2009/07/31

Supporters' delight.

世界のサッカー応援スタイル

『サッカー批評』編集部 編著(カンゼン)

内容としては、まさにタイトル+帯の「月曜日、ミランのマフラーでケツを拭くのが最高の喜びだぜ!」っていうローマ・サポーターの言葉に象徴されてる通り。まぁ、「サッカーのサポーター」という世界中の愛すべきアホどものエピソードが、ヨーロッパを中心に、中南米、アジア・アフリカ…に渡って紹介されてる、と。

編集は『サッカー批評』の編集部で、原稿はそれぞれ、その国のサッカー事情に通じてるライターが担当してるんだけど、
サッカー批評』っていえば、個人的にはわりとちゃんと読んでる数少ない日本のサッカー雑誌なんで、内容的には、まぁ、心配してないっつうか、ヒドイことにはなってないだろうっていう安心感は持ってたんだけど、その期待は裏切らない内容になってるかな。多少、気になる点はなきにしもあらずではあるけど。

内容的には、イングランドやイタリア、スペインといったヨーロッパ各国をメインにしつつ、中南米はブラジルとアルゼンチンを中心に、メキシコや韓国、さらに中東辺りまでカヴァーするって感じなんだけど、まぁ、全体として言えるのは、「どいつもこいつもアホだなぁ、ホントに」ってこと。もちろん、これは褒め言葉。まぁ、言っちまえば、「お前の母ちゃん、デベソ!」レベルの低俗さ(まぁ、もっともっと言葉遣いは下品だけど)の連発なんだけど、だからこそのリアリティというか、生活感というか、生々しさみたいなモノが感じられて。こういうのはどうも、アホであればアホであるほど愛らしく感じるらしい。まぁ、もちろん、節度とかスタイルの好みの問題はあるけど。アホさと、真直ぐな気持ちと、行動力と、ユーモアとウィットと。そういうモノに満ち溢れた、すごく人間臭い世界だなぁ、と。

そもそも「サポーター」って存在自体がかなり謎っていうか、ある種、意味不明なことだったりするから、まぁ、理屈でどうこう言っても無意味だったりする。自分自身、マリノス・サポーターの中に数年間、身を置いてるけど、周りを見渡せば、
まぁ、どいつもこいつも、揃いも揃ってアホばっかだし(そこに自分も含まれてることは言うまでもない)。

まぁ、サポーターって、よく「なんで、あんなに必死に、時間とか金とかエネルギーを使って人の応援してるの?」みたいなことを言われがちで、それはそれで一見、正論のように思われるんだけど、もうこの時点でちょっとズレてるっていうか、当事者の感覚としてはちょっと違ってて。具体的には「人の」って部分が。奇しくも我らがマリノスの監督時代に岡田武史氏が「
ファンはお金を払って感動を買う。サポーターはチームとともに闘う中で感動を得る。」って名言を残してるけど、この言葉以上にサポーターについて見事に表現してる言葉は知らない。

まぁ、個人的にはペットとか子供とかみたいなもんな気がしてるんだけど。ペットも飼ってない(っていうか、ペット自体、ちょっとどうかと思うところもある)し、子供もいないんでイマイチ説得力に欠けるけど。ポイントは、思いっ切り当事者で、なおかつ、理屈じゃない、ってこと。正論とかロジックとかとは最もかけ離れたところにある感覚っていうか。でも、なかなか思い通りにはいかないところも似てるかな。しかも、イベントではなく、日常である、と。これもスゲェ大事なポイント。

この『世界のサッカー応援スタイル』の内容にハナシを戻すと、まぁ、サポーターって一般的にはイングランドとかイタリアとかのイメージが強いけど、個人的に興味があったのはトルコとかメキシコとかだったりして。どっちも世界のサッカーの勢力図の中では、決してトップ・クラスにランクされるわけじゃないけど、でも、メチャメチャ独自のスタイルで、メチャメチャ熱いところがスゲェいいな、と。もちろん、アルゼンチンとかスペインとかブラジルとかも興味あったんだけど。こういう本を読んでると、サッカーってやっぱ文化なんだなぁ、ってあらためて思うし、もっと文化とか歴史とか言語とかのことを知りたくなってくる。

ただ、内容的に、チャントが重要な意味を持ってるんで、歌詞がキチンと紹介されてるのはありがたいんだけど、やっぱりサウンドとして聴きたいな、って気になっちゃう。まぁ、録音してってなると難しいとは思うけど。例えば、サイトと連動して YouTube で動画で観れる(聴ける)とか。それから、歌詞がたくさん載ってるから縦書きだと読みにくいとか、デザイン的にもうちょっと読みやすくできたんじゃね? とか、細かいところで気になるところはあるけど。

あと、タイトルもちょっと気になるかな。「世界の…」っていうなら日本にも触れたほうがいいんじゃね? って普通に思うけど。キング・カズこと三浦知良も言ってたからね。「日本は世界で闘えますか?」ってバカな質問(日本では、この手のハナシ、よく聞くけど)をした記者に対して、「日本も世界なんですよ」って。「海外の…」っていうなら別に気にならないけど。日本のサポーターのことも、あえて同じ感覚で記事にしてもいいし、逆に外人に書かせても面白いと思うし。

まぁ、そうは言っても、海外のサポーターに関する情報って、雑誌の記事とかでバラバラにいろんなところで触れられることはあっても、こういうカタチでまとめて、比較しながら見られる(読める)って意味ではすごく面白いし、そういう意味では貴重な一冊なのかな。マイナーな国とかクラブにも言及してるところも好感が持てるし。やっぱり、メインストリームな「大国」だけじゃなく、いろんな国にそれぞれの、いろんなスタイルのサッカーがあって、それがそれぞれの国の人にとって日常になって、文化になってるのがサッカーの素晴らしさだと思うし。もちろん、サッカーのレベルとかも大事なことではあるけど、必ずしも最重要じゃなかったりもして、それもまたサッカーのいいところだな、と。

日本では、試合中、歌い続けてる日本のサポーターのスタイルはおかしいみたいなことをしきりに主張するサッカー・ライターとかブロガーとかもけっこういたりして(その人たちが好きな「本場」と比較して)、そういう意見に影響されちゃってるサッカー・ファンもけっこう多かったりするんだけど、まぁ、好みは好みとして認めつつも、これを読むと、そういう人が比較対象として挙げてる「本場」だってスタイルはいろいろだってわかるし、そのくらいでいいんじゃね? って思ったりもする。まぁ、こういう議論って、あらゆる文化には付きものだけど。例えば、ヒップ・ホップとか。

日本はまだ、いろんな国のいろんなクラブのスタイルを見たり、聞いたり、マネしたりしながら採り入れて、独自のスタイルってのをそれぞれのクラブのサポーターが試行錯誤しながら作ってる真っ最中だと思うし、そう簡単には世界のサッカーの地図の中でメインストリームな存在にはならないとは思うけど、別にそれが絶対不可欠なことじゃないし。レベルが高くなることとかメインストリームになることも大事だけど、独自のカルチャーに、面白いカルチャーになることがもっと大事だと思うし、そのほうが面白いと思うし。

最後に、個人的に一番気に入ったトルコの
ベシクタシュのサポーターの発言を。「あなたにとって、ベシクタシュとは?」って質問への答え。なかなか意味深で、味わい深い。
俺にとってベシクタシュは数学のようなものさ。
Supoort

2009/07/30

Cool atmosphere.

"On the Seventh: Park Hyatt Chicago" Presented by KING BRITT 
(Milan Records) 

スッカリ夏真っ盛りで、毎日、(晴れようが晴れまいが)クソ暑い日が続いてるわけで、個人的には、暑いなら暑いで、それはそれでいいというか、エアコンなんかかけずにアイスとか喰いながらグダグダするのがいいかな、なんて思ったりしてる(仕事する気はしないけどね)んだけど、まぁ、こんなときはブラジリアンとかレゲエとかサーフ・ミュージック系とか、いかにも「暑い時期」って感じの音か、もしくは涼しげな音を聴きたくなるもんで、この "On the Seventh: Park Hyatt Chicago" は後者に当てはまる 1 枚。リリースはちょっと前なんだけど、こんな時期にピッタリかな、と。

タイトルに 'Park Hyatt Chicago' とある通り、シカゴのパーク・ハイアット・ホテル、特に NoMI レストラン / ラウンジ / ガーデンのある 7F をイメージして 2004 年にリリースされたコンピレーションで、手掛けてるのはキング・ブリット。まぁ、もちろん、シカゴのパーク・ハイアットには行ったことはないけど、かなりオシャレでセレブな空間らしく、しかも、オシャレでフューチャリスティックなアフロ・アメリカン・ミュージックを得意とするキング・ブリットってことで、まぁ、相性がバッチリなのは予想はできたけど、予想以上にいい感じな仕上がりなんで。

2009/07/29

The originators.

「対談: 富野 由悠季 x 安彦 良和」(『ガンダム A(2009 年 09 月号)』掲載) 
(角川グループパブリッシング)  Link(s): Amazon.co.jp

ガンダム専門の月刊コミック誌『ガンダム A(エース)』の最新号に掲載されてる富野由悠季・安彦良和という 2 人の巨匠の対談。何でも、それぞれ等身大ガンダムを見た後の 6 月 30 日に、その近くのホテルで行われたんだとか。

扉を含めて全 10P なんだけど、3 時間に渡って行われたらしく、かなりのヴォリュームで、ロング・インタヴューならぬロング対談って感じ。もちろん、文量だけじゃなくて、内容もメチャメチャディープで、読み応え十分な内容になってる。

富野由悠季監督はもちろん、言わずと知れたガンダムの原作者で、まぁ、一般的には「ガンダムの生みの親」として知られてる人物。一方の安彦良和先生は、ファースト・ガンダムでキャラクター・デザインと作画監督を務めた人物で、2001 年 6 月からガンダム A』で、ファースト・ガンダムのストーリーや細かい設定を見直し、再解釈・再設定しながら描いている『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を連載してる。このふたりにメカニカル・デザインを担当した大河原邦夫氏を加えた 3 人がファースト・ガンダムを語る上で欠かすことができないコア・メンバーなのは広く知られてる通りなわけで、そのうちのふたり、特にストーリーや世界観、登場人物のキャラクターや心理描写・演出等、ガンダムを他のアニメーションと差別化した重要な要素に多大な影響を及ぼしたふたりの対談ってことで、まぁ、普通に考えても大きなトピックなんだけど、そんな期待を遥かに上回るくらいディープな内容になってて。

2009/07/28

Everlasting flow of sounds.

"River: NIKE+ Original Run".REI HARAKAMI 
(NIKE+ / iTunes Store) 

ちょっと前に砂原良徳の "LOVEBEAT" と小沢健二の "Ecology Of Everyday Life - 毎日の環境学" をレヴューしたけど、別にティピカルに日本っぽいわけではないのに、なぜかすごく日本人っぽさとか日本ならではの美意識を強く感じさせて、なおかつ、日本が世界に誇るべきメイド・イン・ジャパンのエレクトロニカって言えば、やっぱり忘れちゃいけないアーティストととしてレイ・ハラカミさんがいる。

レイ・ハラカミさんっていえば、1998 年の "Unrest" を皮切りに、1999 年の "opa*q"、2001 年の "Red Curb"(と "レッドカーブの思い出 - trace of red curb dedicated from rei harakami")、2005 年の "Lust"、2006 年の "わすれもの"、今年リリースされた "あさげ - selected re-mix & re-arrangement works / 1" と "ゆうげ - selected re-mix & re-arrangement works / 2"、さらにハラカミさんのことを「世界遺産」と称してベタ褒めしてる矢野顕子さんとのユニット、yanokami 名義の "yanokami"(2007 年)と "yanokamick - yanokami English version -"(2008 年)と素晴らしい出来映えの作品が多いアーティスト。どれか 1 枚を選ぶのは難しいんで、ここはあえて、ちょっと毛色の違う、でもやっぱりハラカミさんらしさが見事にでてていい感じの仕上がりの "River: NIKE+ Original Run" を取り上げてみようかな、と。個人的にもすごく気に入ってるし、思い入れもあったりするんで。

2009/07/27

Banned on the run.

大麻ヒステリー

. :武田 邦彦 著(光文社)

前にレビューした
長吉秀夫氏の大麻入門』に続いて、大麻に関する新書が発売されたので早速読んでみた。

著者は資源材料工学の学者で、特に環境問題に関して、わりとビミョーな感じの書名の著書が多い(ように、少なくとも個人的には感じる)人物。本人が TV に出演してるのも観たことがあるけど、TV で観た印象も文章(文体)から受ける印象もやっぱりビミョーだったりする。別にキライではないけど、好きにはなれない感じと言うか。まぁ、何の疑問も抱かずに情報を鵜呑みにして、自らを顧みずにそれを正義であるかのように振りかざす偽善者よりは好感が持てるけど。

あと、
大麻ヒステリー』って、言い得て妙というか、まさに日本の現状を的確に言い表してると思ったんで、それも含めて、ちょっと興味はあるな、と。
大麻取締法は、もしこの法律がなければ犯罪者にならない善良な人を犯罪者にしている。つまり「法律が犯罪者を作っている」といってもいい状態なのである。
著者は
本書でこう述べてる(帯にも「大麻は痲薬ではない。法律が犯罪を生み出す」と書いてある)わけだけど、もちろんこれだけでは説明不足だし、同時に、いろんな含みがあったりもするように思えるんだけど、これを説明するのが本書の大きな目的のよう読める(だからこそ、あえて説明不足にし、含みも持たせてる)。そのためには世界的・歴史的な(特にアメリカでの)大麻取締の歴史と日本で大麻取締法が制定された経緯を知る必要があるし、さらに大麻という植物自体について、痲薬(あえて「麻薬」と書かないところがポイント)とは何かということについて、日本の歴史・文化の中で大麻(という植物)がどういうモノとして扱われてきたのか等も知る必要があるし、そういったことを知れば、なぜこのように言うのかがわかる、と。

著者はまず、大麻をあくまでも植物であり、世の中には向精神性の成分である THC(テトラヒドロカンナビノール)を含む大麻と含まない大麻があり、THC を含まない大麻(昔から日本に植生していたのはこのタイプなんだとか)はそもそも大麻取締法の対象であること自体がおかしいことを強調してる(大麻っていうのは医療用とか食用とかいろんな用途のある作物なんで、これはもちろん、至って真っ当なハナシ)。つまり、大麻っていうのはあくまでも植物でしかなくて、その中には THC を含む品種もあるってことは事実ではあるけど、「大麻=痲薬」ではない、と。

そして、それを踏まえた上の議論として、THC ってのがそれほど悪いモノなのか? 前途ある若者の未来や善良な社会人の社会生活を大ナシにしても仕方ないほど悪いことなのか? ってハナシになる。その比較対象として、ヘロインやアヘン、コカインといった向精神薬や覚醒剤、アルコール、タバコ、コーヒーなどがあるんだけど、(THC を含む)大麻はヘロイン、アヘン、コカイン、覚醒剤等と同じような扱いを受けてるんだけど、実際のところどうなのか? その根拠は? 実はアルコール、タバコ、コーヒー程度(もしくはそれより良質な)の嗜好品なんじゃね? みたいなハナシになる、と。まぁ、結論は言わずもがなだけど。

まぁ、著者のスタンスは、どっちかっていうと「よくわからん経緯で、自分たちでキチンと考えもせずに作った(できた)法律で善良な市民を犯罪者にしてる」のが今の日本人で、それはサブ・タイトルにもある通り、「思考停止になる日本人」に他ならないし、そういう状況は「科学者としては」(この表現を著者はよく用いる)疑問を提起せざるを得ない、と。他の著書も基本的には同じスタンスで書かれてるっぽくて(本人のサイトにもこんな随筆が載ってる)、必ずしも、いわゆるカンナビストとか大麻解放運動をしてる活動家ってことではないっぽいんで、まぁ、物足りない部分があったり(例えば、医療大麻への言及とか、最近の海外での動きとか、他の嗜好品、特にアルコールとの比較とか。タバコに関しては、それなり以上に規制されてきてると思うけど、アルコールに関しては、異常な状態だと思うので)、ちょっと違和感(というか、説明不足?)を感じるところがあったりする(例えば、痲薬と南北の社会の関係のハナシとか、面白いハナシなだけにもっと突っ込んで言及してくれればいいのに、とか)部分もなきにしもあらずだけど、逆に、そういう立場の人からもこういう意見が出ることはいいことだな、なんて思ったりもする。

これまでにも何度も書いてる通り、個人的には、安易でお手軽で打算的な印象を強く感じる昨今の新書の流行みたいなのはキライなんだけど、まぁ、それがそれなり以上に支持をされてるのも事実なわけで、新書で取り扱われるテーマってのは、今の日本の社会を如実に(赤裸々に? エゲツなく?)映し出してるとも言えると思うので、長吉秀夫氏の大麻入門』に続いて、今年に入って 2 冊、マス・メディアがあまり取り上げたがらない大麻についての新書が出版されたのは、やっぱり、今の流れに疑問を感じるマトモな人もいるってことの証なのかな、と思うとちょっとホッとしたりもするけど。あと、マトモと言えば、最近、『週刊朝日』がけっこう頑張ってたりする(例えば、これとか)。

まぁ、もちろん、まだまだ全然不十分だけど。特に地上波 TV での取扱とか、異常すぎるし(NHK も含めて。例えばこれとか。YouTube の映像は消されてるけど)。あと、前に植草一秀氏の知られざる真実』のレヴューの中でもチラッと書いたけど、元はっぴいえんど鈴木茂氏が大麻の所持で逮捕されたときに再発が予定されてたはっぴいえんどの CD販売中止になったこと(iTunes Store だけは何喰わぬ顔して売ってて、超好感持ったけど)とか、まさに「大麻ヒステリー」以外の何モノでもないし。

ドラッグって意味ではアルコールもタバコもそうだと思うけど、こういう問題への対応って、つまんねぇ正論を振りかざしても意味がなくて、その社会がいかにケツの穴が小ちゃくてみみっちいか、寛大でピースフルかを示す指標だと思うんで、そういう意味で、日本がどういう状態にあるのか、考える上でのテーマとして大麻ってもってこいのモノだと思うし(大麻は単にドラッグの問題ではなく、哲学の問題であり、ライフスタイルの問題であり、医療問題 であり、環境問題であり、経済問題でもあるんで)、その資料のひとつとしては全然アリかな、と。


D'ANGELO "Untitled (How Does It Feel?)" (From "Voodoo")







2009/07/26

United we live strong.

『ただマイヨ・ジョーヌのためでなく』
 ランス・アームストロング 著
 安次 嶺佳子 訳(講談社)  Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books 

『毎秒が生きるチャンス!』
 ランス・アームストロング / サリー・ジェンキンス 著
 曽田和子 訳(学研)  Link(s): Amazon.co.jp / Rakuten Books
 

一昨日、ナイキ・ジャパンから、ランス・アームストロングからのメールってカタチで、日本で 'LIVE STRONG' の活動を本格的に始めるという知らせが届いた。

'LIVE STRONG'(リヴ・ストロング)ってのは、ランス・アームストロングが 1997 年に設立したランス・アームストロング・ファンデーション(LAF)が行ってる癌撲滅を目的とした活動で、一番有名なものとしては、ランスが 2004 年からナイキとともに製造・販売している黄色いシリコン製のリストバンドがある。エンボスで 'LIVE STRONG' って文字が入ったこのリストバンドは、コストをナイキが負担して US$1 で販売され、売上げは LAF の活動に使われてる。キャッチ・コピーは 'Wear Yellow, Live Strong.'。その後、この手のリストバンドは、こういう意味やメッセージのあるモノから単なるファッション・アイテムまで、いろんなリストバンドが発売されたけど、その先駆けとも言えるモノで、海外では多くの有名人が着用してることでも知られてる。日本でも、たしかキヨシローさんが付けてたんじゃないかな。まぁ、癌を患ってたサイクリストであることを考えれば、すごく自然なことだと思うけど。

2009/07/25

Watch football. Talk football.

J Station

.ひかり TV

どんなキッカケでいつ頃から観るようになったのか、全然覚えてないんだけど、たぶん去年くらいから(?)観るようになったひかり TV のインターネット・サッカー番組。地上波サッカー番組が軒並み痛々しいことになってる昨今、すごくありがたい存在だし、何気にけっこう楽しみにしてたりする。

この
J ステーション』は「サッカー番組」というよりも、厳密には「J リーグ番組」で、サッカー解説者の宮澤ミッシェル氏が司会を務め、毎回ゲストにもうひとりサッカー解説者をゲストに迎えて、毎節 2 試合、J1 の試合をピックアップしてダイジェストを観ながら語るパートをメインに、J1 の他の試合の全ゴール・シーン + 結果、J2 の全試合のゴール・シーン + 結果、その節の MVP の発表と次節の展望等、そしてゲストに因んだ昔の試合の映像等って構成の 1 時間番組。毎週、水曜か木曜くらいに前の週末の試合を取り上げてて、左上の写真はちょうど今週アップされた回のキャプチャで、ゲストは木村和司氏。ゲストの人選はとてもヴァラエティに富んでて、木村和司氏とか金田喜稔氏といったお馴染みの解説者はもちろん、加茂周氏のような大御所から名波浩氏みたいにごく最近まで現役だった選手、さらにはレフリーの上川徹氏まで、いろいろな経歴・タイプの人が登場するのですごく面白い(参考までに、今シーズンのこれまでのゲストは以下の通り(敬称略):福西崇史 / 柱谷哲二 / 金田喜稔 / 相馬直樹 / 水沼貴史 / 山本昌邦 / 野々村芳和 / 本田泰人 / 早野宏史 / 森山泰行 / 都並敏史 / 上川徹 / 名波浩 / 小倉隆史 / 加茂周 / 前園真聖 / 木村和司)。去年とか、川崎の監督復帰直前の関塚隆氏も出たりしてたし。

ミッシェルさんも、まぁ、ちょっとノリが軽いところはあるけど、元選手としては喋りもすごく上手だし、熱心に J リーグを(J2 も含めて)観てるし、各年代の経歴の異なるゲストの魅力や得意ジャンルを上手く引き出してて、解説的な部分だけじゃなく、進行役としてもなかなか上手に務めてる。ゲストもそれぞれ、それなり以上のキャリアのある人たちなんで、さすがに言うことはなかなかの含蓄があるし、やっぱり 1 時間たっぷり時間があって、なおかつウェブだからか適度にリラックスしてて、他のメディアではなかなか聞けないような話が聞けたりもする。ちなみに、今週のゲストの木村和司さんは「暑い夏は…、サッカーはせんほうがいいな。パフォーマンスは落ちる。海とかプールに行ったほうがいい」とか「やっぱ、ゴール前の攻防は面白いわ。中盤の攻防はそれほど面白くないわな」なんて言ってたりして。オイオイ! って、つい突っ込みたくなっちゃう。

やっぱり、何がありがたいって、J リーグをメインにキチンと 1 時間を使っていること。まともな J リーグのダイジェスト番組がないことは、J リーグ発足から 10 年以上経った今でも相変わらず日本サッカーが抱え続けてる問題なので。普通、どこの国でも地上波で当日の夜〜深夜とかにその日の試合について「あーでもないこーでもない」って 1 時間とか 2 時間とかやるのが世界的な常識なんだけど、日本にはいつまで経ってもそんなものはできなくて。スカパー! の『J リーグアフターゲームショー』も悪くはないけど、まぁ、やっぱりスカパー! だから観れる人は限られてるし、NHK BS の『J リーグタイム』も、やっぱり BS だし。

スーパーサッカー』はもはやサッカー番組ですらないし、『やべっち FC』も、やべっち自身は頑張ってると思うけど、所詮は「代表持ち上げ番組」でしかないし。本気で J リーグを取り上げる気なんて全然感じられない。「代表」ってだけで盲目的になるというか、思考停止状態になるというか、ある種のファシズム的な状況になるのが日本サッカー界なんで。もちろん、スポーツ・ニュースは言わずもがなだし、紙メディアも大差ないし。

そんな中で、たぶん、超マイノリティなんだろうけど、このJ ステーションはかなり頑張ってると思うし、現状では、実は一番面白いんじゃないかな、なんて思ったりもしちゃう。まぁ、速報性はないけど、それさえ求めなければ。番組の構成上、ピックアップする試合が 2 試合だけなんで、好きなチームが取り上げられることはそれほど多くないけど、このくらいの感じで他のチームのことをチェックしとくにはなかなか面白いし、J2 の全ゴールを観つつ、最低限の試合結果とか順位が映像的に頭に入るのもなかなかいいな、と。次節の toto の予想にも役立つし。あと、ゲストに因んだ昔の試合の映像を振り返るコーナーもなかなか面白くて。もちろん、オールド・ファンには懐かしいんだけど、それだけじゃなくて、新しいファンに過去の歴史を伝えることって、すごく大切だと思うんで(でも、すごく軽視されてる。サッカーに限らず、日本社会、全体として)。まぁ、欲を言えば、J1 を 1 時間、J2 を 30 分くらいの 90 分番組(理想は 2 時間)とかで、J1 を全試合 + J2 を 1-2 試合ピックアップしてやってくれるともっといいとは思うけど。

あと、日頃、地上波の番組でチラッとしか観てないような解説者がジックリ喋ってる(通常、試合の生放送以外ではホントに短い時間しか与えられてないことが多い)から、けっこう見直したりとか、意外な発見も多かったりするし。まぁ、個人的に好き嫌いはあるだろうけど、そういう次元ではないレベルで、やっぱり
(ミッシェルさんも含めて)みんなそれぞれ、キチントしたサッカー観を持ってることがしっかりと伝わってきるんで。

マリノス・サポーターとしては、当然、木村和司さん、
金田喜稔さん、水沼貴史さん、加茂周さんあたりが出てくるとグッとくるけど、個人的にハナシを聞いててやっぱりスゲェなぁと感心するのは名波かな(同い年なんで呼び捨てで)。オフェンスだけじゃなくディフェンスも含めてすごく細かいところまで観てるし、技術だけじゃない部分もシッカリ持ってて、しかも、自分の考えを中途半端に言葉を濁すことなくズバズバという感じもすごく好感が持てるし。

まぁ、サッカー / J リーグに限らず、地上波 TV 自体はもう、自民党政権くらい末期症状になってると思うけど(「地上波 TV ってメディア」ってことではなく、「地上波 TV を全国ネットで放送してる放送局が、企業として」、って意味で)、特に J リーグはもはや
地上波 TV の中ではマトモなコンテンツって扱いも受けてないのが現状で、そんな中で(速報性こそないけど)好きな時間に観れるインターネットでこういう番組があるっていうのは、ひとりのサッカー・ファンとしてすごくありがたいな、と。ちょっと周りに話しても観てるって人に会ったことないから、相当マイナーなんだと思うけど、もうちょっと評価されてもいいんじゃないかな、と。

実は良く理解してないんだけど、ひかり TVってのは(ウィキペディアによると)「株式会社 NTT ぷららが運営する NTT 東・西のフレッツ光向けの映像配信サービスである」と。基本はフレッツ光ユーザー向けの有料サービスなんだろうけど、このJ ステーションは公開週に限り無料で視聴できる。マックには非対応ってことになってるっぽいけど、VLC で観れてるし*。サッカー関連でも、他にもいろんなコンテンツがあるらしい。個人的には、J リーグ全チームの最新試合のダイジェスト映像と、去年までやってたチャンピオンズ・リーグのダイジェスト番組くらいしか観てないけど。

*マック +
VLC で観る方法:
  1. 「PLAY MOVIE」ってボタンを control + クリックして「リンクをコピー」
  2. VLC を起動して コマンド + N で「ソースを開く」画面を開いて「URL」のところにコピーしたリンクをペースト
  3. javascript:selectMovie('mms://wms.4media.tv/soccer /jstation18_all_090722.wmv','木村%E3%80%80和司氏');」といったテキストがペーストされるので頭の「javascript:selectMovie('」って部分と後ろの「','木村%E3%80%80和司氏'」を削除して「mms://wms.4media.tv/soccer/jstation18_all_090722.wmv」って部分だけにして「開く」。他にも方法はあるのかもしれないけど。

2009/07/24

Cloudy (is my sunny mood).

クラウドの衝撃

. :城田 真琴 著(東洋経済新報社)

こないだレヴューした『クラウド化する世界』に続いて、クラウドモノをもうひとつ。別にそれほど興味があったわけじゃないんだけど、
クラウド化する世界』は外人が書いた本だったんで、日本人が書いたモノも読んでみたほうがいいかな、と。いろいろ、ニュアンスとか捉え方が違ってて面白いんで。いい意味でも、悪い意味でも。この本を選んだ理由は装丁の印象だったりするんだけど。

アマゾン見ると著者名が「野村総合研究所 城田 真琴」ってなっててちょっと(っつうか、かなり)ビックリしたんだけど、まぁ、その通り、著者は野村総合研究所の技術調査部の主任研究員の城田真琴氏。そうは言っても、別に知ってるわけじゃないんで、特に何ってわけじゃないけど。ただ、そこをそんなに強調したいのか?! って思っただけで。まぁ、読んでみたら、なんで今まで知らなかったのか、わかったような気もしたけど。

どういうことかっていうと、個人的にはあまり面白くなかったから。あぁ、こういう感じだったら、これまでに接点がなくても不思議じゃないな、って。わりと著名な人らしいんだけど。アマゾンのカスタマーレヴューを見ると、けっこう評判がいいっぽくてビックリしたんだけど、個人的には全然グッとこなくて、前半はともかく、中盤くらいからは読んでてドンドンテンションが下がってくのが自分で感じたくらい。一応、せっかくだから最後まで読もうと思って読んだけど、最後のほうは「早く読み終わっちゃわねぇかなぁ」って思いながら読んでた気がする。そこまでして読まなくてもよくね? って思ったりもするけど。我ながら。

「IT 史上最大の創造的破壊が始まった」って表紙には(サブ・タイトルとして?)書いてあるんだけど、読み終わった後にそんな印象は全然、受けなかったし。内容的には、主にアメリカのエンタープライズ市場での動きについて、グーグルアマゾンセールスフォース・ドット・コム等、いくつかの「クラウド・ネイティヴ」な事例を挙げながら、クラウド・コンピューティングの概要と主立った動きを説明してるんだけど、図が多かったり文章量が少なめだったり、なんかあんまり面白くない新書を読んでるような印象で。実際、すぐに読み終わっちゃったし。可もなく不可もなくっていうか、なんか、そういう印象しか残ってない。

なんだろう? ハナシ的に、わりとエンタープライズ的な視点のハナシに終始してるからなのかな。ちょっと狭いところを見て「スゴイスゴイ」って言ってるんだけど、つまんないロジックとデータを駆使するだけで、全然スゴイことを話してるようなエキサイティングな部分が伝わってこない感じ?
『クラウド化する世界』のレビューでも書いた通り、個人的にはクラウドって、もちろん大きな動きではあるとは思うけど、多様性と可能性が広がって選択肢が増える以上のことではないと思ってるんで。「IT 史上最大の創造的破壊」って言われて納得できるような説得力は全然感じられなくて。

逆に、どんな人がこれを読んで満足するんだろう? って考えてみても、やっぱり新書的なモノを求めてる人なのかな、と。概要だけツルっと一通り押さえたい(わかったような気になりたい)人っていうか。別にビックリするようなことが書いてあるわけではないし、実際に運用するにしても、技術的な面でも、先のヴィジョンを描くって面でも、特にインスピレーションに富んでる感じはしないし。なんか、個人的には薄っぺらな印象は否めないかな。

2009/07/23

Selected and compiled.

DOMU "One Offs, Remixes and B-Sides" (Tru Thoughts)  
Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp

タイトル通りからもわかる通り、ある特定のアーティストの 12" インチやリミックス、未発表トラック等を集めたイギリスのトゥルー・ソーツ(Tru Thoughts)のコンピレーション・シリーズの最新作で、これまでにクアンティック(QUANTIC)やノスタルジア 77(NOSTALGIA 77)等がリリースされてるんだけど、今回の主役はドム(DOMU / スペルからもわかる通り、もちろんツィマッド社製の MS-09 ではない)ことドミニク・スタントン(DOMINIC STANTON)ってことで、これはチェックせずにはいられないな、と。

ドムは 1990 年代後半から活躍してるイギリス人プロデューサーで、1997 年に 4 ヒーロー(4HERO)の主宰するレーベル、リインフォースト(REINFORCED)からソナー・サークル名義のアルバム "Radius"(Links: iTS / Amzn)でデビューして以降、ドラムンベース〜ブロークン・ビーツ(この呼び方はどうかと思うけど)のシーンを中心に活躍してきた実力派アーティスト。

2009/07/22

Traveling miles.

STUDIO VOICE 2009 年 08 月号 本と旅する

.
インファスパブリケーションズ)

そういえば『STUDIO VOICE』を買ったのはいつ以来のことだろう? そんなことを思いつつ買った最新号。10 代の終わり 〜 20 代の始め頃にはかなり熱心に読んでて、かなり好きな雑誌のひとつだった。まぁ、毎号必ず買うってわけではなかったし、内容を見つつって感じだったけど、いつの頃からか、内容を確認することもしたりしなかったりになってたんだなぁ、とサイトで最近のバックナンバーを見て思ったり。

そんなこんなですごく久しぶりに買った
STUDIO VOICE』の特集は「本と旅する」。個人的には、「本」と「旅」って組み合わせにはめっぽう弱いというか、ついついガードが下がっちゃいがちだったりする。実際には「本」と「旅」の組み合わせにはいろんなパターンがあって、例えば、「旅の本」とか「旅に関する本」だと、実はガイドブックだったみたいなこともあるし、もちろん「旅の様子を綴った本」、つまり紀行文みたいなのもあるし。個人的には、「本を持って旅に出る / 旅先で本を読む / 旅先で読む本」みたいな感じが一番好みで、家とか電車の中とか、日常生活の中ではなく、移動中(もちろん、毎日の通勤・通学とかではなく)だったり非日常的な空間でこそ読むのに相応しい本、つまり「旅に持っていくべき本」っていうジャンルがある気がしてて、でも、そのセレクトって、案外難しかったりして(しかも、それは必ずしも旅に関連する内容でも、実用的な内容である必要もない気がする。むしろ、一見、無関係なくらいのほうがいいかも?)。だから、「本と旅する」ってタイトルだけでグッと魅かれちゃって。

まぁ、実際に読んでみたら、どっちかっつうと、「本の中を旅する」みたいな、実際の旅ってよりは内面への旅的な視点で、いろいろな土地への旅を綴った本がいろんな視点でセレクトされてる感じで、必ずしも
「旅に持っていくべき本」って感じではなかった。ただ、視点にしてもセレクトにしても一癖も二癖もあって、すごく『STUDIO VOICE』らしいというか、古今東西のクラシックはもちろん、写真集やコミックまで、やっぱり他ではあまりお目にかかれない感じの(ある意味、偏った)内容にはなってて、なかなか興味深い。

あと、特集以外でも、モス・デフの "Ecstatic" を原雅明さんが 1 ページ使ってレヴューしてたり、良くも悪くも日本の洋楽界独自のカルチャーである「ライナーノーツ」って存在を逆手に取って、佐々木敦さんがアルバムに勝手にライナーノーツを書いちゃうっていう連載(今号で取り上げられてるのはエミネムの "Relapse"。因みにオリジナルのライナーノーツは ZALIG こと高橋芳朗 a.k.a. ヨシクォン!)が始まってたりして、なかなか侮れないな、と。

まぁ、
久しぶりにちゃんと読んで、あらためて、良くも悪くもSTUDIO VOICE』というか、読みにくくてラディカルなエディトリアル・デザインとか、多用される小難しいレトリックも含めて、サブ・カルチャー的なスタンスを明確にした感じにちょっと懐かしさを感じつつも、やっぱりこういう雑誌もあっていいよなぁ、なんて思ってたら来月発売の号で休刊なんだとかこれは、正直、けっこうショックだったりして。ちょっと前に『Esquire 日本版』が休刊になったのもけっこうショックだったけど、STUDIO VOICE』も若い頃にわりと熱心に読んでた雑誌だから(400 号記念号でバックナンバーの表紙をみたら、鮮明に覚えてるのがかなり多かったし)、やっぱり、ちょっと物悲しい感は否めない。奇しくも昨日のエントリーでも言った通り、雑誌には「波」みたいなモノがあって、その「波」の大きさとか方向とかがピッタリ合うこともあれば、微妙に合わなくなったり「凪いじゃう」ことがあったりするモノだと思うんだけど、ベタ凪ぎになっちゃったってことなのかな。今、思うと、400 号記念号「スタジオ・ボイスの時代」なんて言ってたことが前兆だったのかな、なんて思ったりもするけど。まぁ、とりあえず、来月号はキチンとチェックしないと。

ちなみに、このニュースは『+81』を立ち上げ、現在は『QUOTATION』の編集長を務める蜂賀亨氏コラムで知った。まぁ、
ここで述べてることは個人的にはイマイチピンとこなかったけど。特に最後のブロック。「楽しく、自由に、雑誌や書籍を楽しめばいいのではないだろうか。雑誌や書籍の未来は、きっとなるようにしかならないのだから。」って!? って思わず突っ込みたくなっちゃったそんなこと言っちゃあ身も蓋もなくね? って。まぁ、言わんとすることはわかるけど。

とりあえず、「有名・無名問わずクリエイターのサポートをする」というコンセプトで、様々な活動を通じてクリエイターを支援するっていうウェブ・サイト、STUDIO VOICE ONLINE は継続していくとのこと。このサイト自体、どんなモノだかキチンと認識してなかったんだけど。後でチェックしてみよう。でも、「クリエイター」って言葉を多用する人とかメディアとかは、なんかイマイチ信用できないっつうか、ちょっと警戒心を抱いちゃうんだけど。


CASSANDRA WILSON
"Traveling Miles" (From "Traveling Miles")











2009/07/21

Train train.

BRUTUS 2009/8/1 号 ニッポン鉄道の旅。

.
マガジンハウス)

別にメチャメチャ好きって感じではないつもりなんだけど、気が付けばわりと買ってることが多い雑誌のひとつが『BRUTUS』。雑誌には「波」みたいなモノがあって、その「波」の大きさとか方向とかがピッタリ合うこともあれば、微妙に合わなくなったり「凪いじゃう」ことがあったりするモノだと思うんだけど、最近はわりと個人的なツボにハマることが多いっていうか、けっこうコンスタントに面白い感じがしてたりする。

そんな
BRUTUS』の最新号の特集は「ニッポン鉄道の旅。」ってことで、新幹線からローカル列車まで、いろんな路線が取り上げられてるんだけど、なかなか興味深い内容で、思いの外、楽しめた。まぁ、世の中は明らかにポスト・モータリゼーションの時代になってるわけで、そういう流れもあってか、わりと見直されてる感がある鉄道だけど(もちろん、だから特集してるんだろうけど)、個人的にもまんまとその流れに乗ってるというか、すごく興味があって面白いなって思ってたりするもんで。

個人的には、国内線の飛行機って、なんか荷物として運ばれてる感じがして好きじゃなくて、断然鉄道派(同じ理由で船もいいなと思ってる)。新幹線みたいに現代的な移動手段として洗練されてる面もありつつ、同時に、なんか、バカっぽくてチャーミングな面も同時に持ってて、すごくいいな、と。そうは言っても、全然詳しいわけじゃないんだけど。「好き」なんても言うのもおこがましいくらい。ホンモノの人たちに対して。鉄道オタクっていうのは、オタクの中でもかなり王道でオールド・スクールなジャンルだと思うけど、個人的には、アイドルとかゲームとか、他のオールド・スクールなジャンルの人とは比べ物にならないほどリスペクトの念を抱いてたりする。だって、彼らはメチャメチャ勉強熱心且つ博識で、計画力も行動力あるし、努力とか労を厭わないし。カルチャーとかルックスとかは確かにビミョーな側面もあるけど、でも、やっぱ、ちょっと、リスペクトの念は抱かざるを得ないな、と。

まぁ、最近の流れとしては、そういうオールド・スクール鉄道オタクにも一定のリスペクトの念を抱きつつも、新しい面にも目を向けてって感じで、わりといい感じに思える。
今回の『BRUTUS』基本的にはそういう流れを踏襲しつつ、でもBRUTUS』らしく上手い感じでまとまってる。

個人的には、写真がすごくいいのが
すごく印象的で、表紙ももちろんだけど、鉄道写真家の写真を集めたページが秀逸(まぁ、「撮り鉄」なんてサブ・ジャンルがあるくらいだから、当然って言えば当然なのかもしれないけど)。他にも、「ニッポンの名駅弁 47」とか、北斗星乗車紀行とか、なかなか面白くて。あと、ブルートレインのヘッドマークのステッカーが付いてて個人的には嬉しかったんだけど、あらためてヘッドマークを見てみると、デザインとしてもすごく面白いなって再確認したり。あと、写真がいいからかもしれないけど、誌面のデザインがいつも以上にいい感じがした。スッキリとシンプルで、でも、なんか、すごくカッコよくて。個人的にはけっこうツボだったりした。ただ、「ニッポン鉄道の旅。」ってタイトルはちょっと違和感を感じるけど。字の並びというか、「ニッポン」と「鉄道」の部分の並びというか、つながりに。「ニッポン、鉄道の旅。」のほうがいいんじゃね? とか。もしくは「ニッポン 鉄道の旅」か。まぁ、細かいことだけど、職業柄、ちょっと気になる。

まぁ、「
わりと見直されてる感のある」と言いつつも、実際には、同時に古いモノがドンドンと失われてて(廃線とかってこと)寂しい面もあったりするし、それ以上に大きな問題として、この国の為政者や財界はポスト・モータリゼーションの流れをまるで感じてない気がするけど(もしくは感じてるから抗ってるのか?)。愛知在住のマリノス・サポーター仲間によると、例の愚策施行の前と後で、愛知〜新横浜間の週末の車での移動の所要時間は 3 倍くらいになってるんだとか。意味不明なエコ・カー減税とかも含めて、どうもこの国は未だにモータリゼーション時代の思想にしがみついてるらしい。

そういうことへのカウンターって意味も含めて、鉄道を見直す動きはすごく面白いと思うし、わりと大事なことが含まれてるなって思ったりもする。なんかバカっぽくていいし。そんなわけで、鉄道モノの内容を取り上げることが多い『旅の手帖』とか『男の隠れ家』とか『一個人』とかまでついつい立ち読みしちゃいがちなんだけど、
BRUTUS』は中身もデザインも一味違っててさすがだなって思ったり。BRUTUS』はちょっと前に山の特集もやってたけど、こういう動きって、ちょっとトレッキングにも似てる感じがするし。今度はぜひ、船旅もやって欲しいもんだ。鉄道とともに、なんか、すごくいい気がしてるので。船旅って。日本は島国なんだし。

まぁ、「電車」についても、別の意味で大きな見直しが必要だと思うけど。あの混み具合とか、どう考えてもマトモじゃないし。違憲状態だと思うくらい。「最低限の文化的生活」じゃないから、あんなの。なんで、みんな、あんなのに乗ってるんだろう? ボイコットしたり、暴動を起こしたり、訴えたりとかしたほうがいい。それにしても、「鉄道」と「電車」って、受ける印象がかなり違ってて、不思議。もちろん、定義自体も違うんだけど、それ以上に、受ける印象というか、ニュアンスが違ってて。「鉄道」って言葉の持つ何とも言えない趣きっていうか、味わい深さが、なんか、すごくいいな、と。


BEN HARPER & THE INNOCENT CRIMINALS
"Fool For A Lonesome Train" (From "Lifeline")











2009/07/20

Sound of organic atomosphere.

"Ecology Of Everyday Life - 毎日の環境学".小沢 健二(EMI Music) 

ちょっと前に砂原良徳の "LOVEBEAT" をレヴューしたけど、それと並ぶパーソナル・クラシック・アルバムが小沢健二のこの "Ecology Of Everyday Life - 毎日の環境学"。別に関連性があるわけじゃないけど、日本人アーティストの美しいインストゥルメンタル・アルバムで、しかも、なんかサウンドの肌触りというか、感触にも共通点みたいなモノを感じてて、自分の中では同じジャンルに分類されてたりするんで、"LOVEBEAT" をレヴューしたならこれも取り上げない手はないだろ、と。別に新譜でもなんでもないけど。

2009/07/19

Above the clouds.

クラウド化する世界
. :ニコラス・G・カー 著. :村上 彩 訳(翔泳社)

ちょっと前に流行ったビジネス書なのかな? けっこう売れてたっぽい。まぁ、正直、ちょっと恥ずかしい感じもなきにしもあらずなんだけど、テーマ自体は興味がないわけではないんで、ちょっと読んでみようかな、と。

著者は『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌の上級編集者を務めてたビジネス・ライターで、日本でも『IT にお金を使うのは、もうおやめなさい』が出版されてる。
なんか、印象としては、ちょっと胡散臭いビジネス臭がして、正直、ちょっと抵抗を感じてたんだけど(サブ・タイトルに「ビジネスモデル構築の大転換」なんて付いてるし)、原タイトルは "The Big Switch: Rewiring the World, from Edison to Google" だったりして、そういわれるとちょっと印象が違ってきたりする。ちなみに、IT にお金を使うのは、もうおやめなさい』の原タイトルは "Does It Matter?: Information Technology and the Corrosion of Competitive Advantage" で、これは著者が『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に発表した論文 "IT Doesn't Matter"('IT' が大文字なところが大事。日本語版は「もはや IT に戦略的価値はない」)が大きな議論を呼んだことを受けて、その "IT Doesn't Matter"、それに対する反論、そしてそれに対する再反論をまとめたものらしい(読んでないけど)

周辺情報としてはこんな感じなんで、思ったほど胡散臭いビジネス書ではないっぽいとは思いつつ(やっぱり邦題の付け方って大事だな、と。まぁ、そういう風に見せたほうが売れるんだろうけど。悲しいかな)、まぁ、やっぱり、こういうのに対してはついつい一定の警戒心は感じちゃうんで、わりと冷めた感じで読んだんだけど、結論から先に言っちゃうと、思ったよりも楽しめたかな。別に感動したりとか、今まで見えなかったものが見えたりとかしたわけじゃないけど、いろんなことがわりとスッキリする感じ。

内容としては、前半では電力発電と情報産業と比較するカタチで、発電が発明された当初は各事業所が発電機を購入・導入してた(発電機を販売して儲けてた会社があった)のが、大規模発電と安定した送電網が確立されるとともに発電所から購入したほうが安価になった(=電力がコモディティ化した)ように、情報産業もインフラの整備が整うとともに SaaS(Software as a Service)が可能になり、アマゾンやグーグルに代表されるようなクラウド・コンピューティング / ユーティリティ・コンピューティングが実現しつつあり(企業のレベルだけでなく、むしろ個人のレベルにこそ起こってる)、そして、さらにはワールドワイド・ウェブがワールドワイド・コンピューティングになる方向に向かうってことについて、後半ではそういう環境がもたらす人間社会の変化について、いろんなデータやさまざまな人物の発言、事例などを用いながらわかりやすく述べられてて、それほど専門知識がない人でもわりとすんなり理解できちゃう感じ。たぶん、前半部には
IT にお金を使うのは、もうおやめなさい』の内容も含まれてるんだと思うし。

まぁ、これを読むと、グーグルがなんで独自ブラウザの Chrome を開発したか、そして、さらに最近発表された Chrome OS って流れになるかってことはすごく腑に落ちたりはする。まぁ、要するに、一連のグーグルのサービス(そして最大の収入源である広告)って全部インターネットありきなわけで、それを使うインターフェースはブラウザだから、それに特化したブラウザがあれば OS なんて何でもいいってこと。
Chrome ってのはそのためのブラウザであり、同時に、ワールドワイド・コンピューティング(≒グーグル)に最適化された並列コンピューティング環境のプラットフォームでもあって、OS ってのは Chrome さえキチンと動作すれば OK だ(だから、そのために余計なコストをかけなくていいように無料の OS = Chrome OS を用意した)、と。こんな感じなんじゃないかな、と。まぁ、Chrome OS については、まだ詳細はわかんないから、あくまでも憶測だけど。でも、グーグルはインターネットを単なるデータベースじゃなくて AI 化しようとしてるわけで、そのために着々と動いてやがってて、そういう流れも確かにあるよな、と。ユーザーとしての実感のレベルでも。

ただ、個人的には、クラウドに関しては、それこそ iPhone 3G について「10 年くらい前にイメージした未来のデジタル携帯デヴァイス」った感じたことと似てるんだけど、同じ頃から「近いうちにクラウド的な状況が来るかもなぁ」なんて感じてた(もちろん「クラウド」なんて用語はなかったけど)りもしたんで、わりとリアルな実感はありつつも、同時に、何とも言えないモヤモヤ感もあって、それほど楽観的じゃなかったりもしてるんだけど。もちろん、いい面がたくさんあることは認め(そして、その恩恵を享受し)つつも、クラウド・オンリーとか、クラウドがメインみたいな状況に関しては、かなり疑問を感じてたりするんで。まぁ、これに関しては書き出すと長くなるから止めるけど(実際、ちょっと手を着けてみようと思ったらスゲェ大変で、それこそ論文とか本にでもなっちゃいそうなんで止めた)。
社会とか国家とか歴史とかのハナシになってくるんで。
ルイス・マンフォードは『権力のペンタゴン』で、テクノロジーに我々をコントロールさせるのではなく、我々人間がテクノロジーをコントロールできると述べた が、それは間違いだ。なぜなら、それは我々の選択ではなく、我々の力が及ばない経済的な力による帰結だからだ。テクノロジーには容赦のないロジックがある。我々は一個人としては、テクノロジーの命令に疑問を呈したり、抵抗もできるかもしれないが、この種の行為は常に孤独であり、結局は無駄である。経済的取引が支配する社会においては、テクノロジーの規範は、まさに規範なのである。個人的選択が関係する余地はほとんどない。
これは本書からの引用なんだけど、まぁ、一理ある。それでも抵抗したくなっちゃうヒネクレ者だったりするんで、いろいろ面倒だったりもしてるんだけど。あと、関連して、興味深い指摘としては「産業革命初頭から始まった富の集中を加速させたのは配電網の整備だった」って点もあるんだけど、確かに、似たような傾向があるかもしれないなぁ、と。けっこう笑えないハナシとして。「ウェブ・ベースの無報酬の貢献・労働を価値・サービスに変える企業へ富が集中し、格差をドンドン広げてる」って指摘とも関連して。これも、個人的にも利用もしてるし、恩恵も享受しつつも、同時に迷惑なハナシでもあったりして。著者は「その打撃を受けるのは企業でもユーザーでもなく、個人のプロフェッショナル」って言ってて、実際、ライター業とかってその影響をモロに受けてる分野のひとつだったりするんだけど、でも、それだけじゃなくて、それはイコール情報の信頼性の下降とかクオリティの劣化にもつながると思うんで、最終的にはユーザーに対しても打撃だと思うし。もちろん、欧米のリベラルなインテリの定番になってる感がある(もちろん、これもメチャメチャ一理ある懸念ではあるんだけど)ジョージ・オーウェルの『1984 年』のビッグ・ブラザー的な「管理社会」に対する懸念も強まるだろうし(実際、大企業とかそうなってるように見えるし)、まぁ、全然楽観的にはなれないな、と。

あと、ちょっとハナシはズレるけど、もっとヒドイ状況として、福井晴敏の『ガンダム UC』みたいに無線通信なんて危険すぎてできない(ネットワークはすべて有線)ような社会ってのも考えられなくはないし。まぁ、ミノフスキー粒子ありきのハナシだし、クラウドとは直接関係ないけど、今の無線天国みたいな状況が果たして本当にベストで、今後も続いてくのかってことはちょっと疑ってかかってみてもいいのかも? とは思ったりもするし、そうなると、クラウドはもちろん、コンピューティングとネットワーキング自体の質とか意味も変わってきそうだし。まぁ、これはかなり飛躍した想像(妄想?)だけど。

まぁ、クラウド・コンピューティングがある程度、実用的になって、ますます発展することで、今まで胡散臭いことで儲けてやがったヤツら(ナンチャラ・インテグレーターとか、そんなヤツね。ちょっとウェブ屋に似てる胡散臭さを漂わせてる。まぁ、もちろん、全員が、ってハナシではないけど)が喰いっぱぐれたりとか、胡散臭いヤツらに騙されてオーバー・スペックなモノを売りつけられてた企業 / 事業者が救われたりするのはいいことだな、って純粋に思ったりするけど。それだけでも十分意味がある気がするし。

もちろん、アップルも巨大なデータ・センターを作ってるなんてニュースを聞くと、iTunes Store / App Store みたいなオンラインの事業を支える設備投資の面もあるんだろうけど、製品マトリクスから MacBook が(実質的に)消えてるだけに、クラウド絡みの何かがあるのかな(たぶん、中途半端なモノじゃないと思う)、なんて勘繰りたくはなっちゃうし、まぁ、グーグルとかマイクロソフトの動向も含めて、いろいろ注目すべきことが多い分野であることは確かだとは思うけど、天変地異というか、社会がひっくり返るようなハナシではないってのが個人的な印象かな(ある狭い世界では天変地異クラスの衝撃なのかもしれないけど)。社会をひっくり返すようなモノでも何でもなくて、単に多様性が広がって、選択肢が増えただけのハナシかな、とも思うし。だって、どれだけ環境が整ってもクラウドだけですべて OK とは思えないし(いろんな理由で。これを述べると長くなる)、365 日・24 時間、いつでもどこでもオンラインなんて社会はそれ自体どうかと思うし、個人的には「クラウド」より「同期(synch)」って思ってたりもしてるし。

まぁ、この
クラウド化する世界』に関しては、具体的にクラウドの導入云々みたいなことよりも、もっと大きな枠で現在のこととこれからのことを考えるのにいい参考書って印象。特に、ビジネスだけじゃなく、個人の生活とか社会も含めてって意味で。

あと、個人的には、クラウドの根幹を成す技術のひとつの「仮想化(virtualization)」って考え方は、具体的な技術のハナシだけじゃなく、いろいろなことに応用できそうな考え方のような気がしてて、ちょっと興味がある。「仮想化」・'virtualization' って言葉は、個人的にはどっちもイマイチシックリきてないけど、考え方としては面白いなって。何かありそう。

BGM はポール・ウェラーの "Above The Coulds" を。もちろん、内容とはまったく無関係だけど。ただの 'cloud' つながり。でも、それだけじゃないかも。たぶん、'above the coulds' な何かをイメージしていかないといけないな、とか思ったりもするんで。


PAUL WELLER "Above The Clouds" (From "Paul Weller")







2009/07/18

One month later.

iPhone OS 3.0 Software

(Apple Inc.
)

6 月 18 日にリリースされた iPhone 用の OS のヴァージョン 3.0。リリース日にインストールしてちょうど 1 ヶ月使ってみたことになるので、レヴューしてみようかな、と。

まぁ、正直なところ、純粋に「レヴュー」として考えると、実はあまり意味がない気もするんだけど。っていうのは、「レヴュー」って、興味を持ってる人が購入するかどうかを決める上で参考になることとか、知らなかった人の興味を喚起することが主なファンクションだと思うけど、iPhone を持ってて(使ってて)未だに OS 3.0 にアップデートしてない人がいるとは思えないし、iPhone を持ってない人が OS のハナシにそれほど興味を持つことも考えにくいし。でも、まぁ、このブログはレヴューであると同時に、個人的に備忘も兼ねてるんで、まぁ、いいかな、と。

今回のアップデートは 3 月 19 日の
スニーク・ピーク・イベントで発表されたもので、実際の内容はアップルのサイトにまとめられてる通り。まぁ、それぞれひとつひとつ触れても意味がないんで、個人的に引っかかったポイントを。

・MMS:
個人的に一番恩恵を享受してる(そう。「カット & コピー & ペースト」より!)機能。MMS ってのは 'multimedia messaging service' の略で、これまで搭載されてた SMS(short messaging service)の機能拡張版的なモノ。SMS がテキストなのに対して、MMS は名前の通り画像 / ムービー / オーディオ・ファイルやURL、コンタクト等も送れる、と。

SMS / MMS 自体、海外ではけっこう前からわりと使われてるけど、日本ではイマイチな地味が薄いのか、ちょっと説明しても理解してもらえながちだったりするけど(別に iPhone じゃなくても使える機種はあるんだけど)、使用感的には iChat(もちろん、他のチャットでもいいんだけど、使ったことがないんで)と同じようなモノ。それが出先でできるだけなんだけど、これがなかなか便利で。まぁ、位置付け的には「電話 < SMS / MMS < メール」みたいな感じかな。電話ほどダイレクトじゃないけど、メールより手軽でダイレクト。例えば、待ち合わせに遅れるときとかに「ゴメン。遅れてる」とか「今、どこ?」みたいな感じで使いがちなんだけど、待ち合わせに遅れてるってことは移動中なわけで(自分にしても相手にしても)、電話は出にくいことのほうが多い(電車にしても車にしてもチャリにしても)から、すごくちょうどよかったりする。 MMS になったことで、写真とか URL をコピペして(そう、コピペして!)送れるようになった、と。

それはそれで便利なんだけど、個人的にはロケーション・データが送れるようになったことが大きかったりする。つまり、デフォルトで搭載されてる「マップ」アプリケーション(=Google Maps)のデータ(現在位置の情報も含む)を送れる、と。これは、実は、個人的にずっと欲しいと思ってた機能(もしくは、作ったほうがいいんじゃないかと思ってたアプリケーション)だったので。そのアプリケーションは仮の名前で「I'm here.」って呼んでたんだけど、ようするに自分の現在位置をパッと人に教えられるアプリケーション。

自分はわりと大丈夫なんだけど、世の中には地図を読むことと自分の現在位置を言葉で人に説明することが苦手な人ってのがいるわけで(別に非難してるわけじゃない。単に得手・不得手のハナシだと思うので)、そういう人と待ち合わせるときに便利だな、と。つまり、例えば新宿で待ち合わせたときに、電話で「新宿に着いた? 今、オレは●●にいるんだけど、来れる?」「●●ってどこ?」「じゃあ、いいや。そっちに行くよ。今、どこにいるの?」「えっと…、ここは…、△▲△▲…」「全然わかんないんだけど…」みたいなことって案外あるから。そういうときに簡単に現在位置のデータを送れて、受け取った相手に SMS くらいな感じでダイレクトに伝えられるといいな、と。

まぁ、同じようなことを思いついてる人はもちろん世界中にいたらしく、機能的にはこういうことができるアプリケーションはあったんだけど。でも、「機能的には」で。これのポイントは SMS くらいダイレクトに情報が送れる / 届くことだと思うんだけど、それまでにあったアプリケーションはメールで送るとか、ちょっと操作的に煩わしくて。でも、今回搭載された MMS なら「マップ」アプリケーションからダイレクトに送れるんで、問題は見事に解決された、と。まぁ、現在地の検出とか、もうちょっと速いといいけどね。
・「カット & コピー & ペースト」:
たぶん、巷では「待望の」新機能だと思われる「カット & コピー & ペースト」だけど、個人的には、それほど大騒ぎする感じじゃなかったりして。ないときもそれほど困ってなかったし、付いてからもそれほど使ってるわけじゃなかったりして。まぁ、もちろん、まったく使わないってわけじゃないから付いてよかったことは確かなんだけど。

ただ、「カット & コピー & ペースト」のさせ方は素晴らしい。すごく考えられてるし、使いやすいし。すごくアップルらしくていいな、と。たぶん、カット & コピー & ペーストなんて、技術的には全然難しくはなかったんだけど、あえて最初に搭載しなかったのは「iPhone らしいカット & コピー & ペースト」じゃなきゃイヤだったからだと思うし。煩雑な操作をユーザーに強いれば技術的には可能でも、「iPhone らしいステキなカット & コピー & ペースト」じゃない、中途半端な機能なら要らん、と。こういう割り切りって案外難しいし、すごくアップルらしいし。実は、未だに未搭載の FLASH に関しても同じようなことなんじゃないかと推測してるんだけど。
・ランドスケープ・モード:
サイトには「横向きキーボード」って書いてあるけど、実際には、別にキーボードだけじゃなくて、多くのアプリケーションで、横に向けると画面が横向きになる「ランドスケープ・モード」が搭載された、と。iPhone 3G 自体のレヴューでも書いたように、iPhone の大きな特徴のひとつが「優れたビューワであること」だと思うので、その強味をより活かすって意味では、すごく自然だし、すごくナイスな機能追加って言える。
・「iPhone を探す」「リモートワイプ」:
まぁ、幸運にもまだお世話にはなってないけど、MobileMe ユーザー限定の機能で追加されたのが「iPhone を探す」と「リモートワイプ」。まぁ、これはすごく真っ当で、でもけっこう大事な機能かな、と。

「iPhone を探す」はその名の通り、iPhone を紛失したときに助かる機能で、MobileMe のサイトにブラウザからログインすると、ウェブ上の地図に自分の iPhone がある場所が表示されて、さらに自分の iPhone の音を鳴らしたり、メッセージを表示したりできる機能。前者は自宅でなくしたときとかにも使えて、後者は拾ってくれた人向けのメッセージを表示できる、と。地図は「おおまかな」って感じだけど、それだけでも自分が行った場所、なくした可能性がある場所を特定できるんで、十分便利。

「リモートワイプ」は、同じく MobileMe のサイトにブラウザからログインして、iPhone のデータをすべて消去できる機能。「リモートワイプ」のキモは、データを消せるだけじゃなくて、端末を見つめ(取り戻し)たり、買い替えたりしても iTunes で一回同期すればバックアップ・ファイルから簡単に復元できること。

どちらも、今まで(というか通常のケータイ)ならすごく煩わしい作業を強いられるところを、すごく簡単に、自分で、いつでも(夜中でも!)できちゃうってことのメリットはすごく大きい。もちろん、アップル(及びソフトバンク)的にも面倒な作業が減って楽になるって側面はあるだろうけど、ユーザーにとっても大きなメリットなんで、そういう楽はドンドンして頂けばいいんじゃないかな、と。
ここまでは、特に良くなった点を挙げてみたんだけど、もちろん、良くない点というか、ビミョーな点とか手が付けられてない点もある。

・メモのシンク:
あんまり気にしてた人はいないっぽいんだけど、これまでは iPhone 上の「メモ」のデータが同期されなくてすごく不満だった。だって、iPhone の「メモ」を見ながらパソコンで打ち直してるとか、メチャメチャナンセンスだから。実は、それが不満で「メモ」はまったく使ってなかったくらい。代わりに使ってたのが、「メール」の下書きフォルダにメモ用のメールを一通用意しといて、そこをメモ代わりに使うって方法。これは MobileMe のメールじゃないとできないのかもしれないけど、クラウド経由で常に同期してくれるんで、すごく便利。例えば、探してる本とか CD のリストとか、入力・編集するのはパソコンで、確認するのは iPhone みたいな使い方。Google Doc とか使ってもいいんだけど、圏外でも大丈夫だし、動作の速さを考えてもローカルにデータがある「メール」のほうがベターかな、と。

今回のアップデートで「メモ」のデータが同期されるようにはなったんだけど、これがまた、イマイチな出来映えで。だって、同期が iTunes 経由のみだから。人によって使い方はそれぞれなんだろうけど、個人的には、めったに iPhone をパソコンに接続してなかったりするんで。MacBook Pro ユーザーだからってこともあるのかもしれないけど、限られた USB ポートを常に iPhone のために使うってあまり便利じゃなくて(Time Machine 用も含めて外付け HD を複数つながなきゃならないことがすごく多いんで)。実際、オーディ / ビデオのデータ以外のデータで USB を使って有線で移動させなきゃならないようなデータってないと思うし、それほど重くないデータを同期させるのに iTunes / USB 経由が必須ってのはちょっとナンセンスかな、と。

そんなわけで、メモはいまだに「メール」を使ってたりするんで、「メモ」の同期に関してはちょっと不満かな、と。ちなみに、同期された「メモ」は「メール」内に「備忘録」の中に保存されてるんだけど、これもわかりにくいし。
・日本語入力操作の取り消し:
これまた気にしてる人はほとんどいないっぽいし、サイトとかでも触れられてないっぽいけど、個人的にちょっと引っかかってることで。それは、日本語の入力操作の取り消しの所作がこっそり変わってたこと。あ、これはフル・キーボードでのハナシ。テンキー型キーボード(っていうのか?)はまったく使ってないんで。例えば、「こんな」って入力するとき、「konnna」って打つわけだけど、間違えて「ki」って打っちゃうことがある(「o」と「i」は隣りなんで。特に片手で操作してるときとか)。当然、「き」って表示されちゃうんで変換前に「戻る」で戻ってやり直すんだけど、前のヴァージョンのときは一回「戻る」と「k」って状態に戻った(「i」だけ消去した)んだけど、新しいヴァージョンでは「き」ごと消しちゃう。まぁ、マックと同じなんだけど。でも、前のヴァージョンの所作が個人的には便利だと思ってて、けっこう気に入ってたんで、ちょっと残念かな、と。まぁ、もう馴れたし、たいしたことじゃないけど。
・インターネット・テザリング:
まぁ、不満点って言えば最大の不満点はインターネット・テザリングの未対応に尽きるかな、と。これはアップルじゃなくてソフトバンクの問題だけど。いろいろ言われがちだけど、個人的にはソフトバンクにはそれほどイヤな印象は抱いてなかったんだけど、こればっかりはただただガッカリ。OS 3.0 の目玉機能のひとつだと思うし、未対応な理由とか、今後の展望とかも公表されてないっぽいし。どーにかしろよ、と。

ちなみに、「Wi-Fi へ自動ログイン」も未対応らしいけど、これはよくわからん。
Wi-Fi は基本的には常にオフにしちゃってるから。Wi-Fiじゃなきゃできなくて、頻繁にやることなんてほとんどないし。
まぁ、個人的にはこんなところかなぁ(また、思いついたり思い出したりしたら追加するかもしれないけど)。「Spotlight 検索」とか、今のところ実際にはほとんど使ってないし、「ボイスメモ」もそれほど使う機会がないし、マイクロソフトの Exchange も使ってないし、「YouTube へログイン」も、YouTube 自体を iPhone で観ることがあまりないからそれほど恩恵を享受してないし。「シェイクでシャッフル」とかシェイクでアンドゥとかも使ってないなぁ。面白いからいいけど。まぁ、もちろん、あること自体はいいことなんだけど、レヴューできるほど使ってはいないな、と。あと、Google Maps のログ・インの問題(マイ・マップを使いたい)とか、どうにかして欲しいけど。

まぁ、内容は スニーク・ピーク・イベントWWDC でのキーノート・アドレスとダブってはいるんだけど、そこで観てた(聞いてた)内容を実際に使ってみて、感じたのは以上のような印象。いい点に関しては概ね観てた(聞いてた)通りって感じかな(細かい部分は多少あるけど)。こう書くと、あんまり満足してないっぽく感じるかもしれないけど、期待してた通りってことなわけで、これってスゴイことだと思う。あと、ここが iPhone の最大のストロング・ポイントであり、魅力だと思うけど、ソフトウェアがアップデートされて機能が追加されたり改善されたりすること自体、素晴らしいことだから。これは、つい忘れられがちだけど、すごく大事なポイント。これだけでも、もう、今さらケータイになんて戻れない。

あとは、 スニーク・ピーク・イベントのレヴューWWDC でのキーノート・アドレスのレヴューで書いてたような、OS 3.0 の SDK の特性(例えば、Bluetooth とかプッシュとか)を活かしたアプリケーションとかアクセサリーとかがもっと出てくれば、この OS 3.0 の本領がもっと発揮されるかな。そういう意味では、1 ヶ月くらいじゃ、まだまだポテンシャルが活かされ切ってはないってことなのかもしれない。

ちなみに、★ はホントは 4 つでいいんだけど 3 つなのはインターネット・テザリングの未対応だから。しつこいようだけど、これだけはどーにかして欲しい。ホントに。

2009/07/17

Minimally fat.

砂原 良徳 "LOVEBEAT"(Ki/oon Records)  
Link(s): Amazon.co.jp

本屋でウロウロしてたら『サウンド & レコーディング』誌の最新号の表紙が砂原良徳で、思わず立ち読みしたら(ちなみに、よく読む雑誌だったりします。音楽誌の中ではかなり好きかも。人には勧めにくいけど。マニアックなんで)、なんと、今月末に新譜が出る(もちろん、だから取材を受けてるんだけど。映画サウンドトラックらしい。映画自体にはあまり興味はないけど)らしく、それはそれですごく楽しみなんだけど、この "LOVEBEAT" 以来だってことで、あらためてちょっとビックリ(まぁ、ベスト盤は出してたけど)。まぁ、新譜は未聴なんですごく楽しみなんだけど、この "LOVEBEAT" は個人的にはクラシック中のクラシックな 1 枚なんで、いい機会だからここでレヴューしとこうかな、と。

2009/07/16

Mo' better funk.

"Black Rio 2: Original Samba Soul 1968-1981" Compiled by DJ CLIFFY 
(Strut)  Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp

前に 2002 年リリースの 1 枚目をレヴューしたイギリスのストラット・レーベルのコンピレーション、"Black Rio" の 2 枚目が、7 年の時を経てリリースされたんで、これは聴き逃せないだろってことで早速チェックしてみた。今作も、コンパイルしたのは前作同様、ロンドンでは歴史の長いブラジル音楽のクラブ・イベント、Batmacumba でお馴染みの DJ クリフィ。

前作は、コパ 7 とかジョルジ・ベンとかバンダ・ブラッキ・リオとかウニオン・ブラッキとかジェルソン・キング・コンボとか、わりと有名どころというか、いろいろこの手のヤツを掘ってる今となってはわりとよく知る名前(当時は全然知らなかったんだけど…)が多かったんだけど、今作は前作にも増して知らない名前ばっかりだったりして。まぁ、ここからさらに掘っていくためのネタとしてはすごくありがたいんだけど。そんなレア・グルーヴ臭がプンプン漂ってくる。

2009/07/15

American funky tradition.

QUANTIC AND HIS COMBO BÁRBARO "Tradition in Transition"
(Tru Thoughts)  Links: iTunes Store / Amazon.co.jp

ちょっと前からモチーラMochilla)の B+ 制作のショート・フィルム、"Tradition in Transition: A Postcard from Cali" のトレイラーを観てたんで、すごく楽しみにしてたクアンティック(QUANTIC)ことウィル・ホランド(WILL HOLLAND)のニュー・アルバムで、今作は新バンドのクアンティック・アンド・ヒズ・コンボ・バルバロ(QUANTIC AND HIS COMBO BÁRBARO)名義。すごく期待してたんだけど、その期待をまったく裏切らないどころか、その予想をいい意味で見事に裏切ってくれた好盤で、正直、かなりビックリな印象。これはヤバイ。

クアンティックはイギリスのトゥルー・ソーツ(Tru Thoughts)からいろんな名義で作品をリリースしてきた DJ / マルチ・インストゥルメンタリスト / プロデューサー、ウィル・ホランドのワン・マン・ユニット。デビューは 2000 年で、当初はわりと典型的な UK ヒップ・ホップなイメージが強くて、けっこうチェックはしてたんだけど、ちょっとイヤな言い方をするとちょっと頭デッカチな印象もあったりした。

2009/07/14

Quiet beauty.


アントニオ・カルロス・ジョビン ー ボサノヴァを創った男 
 エレーナ・ジョビン 著 国安 真奈 訳(音楽之友社) 

ちょっと前にレビューした『ボサノヴァの歴史』に続いて、ボサ・ノヴァの勉強の一環としてジョビンの自伝を。原書は 1996 年発行の "ANTÔNIO CARLOS JOBIM: um homem iluminado"、訳書の発売はボサ・ノヴァ生誕 40 周年だった 1998 年で、著者は名前からもわかるようにジョビンの実妹。ジョビン家の祖先の話から始まって、ボサ・ノヴァの誕生、アメリカ〜世界への進出、そして死まで、パーソナルなエピソードや家族の話など、身内じゃなければ決して書けない内容で、もちろん、身内ならではのヌルさというか、身びいきみたいな部分も感じなくはないし、ダーク・サイドとか下世話なハナシは少なかったりするんで、それはそれで気にはなるけど、まぁ、それを差し引いても、ジョビンの音楽性を深く知る上でも、人間性を知る上でも、ボサ・ノヴァのことを知る上でも、とても興味深い一冊になっている。

2009/07/13

Hidden treasure.

TERRY CALLIER "Hidden Conversations" (Mr. Bongo) 
Link(s): iTunes Store / Amazon.co.jp
 
1960 年代から活躍し、今でも現役としてコンスタントな活動を続けてるシカゴ出身のジャズ・レジェンド、テリー・キャリアのニュー・アルバムで、イギリスの優良レーベルとして知られるミスター・ボンゴから先月リリースされたモノ。

ミスター・ボンゴって言えば、21 世紀に入って以降のテリー・キャリアの作品をコンスタントにリリースしてる(2001 年のライヴ盤 "Alive" とか 2002 年の "Speak Your Peace" とか)レーベルで、去年、ロンドンのジャズ・カフェでのライヴ・レコーディング "Welcome Home" もリリースしてることが記憶に新しい(レビューし忘れてたけど)。

このアルバムも、ジャズ・カフェっていうハコの持つヴァイブも相まってか、タイトル通りというか、なかなかアット・ホームな雰囲気で、ザ・ビートルズの "And I Love Her" のムーディなカヴァーとかも演ってたりして、かなり味わい深いの好ライヴ盤に仕上がってる。