(Brownswood) ★★★★☆ Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp
前にレヴューした "GILLES PETERSON Presents Havana Cultura - New Cuba Sound" の続編で、元トーキング・ラウド(Talkin' Loud)/ 現ブラウンズウッド(Brownswood)主宰者であり、DJ / コンパイラーとして世界的に大きな人気を誇るジャイルス・ピーターソン(GILLES PETERSON)の '音楽の旅・キューバ編' の第 2 弾。'The Search Continues' ってサブ・タイトル通り、'旅の続き' って言える感じかな。
これまでにも関連作品をたびたびレヴューしてることからもわかる通り、個人的にはジャイルス・ピーターソンとはかなりツボがカブってる(もちろん、間接的に教えてもらってきたって意味でもある)し、前作も秀逸な内容だったんで、今回もかなり期待してたんだけど、決して期待を裏切ることのない出来映えで、「さすがジャイルスだなぁ」と素直に感心しちゃうような内容。かなり聴き応えがある出来映えに仕上がってる。アートワークの写真も、適度にベタで、メチャメチャいい感じだし。
この 'Havana Cultura' ってのは、英語版ウェブサイトの 'Who we are' ってページに 'A window on contemporary Cuban creativity' とか 'A global initiative to promote contemporary Cuban culture' って言葉があるように、現在進行形のキューバのカルチャーを広く喧伝するためのプロジェクトのようで、その一環として、ジャイルス・ピーターソンって人物を通してキューバ音楽の現在とか、その潜在的な魅力を広く知らしめることを目的にしてるって感じになるらしい。
前作の "GILLES PETERSON Presents Havana Cultura - New Cuba Sound" はキューバ革命から 50 周年の節目だった 2009 年にリリースされ、去年、その音源のリミックス集の "GILLES PETERSON Presents Havana Cultura: Remixed"(Links: iTS / Amzn)もリリースされてる。
基本コンセプトは前作を踏襲してる感じで、CD 2 枚組のヴォリューム(って書き方をせざるを得ないのが今の音楽産業を象徴してるのかな? 今後、こういう表現も変わらざるを得ないんだろうし)で、前作同様、ディスクごとにコンセプトが分かれてる。
Gilles Peterson presents Havana Cultura: The Search Continues // CD01 Teaser by Brownswood
ディスク 1 は、ジャイルス・ピーターソンズ・ハヴァナ・カルチュラ・バンド(GILLES PETERSON'S HAVANA CULTURA BAND)名義で新たにレコーディングされた楽曲群。キューバ人ジャズ・ピアニストのロベルト・フォンセカ(ROBERTO FONSECA)の助けを借りて現地の腕利きのミュージシャンたちを集めつつ、ジャイルス・ピーターソンはプロデューサーとしての手腕を発揮するカタチでレコーディングされてて、ラテン〜キューバ音楽の要素とソウル・ミュージック〜ジャズ / フュージョンの要素に、適度にクラブ・ミュージック以降の R&B / ヒップ・ホップ的なフレイヴァーをブレンドしたような、ハイブリッドでフレッシュなサウンドに仕上げられてる。
Gilles Peterson presents Havana Cultura: The Search Continues // CD02 Teaser by Brownswood
ディスク 2 はジャイルス・ピーターソンが現地で掘ったアーティストたちの音源を集めたコンピレーション。こう書くと、クラシックとかレア・グルーヴを掘ってきたように思われそうだけど(特にジャイルスの仕事ならなおさら)、そういうことではなく、収録されてるのは現地の新進気鋭で現役バリバリのアーティストたちの音源。キューバって、政治体制の違い(っつうか、ホントは単なる偏見なんだけど)から、'閉ざされてる' 印象を持たれがちだけど、実は全然そんなことなくて、伝統的なラテン〜キューバ音楽だけでなく、アメリカのソウル・ミュージック〜ファンクはもちろん、レゲトンやらヒップ・ホップやらまでシッカリあって、そういう要素が独特の面白いカタチでブレンドされてる感じ。まぁ、ちょっと考えれば、フロリダとかカリブ海の他の国々からの距離も遠くないわけで、人の往来はもちろん、電波なんかも届いちゃってるはずなわけで。そういう意味では、アメリカやヨーロッパの新しいサウンドの影響を避けることのほうが難しいはず。ただ、その調合のサジ加減がなかなか独特で、ブラジルのクラブ・ミュージックなんかにも似たようなところを感じるけど、やっぱりすごく面白いな、と。
まぁ、ブッチャけたハナシ、個人的にはキューバ音楽は全然詳しくないし、ロベルト・フォンセカ以外、名前も知らないんだけど、でも、まぁ、シーンの状況とはアーティストのプロフィールとか、そういう難しいことは何も知らずに、普通に「詳しくはわかんないけどいい感じのキューバ音楽の新譜」くらいな感覚でも全然楽しめちゃう感じではあるかな。
* * * * *
ちょっとハナシはズレるけど、ちょうど今、配布されてる "bounce" で、ジャイルス・ピーターソンが 'People Tree' のコーナーで取り上げられてて、読んでたらいろいろなことを思い出したんで(
YOUNG DISCIPLES "Road To Freedom" |
THE ROOTS "From The Ground Up" |
その後、実はインコグニートなんかはセールス的には成功してたんだけど、アシッド・ジャズ的な動きが全体的に勢い(というか、フレッシュさかな?)を失ったこともあるし、個人的にも、ハウスとかデトロイト・テクノとかに傾倒してたりしたんで、しばらくはジャイルスの動きはあまりチェックしてなかった(っていうか、チェックはしてたけど、それほどグッとこなかった)んだけど、それが、90 年代の後半にドラムンベースで再び接近することになったのは、我ながらちょっと不思議な体験でもあり、同時に、妙に納得がいく感じもあったかな。
個人的にドラムンベースを聴き始めたのは 90 年代半ば頃で、ロニ・サイズ(RONI SIZE)の主宰するフル・サイクル(Full Cycle)の音源だったり、DJ クラッシュ(DJ KRUSH)さんの UK 盤にリミキサーとして参加してた 4 ヒーロー(4HERO)絡みの音源だったり、ゴールディ(GOLDIE)だったり、LTJ ブケム(LTJ BUKEM)〜 ファビオ(FABIO)〜 グルーヴライダー(GROOVERIVER)辺りのミックスだったりして、この頃にはもう音楽の仕事を始めてたんで、なんとか多くのドラムンベースの作品を日本に紹介できないかなって熱心に動いてた頃だった。
ちょうどその頃、ジャイルスもトーキン・ラウドを 'いわゆるアシッド・ジャズ' から、'フューチャー・ジャズとしてのドラムンベース(及びクラブ・ミュージック)' って方向性にシフトしてて、結果的に数多くの名盤を世に送り出してシーンに大きな金字塔を打ち立てることになるんだけど、この頃には何度かジャイルス本人にも会ってて(まぁ、挨拶程度の関係だったけど)、実は日本のレーベルの A&R として、ちょっとアーティストの取り合い的なことまでしてたりして。まぁ、今にして思えば、ワールドワイドなブランド力とネットワークを持つジャイルス / トーキン・ラウドと、日本から同じ土俵で争っても限界があったのは当たり前だし、実際、結果的にトーキン・ラウドから出て良かったと思える作品も多いんだけど、当時は若干、忸怩たる思いを抱きつつ、でも、リリースされる作品はすごく好きで、何とも言えない印象だったのを覚えてる(もちろん、ジャイルスは気にもしてなかったと思うけど)。
RONI SIZE / REPRAZENT "New Forms" |
純粋にシーンでのインパクトって面では、やっぱり "New Forms" が圧倒的に強烈だったなぁ、やっぱ。幸い、ロンドンのジャズ・カフェで披露した初ライヴを観ることができたんだけど、ライヴ・バンドで披露されたドラムンベース・サウンドはメチャメチャ強烈だったし、"New Forms"(Link: YouTube)でバハマディア(BAHAMADIA)のラップをフィーチャーしてたのもバッチリだったし(イギリスのドラムンベースとアメリカのラップの組合せとしてもトップクラスの出来映えのトラックだと思う)、ベースラインでグイグイ引っ張っていく "Brown Paper Bag"(Link: YouTube)もメチャメチャドープだったし。ネクスト・レヴェルに突き抜けてる感がハンパじゃなかった。
4HERO "Two Pages" |
あと、この時期の重要なのは、実は同時に、ドラムンベースだけでなく、いろいろなスタイルの優れた作品をかなり高い打率で連発してたこと。この辺のリリースのクオリティの高さが、この時期のトーキン・ラウドの充実っぷりを象徴してる気がする。
INNERZONE ORCHESTRA "Programmed" |
まぁ、個人的には、この時期のトーキン・ラウドの方向性を示すショウケース的なコンピレーションとして 1997 年にリリースした "21st Century Soul"(Link: Amzn)に参加したクリーヴランド・ワトキス(CLEVELAND WATKISS)の作品が、ここに収録された "Kamikaze"(Link: YouTube)の 1 曲だけで終わっちゃったのが残念だったけど。この流れでアルバムを作ってれば、プログレッシヴでアヴァンギャルドな素晴らしいドラムンベース・アルバムになってたと思うんで。その後、クリーヴランド・ワトキスは、MAKOTO のアルバムに参加したり、2002 年リリースのアルバム "Victory's Happy Songbook"(Links: iTS / Amzn)収録の "Torch Of Freedom"(Link: iTS)の DJ パチーフェ(DJ PATIFE)・リミックス(Link: YouTube)とか、DJ パチーフェのアルバム "Na Estrada"(Links: iTS / Amzn)に収録されてるスティーヴィー・ワンダーのクラシック、"Overjoyed"(Link: iTS)のカヴァー(MAKOTO リミックスもアリ)とか、00 年代初頭にも秀逸なトラックを残してるんだけど、1997 年頃の時点だったら、もっとプログレッシヴでエッジの利いたサウンドのドラムンベース・アルバムになってた気がして。まぁ、今さらとやかく言っても仕方ないけど。ジャイルス自身にその意思があったかもわかんないし。
トーキン・ラウドがその後、どうなったのかは詳しくは知らないけど、リリースを見かけたのは 2004 年頃までだったかな? 2006 年にはブラウンズウッドをスタートさせてるんで、たぶん、2004 年頃にはストップしてたんだろうな。その頃は、ジャイルス自身もメジャー・レーベル内で自身のレーベルを運営をすることにストレスを感じてた的なハナシも漏れ聞いてたりもしたし。まぁ、トーキン・ラウドの作品の中には、明らかにメジャー・レーベルじゃないとできなかったこともあったと思うし、一定以上の意味と価値はあったと思うけど、同時に、そこに(決して小さくない)ストレスがあったことも容易に想像できる。
トーキン・ラウド以降のジャイルスの印象は、個人的には 'コンピレーション' かな。もちろん、ほどなくブラウンズウッドを設立したし、DJ としてもラジオでもクラブでも活躍してたし、それまでにもいいコンピレーションをたくさん編纂してたけど、より一層、その傾向が強くなって、もう、'コンピレーション職人' って感じ。まぁ、個人的にツボなモノが多かったせいもあるけど。この印象は、基本的には今も続いてるかな。
"GILLES PETERSON in Brazil" |
同じシリーズでアフリカ編の "GILLES PETERSON in Africa"(Link: Amzn)ってのも出てたりするんだけど、個人的にすごくツボだったのはアメリカのレア音源を掘った "GILLES PETERSON Digs America"(Link: iTS / Amzn)と "GILLES PETERSON Digs America 2"(Link: iTS / Amzn)の 2 枚。「ブラジルとかアフリカとかならともかく、アメリカにもまだまだこんなお宝があったなんて!」って感じで、素直に感服しつつ愛聴してた。もちろん、今もそれは続いてて、その一環として 'Havana Cultura' シリーズなんだけど。
ブラウンズウッドに関しては、アーティストとしてメチャメチャ魅かれるって感じのモノはあまりなかったりして、正直、トーキン・ラウドほどのインパクトは受けてなかったりもするけど、でも、コンピレーションを中心についついチェックしちゃうし、個人的にはエレクトロニカ系の 'Electr*c' シリーズ(Links: iTS / Amzn)がわりと気に入ってたりする。
思えば、ジャイルス関連の作品を聴き続けてもう四半世紀になるわけで、そう考えると、それはそれでなかなか感慨深かったりもする。常にメチャメチャ好きってわけじゃないんだけど、時々、ズバッとツボを突いてくるし、やっぱり、なんだかんだいってついつい気になる存在だったりもするし。
* * * * *
ハナシを 'Havana Cultura' に戻すと、前作の "GILLES PETERSON Presents Havana Cultura - New Cuba Sound" のレヴューでも「キューバ / ラテン音楽好きはもちろん、ジャズ / レア・グルーヴ的な視点(っつうか、ジャイルス的な視点)の音楽が好きなら間違いなく楽しめる好企画の好盤。あえて苦言を呈すと、できれば、もうちょっと温かい季節に聴きたかったかな」って書いたけど、感想はまったく同じ。個人的には、'音楽を聴く環境' って感覚的にけっこう大事なんで(季節とか時間帯とか場所とか。それこそ、前にレヴューした "Red Hot + Rio 2" をかなり愛聴した大きな要因のひとつはリリース・タイミングと季節感だったと思うし)。
* Related Item(s):
"GILLES PETERSON Presents Havana Cultura - New Cuba Sound" Link(s): Previous review
'Havana Cultura' シリーズの第 1 弾。キューバ革命 50 周年のタイミングでリリースされた作品で、キューバ音楽のディープな '今' を堪能できる。
0 comment(s)::
Post a Comment