描き込みがピカイチで、この『THE ORIGIN』でもその安彦先生らしさが存分に発揮されてて、'止め絵' 表現であるコミックでもあり、さらにもともとあった富野監督ならではの単純じゃない人物や世界観の設定・演出とも相俟って、結果として、最大の特徴になってる感じすらする。それぞれのキャラクターがそれぞれに一筋縄ではいかない複雑な心情を抱えつつ、大きな流れに巻き込まれていながらも、何とかその流れに抗って正気を維持したり自分の意志との折り合いをつけようとしている感じがビンビン伝わってきて。

同時に、コミックでありながらも、アニメーション的な描き方も効果的に使われてて、特に戦闘シーンなんかにはアニメーション的なダイナミズムも存分に感じられる。線自体は決して SF 的なテッキーな線を用いた描き方じゃなくて、むしろ柔らかさすら感じさせる絵なんだけど、メカもダイナミックに動いてて迫力があり、でも、同時に、いわゆる SF 作品とは一線を画す独特の味わいも醸し出してて。

結果として、ファースト・ガンダムのリライトでありながら、同時に、すごくオリジナリティも感じさせる仕上がりで、一言で言っちゃえば、数あるガンダム作品の中でも屈指の金字塔って呼ぶに相応しい出来映えかな、と。これまでにも、たびたび「福井晴敏による『機動戦士ガンダム UC』とともに、これぞまさに 'オトナのガンダム' と呼ぶのに相応しい」って書いてきたけど、まさにそう呼ぶに相応しい。もともと壮大なストーリーが最後までまったく隙がないまま、見事にフィナーレを迎えてくれた感じで。わかってもも感動的だし。「今後、ガンダムを知らない人が最初に手をつけるべきガンダムはコレでいいんじゃね?」って思っちゃうくらい。正直なところ、個人的にはファースト・ガンダムを観直す回数よりもこの『THE ORIGIN』を読み返す回数のほうが多そうな気もしてるし。これこそ、まさに 'the origin' って名の通り、基本書でありながら決定版って感じかな、と。

まぁ、このままの勢いで宇宙世紀モノの残りも描いて欲しいとか、アニメーションで観たいとか、いろいろ勝手な希望は前から考えてたんだけど、なんと、連載終了時にアニメーション化は発表されてる。詳細はまだ不明なんだけど、コレはコレでメチャメチャ楽しみ。『機動戦士ガンダム UC』のときにも同じことを思ったけど、変に中途半端なことをすることなく、いっそのこと、NHK の大河ドラマの枠とかやっちゃえばいいのに、とか思っちゃう。今や、ガンダムは日本の文化にとってそのくらいの扱いをしていいもんだと思うんで。


*『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』既発巻:

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