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前にも書いたけど、「1972 年生まれのソウル好き」って共通点から勝手に親近感を抱いてるヴェテラン・ラッパー、コモン(COMMON)の通算 9 枚目のアルバムで、リリースは 2011 年の 12 月。前作の "Universal Mind Control" のリリースが 2008 年だったから、けっこう久々のリリースってことになる。トピック的には、久々のリリースであるだけでなく、ワーナー・ブラザース(Warner Bros)移籍第 1 弾リリースでもあり、アルバム全体のプロデュースをシカゴの朋友であるノー・ID(NO ID)が手掛けてたりする等、わりと話題には事欠かない感じだった。
特に、オールド・ファンとしては気になったのはやっぱりノー・ID の起用。まぁ、正直なところ、そのハナシを聞いたときは、嬉しいような、でも、同時に「今、コモンとノー・ID の組合せってアリなのか?」的な感じもあって、半信半疑っていうか、楽しみと警戒感が半々くらいだった感じかな。
ただ、実際にアルバムを聴いてみたら、そんな心配は取り越し苦労だったっていうか、何の問題もない出来映えで、結果的にノー・ID の起用は成功だったって印象。コモンらしさを上手く引き出しつつ、でも、決して単なる懐古主義的な感じではなくて。コモンってアーティストのスタンスとかキャリアを鑑みても、なかなか意味深い感じに仕上がってるようにも思えてくるし。
もともとは春頃のリリースが予定されてたんだけど、実際に動き出したのはナズ(NAS)との共演曲 "Street Dream" が先行シングルとしてリリースされた 7 月頃から。
コモンもナズも今のシーンではすっかりヴェテランって感じの存在になってるけど、 ヴェテランの名に恥じないなかなかタイトなフロウを披露してて、ノー・ID のトラックともどもアルバムへの期待を煽るのに十分な内容だった。3 人のインタヴュー(Link: YouTube)も観れるんだけど、なかなかゴキゲンな様子。
その後、"Blue Sky"・"Sweet"・"Celebrate"・"Raw (How You Like It)" と立て続けにシングルがリリースされて、話題が絶えないままアルバムがリリースされた感じ。まぁ、わりとオーソドックスっていうか、メジャーらしい展開って言えるのかな。
ブログとかでは便利だから並べて貼っちゃったけど、個人的には PV ってあまり好きじゃない(なんか芝居がかりすぎてて失笑っちゃうんだよなぁ、やっぱ。まぁ、実際に芝居をしてるんだけど。なんでみんな違和感を感じなんだろ? もちろん、例外的に面白い PV もあることは否定しないけど)し、実際、'聴く' 手段として '鳴らす' ことは多くても、実は '観る' ことはあまりないんだけど、まぁ、これだけ立て続けに PV を見せられると、それなりに気合いが入ってる(コストとエネルギーをかけてる)ことは伝わってくるし、12 曲中 5 曲が聴けちゃってるんで、アルバムの全体像もかなり見えてきた感じだった。
で、実際にアルバムを聴いてみたんだけど、正直言うと、単に収録曲のメインの 5 曲を聴いてた段階とはちょっと印象が変わったかな。いい意味で。5 曲を聴いてた段階では、「どれも悪くはない、っつうか、むしろ佳曲だと思うけど、強烈なインパクトがあるってほどではないなぁ」くらいな感じだったんだけど、アルバムを曲順通りに通して聴いてみたら印象が上方修正された感じで。まぁ、「強烈なインパクトがあるってほどではない」って印象は変わってないんだけど、純粋にひとつのアルバム作品として、すごくタイトにまとまってるなぁ、と。
全 12 曲で 50 分程度って長さ自体もコンパクトだし、アルバムのタイトル・トラックと呼ぶべき 2 曲、アフロ・アメリカン・カルチャーのリヴィング・レジェンドの 1 人として知られる詩人のマヤ・アンジェロウ(MAYA ANGELOU)と共演した "The Dreamer" がオープニングを飾り(この曲に関してはちょっとした誤解もあったけど)、ジョン・レジェンド(JOHN LEGEND)をフィーチャーした "The Believer" が締めくくる展開はなかなか秀逸。流れとしては、前半がわりとハードでダークな感じで、中盤が解放感があってポジティヴな感じになりつつ、最後はエモーショナルに終わる感じで、違和感とか飽きとかを感じずに聴き通せる。
特に、実質的なラスト・トラックの "The Believer" でのジョン・レジェンドのヴォーカルとか、単体で聴くと若干引いちゃうくらいの大袈裟な歌い上げっぷりなんだけど(まぁ、それが彼の魅力でもあるんだけど)、アルバムの最後に聴くと、なんか、ちょっとグッときちゃうから不思議。まさに構成の妙っていうか、曲順の妙っていうか。一般的には、アルバムとして決まった曲順でまとめて通して聴かれることが少なくなってきてるとは思うけど、こないだレヴューしたザ・ルーツ(THE ROOTS)の "Undun" といい、このアルバムといい、こんな時代に(だからこそ?)ヴェテランがこういう作品を作ってくれてることは嬉しい限り。まぁ、単なるノスタルジアっていう見方もあるかもしれないけど、でも、個人的にはそんなこともないと思ってるんで。
ちなみに、YouTube で以下のように本人が全曲解説 + Q&A なんかもしてたりする。これもなかなか見応えアリ。
ちなみに、ちょっと前からドレイク(DRAKE)とのビーフも勃発中らしく、1 人のラッパー / MC = ヒップ・ホップ・ゲームのプレーヤーとしてもまだまだやる気満々らしい。まぁ、個人的にはヒップ・ホップ・ゲームにはそれほど興味がないんで、わりとどうでもいいんだけど。
COMMON (left) and NO ID (right) |
コモンのこれまでのディスコグラフィは以下の通り。
- "Can I Borrow A Dollar?" (1992) Link: Amzn
- "Resurrection" (1994) Link: Amzn
- "One Day It'll All Make Sense" (1997) Link: Amzn
- "Like Water For Chocolate" (2000) Links: iTS / Amzn
- "Electric Circus" (2002) Links: iTS / Amzn
- "Be" (2005) Links: iTS / Amzn
- "Finding Forever" (2007) Links: iTS / Amzn
- "Universal Mind Control" (2008) Links: iTS / Amzn
- "The Dreamer / The Believer" (2011) Links: iTS / Amzn
なんで、「オールド・ファンとしては気になったのはやっぱりノー・ID の起用」なのかっていうと、ノー・ID はコモンの最初の 3 枚のアルバムの大部分をプロデュースした同郷・シカゴ出身のプロデューサーだから。コモンは 1972 年生まれなのでデビュー時は 20 歳だったんだけど、'(当時のヒップ・ホップ・シーンの中では決して中心的な街ではなかった)シカゴの若造' ってイメージだったのが、この 3 枚でシーンの中で確固たる地位を確立したって印象だった。
"One Day It'll All Make Sense" (1997) |
"Be" (2005) |
コモンのキャリアをあえて時期で分けて考えると、ソウル・クエリアンズのメンバーとの共作をメインにしつつ、DJ プレミア(DJ PREMIER)との待望の共演も果たした "Like Water For Chocolate" 〜 "Electric Circus" の時期が第 2 期、"Be" 〜 "Finding Forever" 〜 "Universal Mind Control" の GOOD ミュージック期が第 3 期ってことになるのかな。コモンとしても、多くのプロデューサー / アーティストとの共演でアーティストとしての幅も広がったし、MC としてもさらなる円熟を見せた印象で、個人的にも、"Like Water For Chocolate" と "Be" はかなりお気に入り。特に "Be" は数あるカニエ・ウェスト関連作品でも最高傑作だと思ってるくらいだったりして(まぁ、カニエの人気っぷりを見てるとどうも少数意見っぽいけど)。
"Accept Your Own and Be Yourself (The Black Album)" (1997) |
また、同時に、カニエ・ウェストを見出して指導してきた人物としても知られてて、2004 年にカニエ・ウェストが設立したレーベル / マネージメントの GOOD ミュージックの社長を務めたり、最近、デフ・ジャム(Def Jam)の副社長に就任してたりして、単にプロデューサーとしてだけでなく、ビジネス・サイドでもヒップ・ホップ・シーンの VIP だったりする。コモンも GOOD ミュージックに所属してたわけだし、作品上の関わりがなかった、つまり、「一緒にプロダクションはしてなかった」だけで、別に疎遠になったわけじゃなかったってことだったんじゃないかな。特に一緒にやる必要がなかっただけで。まぁ、その辺の事情はあまり詳しくないんであくまでも推測なんだけど。
なんで「その辺の事情はあまり詳しくない」かっていうと、"Accept Your Own and Be Yourself (The Black Album)" 以降のノー・ID の動きとかプロデュース作品に個人的にあまり興味がなかったから。プロデュース作品は超メインストリームなアーティストたちの曲だから、当然、目や耳にすることは多いし、GOOD ミュージックやらデフ・ジャムやらも言わずと知れたレーベルなんで、その辺の動きはもちろん、全然知らなかったわけじゃないけど、まぁ、単純にあまり好みじゃなかったんで。
それが、今回のノー・ID の起用を聞いたときの、「半信半疑っていうか、楽しみと警戒感が半々くらい」だった '半疑' と '警戒感' の理由だったんだけど。しかも、コモンは、これまでのアルバムではメインのプロデューサーを据えることはあっても、アルバム全体を 1 人のプロデューサーで作ったことも実はなかったし(だから上では 'メイン・プロデューサー' って書き方をしてる)。
まぁ、これはコモンっていうアーティストの問題っていうよりも、一般論としてラッパーのアーティストとしての在り方みたいな部分のハナシになってくるんだけど。っていうのは、当たり前だけど、コモンはソロのラッパーであり、他の多くのラッパーと同様、自分でトラックのプロダクションはやらないので、作品を作るときは当然、プロデューサーを選び、トラックを提供してもらって、曲ってカタチに仕上げる。それを一定数集めたモノがアルバムになるわけだけど、多くのラッパーのアルバムは曲ごとにプロデューサーがバラバラなので、アルバム全体の統一感的なモノを保つのが難しくなる(もしくは、その意志すらない場合も多そう。まぁ、どう考えるかはもちろん本人次第で、善し悪しの問題ではなく好き嫌いの問題でしかないけど)。まぁ、言ってみれば、歌ってる(ラップしてる)人間だけ同じなコンピレーションみたいなモノになりがちで、それがヴァラエティに富んでてお得感があるって考え方もあるけど、個人的には、ひとつの作品としてのアルバムの魅力を損なってるような気がしてて、わりとヒップ・ホップのアルバムの潜在的な問題っていうか、ちょっと違和感を感じることが多い部分だったりもする。
もちろん、すべてのラッパーがその辺のことを気にしてないわけじゃなくて、コモンも比較的アルバム全体の統一感を大事にしてきたタイプ。1 枚のアルバムに幕の内弁当的に旬なプロデューサーを揃えたりせずに、アルバムの大部分を特定の 'メイン・プロデューサー' に任せることで全体の統一感とか一貫性みたいなモノを担保してきてるんで。まぁ、アルバムごとにいろんなことを試してはいるんで、どうしても当たり外れは出てくるんで、全部がメチャメチャ好きってわけじゃないけど、それも、ラッパーである以上、ある程度、仕方がないことだし、逆に、ラッパーだからこそできる可能性の触れ幅でもあると思うんで、そういう意味では、試行錯誤を繰り返しながら、着実且つ真摯にキャリアを重ねてきてるって言えるんじゃないかな。
実は、コモンって個人的に一番好きなラッパー / MCだったりする。これは、前にギャングスター(GANG STARR)のグールー(GURU)についてのエントリーを書いてたときにいろいろ考えてて気が付いたことなんだけど、結局のところ、一番好きなヒップ・ホップ・グループがギャングスターで、一番好きなヒップ・ホップ・アーティストが Q・ティップで、一番好きなラッパー / MC はコモンだな、と。ギャングスターは好きだけど、あくまでもグループとしてだし、Q・ティップはラッパーとしてというより、ラッパーでありプロデューサーでもあるヒップ・ホップ・アーティストとして好きなんだし、モス・デフ(MOS DEF)も好きだけど、ピュアにラッパーとして見るとちょっとトリッキーっていうか、変化球すぎるし、ラキムももちろん好きだし、クラシックも数多いけど、個人的にはちょっとリアルタイム感が欠けるし、キャリア全体を俯瞰してみると、ちょっと物足りない部分もあるし。そう考えると、声質やフロウ、ラップのスタイル、(日本人にはやや難易度の高い部分だけど)ライミングとリリック、プロデューサーやトラックのセレクト等、やっぱり一番好みなのはコモンだな、と。
まぁ、今回の "The Dreamer / The Believer" がキャリアの中で最高傑作なのかって言われると、正直、そこまでの出来映えではないかな? とは思うけど、個人的にメチャメチャ好きな "One Day It'll All Make Sense" と "Be"、"Like Water For Chocolate" に次ぐくらい。コレって、個人的にはかなりの高評価で、上に書いたコモンのキャリアに当てはめると、第 4 期の幕開けを飾るに相応しい 1 枚って感じかな。今後もけっこう頻繁に聴くことになりそうな予感がしてるし。
ちなみに、今年中にナズとのコラボレーション・アルバムも予定されてるんだとか。しかも、タイトルは "Nas.Com" に決まってるらしい。リリースは後半以降になりそうだけど、今回の "Ghetto Dreams" を聴く限り、なかなかタイトなアルバムになりそうなんで、すごく楽しみ。
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