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2010/08/26

Los gigantes.

絆と権力 ― ガルシア・マルケスとカストロ
 
アンヘル・エステバン / ステファニー・パニチェリ 著
 
野谷文昭 訳新潮社
 Link(s): Amazon.co.jp

タイトルの通り、20 世紀のラテン・アメリカを代表する 2 人の巨人の、決して単純ではない関係について記した著作。原著は 2004 年に出版された "Gabo y Fidel: El Paisaje De Una Amistad"(リンク先は英語版)で、副題は「ある友情の風景」みたいな意味なんだとか。

まぁ、著者はスペイン人とベルギー人の研究者で、しかも訳書なんで決して読みやすい感じではない、いわゆる「ちょっと小難しい感じの訳書」って印象。ただ、片やラテン・アメリカ文学を代表する巨人。片や世界でも希有な政治体制を文字通り体現してきた革命家。書かれてる対象自体がメチャメチャ興味深い 2 人なんで、まぁ、それほど読みにくい感じではなかったかな。


2008/11/19

A natural born revolutionist.

少年フィデル

. :フィデル・カストロ 著
. :柳原 孝敦 監訳(トランスワールドジャパン

編集者のデボラ・シュヌーカルとキューバ国家評議会出版局長のペドロ・アルバレス・タビオによって編集された書籍で、原題は "FIDEL my early years"。タイトルが英語なのはオーストラリアのオーシャン・プレス社から出版されたものだからで、少年フィデルって訳書のタイトルはなかなかの名訳。装丁のデザインもいい。

著者がフィデル・カストロとなっているけど、前のエントリーで紹介した『チェ・ゲバラの記憶』と同様に、新たに書き下ろされたものではなく、これまでに行われたインタビューと演説、そして本人が獄中で綴った手紙から該当する部分を抽出し、幼年期からモンカダ兵営襲撃失敗と投獄までの期間の様子を時系列で、本人の言葉で語るカタチでまとめた「コンピレーション」的な一冊。本書の監訳者でもある柳原孝敦氏がチェ・ゲバラの記憶』のあとがきで述べていたように、この 2 冊は編集手法から出版社まで対になっているような作品で、順番的にはチェ・ゲバラの記憶』が本書の続編というような関係になっている。

「素顔のフィデル」と題された序文は作家のガブリエル・ガルシア=マルケスによるもので、これ自体もなかなか読み応えがある。本文は、幼少期から高校時代までの時期(第 1 章)とモンカダ襲撃前の部分(第 4 章)がブラジル人司祭のフレイ・ベトによるインタビュー、大学時代の部分(第 2 章)は 1995 年に母校・ハバナ大学で行った演説、国際学生組織の活動で遭遇したコロンビアでのボゴタ騒動の部分(第 3 章)はコロンビア人ジャーナリストのアルトゥーロ・アラペのインタビュー、モンカダ兵営襲撃失敗後に投獄されていた時期の部分(第 5 章)は自身の手紙が使われている。

幼少時から、メキシコ亡命〜キューバ革命の直前のモンカダ兵営襲撃失敗と投獄までの期間を対象にしているので、当然、中心はフィデルの人格形成について。つまり、いかにして革命家が作られたのか、アイゼンハワーからブッシュまで 10 人のアメリカ大統領と言葉と信念と態度で渡り合ってきた屈強な精神がどのように育まれたのか、ということ。ひとつ、興味深いのは、彼が幼少期を過ごしたは 1940 年代だったという時代背景だ。スペイン内戦と第二次世界大戦の影響がとても大きかった時代で、当時のキューバの「大人」にはスペイン内戦を経験した「スペイン人」も多く、半ばアメリカの植民地的な支配下にあった影響も含めて、いろいろな意味で教育が偏っていた特殊な時代だったことは想像に難くない。そんな中で、本人の口から語られるエピソードは、どれもこれも、すごく「らしい」ものばかりで微笑ましい。知的で、勉強熱心で、意志が固く、周りに流されず、正義感が強く、リーダーシップに溢れ、弁舌に優れ、実践(実戦)派という彼の特徴が幼少時から大学時代まで一貫して見られる。編者の解説に弟・ラウルの 「フィデルのもっとも重要な正確は絶対に負けを認めないことだ」って言葉が紹介されてるけど、すごく言い得て妙だな、と。

個人的には、フィデルが山登り好きだったってエピソードがちょっと好き。やっぱクライマーだったのか、と。

2008/11/15

30 hours with Fidel.

コマンダンテ COMANDANTE

. :オリバー・ストーン 監督(TC エンタテインメント

プラトーン』や『7 月 4 日に生まれて』、『JFK』などの作品で、「社会派映画監督」として知られるオリバー・ストーンがキューバを訪れて、フィデル・カストロと 3 日間過ごして行った 30 時間に及ぶインタビューを編集した 2003 年公開のドキュメンタリー映画。自らがインタビュアーとして出演もしている。

ポスターや
DVD のパッケージには「アメリカが上映を拒絶した問題作」というキャッチ・コピーがあるけど、このコピーは間違いではないものの正確ではない。プレミア上映はアメリカのサンダンス映画祭だったので、まったく上映されなかったというわけではないんだけど、アメリカ在住のキューバ系ロビーの強い圧力で劇場公開はされなかった、ということ。まぁ、アメリカって国はそういう国だってこと。ちなみに、ヨーロッパ各国や日本では問題なく公開された。

カストロの映像というと、やっぱ
ゲリラ戦争当時の勇ましい姿とか、演説の壇上で熱く捲し立ててる姿の印象が強いので、ここで見られるちょっとリラックスした姿はけっこう新鮮(まぁ、このインタビューが撮影された 2002 年の時点で 70 歳を超えてるわけで、さすがに多少は丸くなってるっぽいけど)。もちろん、革命、ケネディや歴代大統領、キューバ危機、ソ連、ベトナム、チェ・ゲバラ、さらにはゴルバチョフについてや好きな映画・女優にまで及ぶ話の中で、演説さながらに熱くなったり、上手くはぐらかしたりするシーンはあるけど、全体から感じられるのはフィデル・カストロの人間としての魅力。キューバ国民の中のカストロ像って、一般的に報道されがちな「独裁者」ってイメージよりももっとカジュアルな、もっと身近な存在で、たぶん「親方」とかみたいなイメージのほうが近いってハナシを聞くけど、そういう理由がちょっと垣間見える気がする。ストイックでカリスマティックな部分と、ちょっと愛嬌がある部分と。そういう姿が見れるだけでもこの映画の価値はあるかな、と。どうしても情報が限られてるだけに。

個別のハナシに関しては、その政治的・歴史的背景を知らないと理解しにくいところもあるし、オリバー・ストーン自身もちょっと浅はかというか、いかにも(所詮は?)アメリカ人な質問をしたりもしてて、そういう意味では、せっかくの機会を活かしきれてない気もする(それにも理路整然と、真摯に余裕を持って対応してるカストロのほうが格が上だってことを際立たせてはいるけど)。個人的には、
プラトーン』はわりと好きだったけど、オリバー・ストーンって監督自体は特に好きってわけじゃなく、熱心に追いかけてるわけでも全部観てるわけでもないし、特に『ドアーズ』はちょっとガッカリしたりもしたんで、あまりいい印象があるわけじゃない。なんか、ビミョーにダサイっていうか、センスが悪いし(特に音楽の使い方とか)。この『コマンダンテ』に関しても、そういう部分がないことはないけど、まぁ、その部分を差し引いても十分楽しめるんじゃないかな、と。

ちなみに、観てない(まだ日本では公開されてない?)けど、ブッシュを描いたという最新作『W.』の予告編は、トーキング・ヘッズの "Once in a Lifetime" を使ってたりして、ちょっと面白い。

2008/11/14

Still alive.

『チェ・ゲバラの記憶』 フィデル・カストロ 著 柳原 孝敦 監訳
(トランスワールドジャパン  Link(s): Amazon.co.jp
 
原書は "Che: A Memoir by Fidel Castro" 及び "Che en la memoria de Fidel Castro"。前者はオーストラリアのオーシャン・プレス社が 2006 年に英語で出版したもので、タイトルに 'memoir'(メモアール)とあるように、フィデル・カストロがチェ・ゲバラについて触れた演説やインタビュー等をデイヴィッド・ドイチュマンが編纂したもの。後者は、前者をベースにキューバのオーシャン・スールが該当部分のスペイン語の原テキストを集めたもの。初版の発表は 1994 年、ここで採り上げられた原書は第 2 版で、1994 年以降のものも収められている。つまり、表記的には「フィデル・カストロ著」となってるけど、厳密には、新たに記したわけではなく、これまでにも発表されていたものを集めた「コンピレーション」のような作品だということです。 

2008/06/09

Family affair.

フィデル・カストロ後のキューバ

. :ブライアン・ラテル 著
. :伊高 浩昭 訳 (作品社)

サブ・タイトルは「カストロ兄弟の確執と〈ラウル政権〉の戦略」。アメリカの対外諜報機関、CIA のキューバ担当者だった著者が、キューバとカストロ兄弟の関係、特に弟で実質的にフィデルの後継者となったラウルの人格と経歴についてまとめたもので、刊行は 2005 年。つまり、フィデルが倒れ、段階的に権限をラウルをはじめとした何人かの幹部に継承しはじめる直前に発表され、フィデルが倒れたことでその重要度が増し、注目されることになった一冊ということ。執筆時期と著者のバックグラウンドをキチンと把握して読むことは読書の基本だけど、特にそのことを気をつけて読むべき本だと言えるってことです。

まぁ、CIA の関係者だっていうだけで、つい警戒心を持っちゃって当たり前。まぁ、敵(って言い方も、まぁ、ナンだけど)側の見方を知ることも大事だろ、と思って読んだんだけど、やっぱアメリカの傲慢さとか、鼻につくっていうか、やっぱ素直には読めないところが多い。自分たちのミスは認めたがらないし。とは言いつつも、さすがにそれは税金のムダだろ、って思うくらいよく調べてはいるので、そういう意味ではなかなか面白い。最近になって(特に、2 月のフィデルの引退表明以降)、ちょこちょこと語られるようになってきてはいるけど、これまではなかなか語られることの少なかったラウルに関する分析は貴重だし、アメリカとキューバのスパイによる諜報合戦や、フィデルは諜報されてることを意識して演説をしてたってエピソードとか、やっぱり当事者ならではのネタを持ってるし。

フィデルの引退〜ラウルの後継とアメリカ大統領選のタイミングがすごく近いのも何かの因縁のような気もするし、まぁ、これから、世界に於けるキューバの立ち位置は大きく変わるだろうから、その辺を見ていく上でも知っておいたほうがいい情報ではあるかな。

2008/05/23

Radical operator.

現代思想 2008 年 5 月 臨時増刊 総特集 フィデル・カストロ

(青土社)


前にゲバラの特集号も読んだ『現代思想』の最新増刊はカストロの特集。第一線を退く旨を発表したのが 2 月だから、それを受けての特集ということで、過去〜現在を幅広く、さまざまな視点で捉えながら考察しつつ、今後に思いを馳せるにはもってこいの内容。

まぁ、とかくゲバラと比較されて、理想主義者のゲバラに対して現実主義者のフィデル、みたいな単純な語られ方もしがちなフィデルだけど、「殉死」じゃないけど、死んじゃったゲバラと生きているフィデルを単純に比較するのはどうかと思うし、ロック・スターなんか典型的だけど(ジョン・レノンとかブライアン・ジョーンズとかキース・ムーンとかね)、死んじゃったほうが美しく語られがちだし、そんなのばかり目にしているとちょっとフィデルの肩も持ちたくなるっつうか、フィデルはフィデルでやっぱカッコイイな、と思うわけで、いろいろ具体的な事象に関しては賛否はあるだろうけど、興味は尽きない。

まぁ、内容的には、生い立ちから革命以前のこと、革命のこと、ゲバラとのこと、ソ連とのこと、アメリカとのこと、貧困のこと、医療制度のこと、ソ連崩壊後のこと、チャベスとのこと、ラウルのこと…、当然語られるべきことはもちろん、近年はどんな考え方をしてるのかからディエゴとの関係まで、とても多岐に渡ってて、いろんな論者がいろんなことを語ってるんで、すべてを共感できるわけではないけど、いろいろ示唆に富んでるし、情報量も十分だし、ここからどんどん拡げていくこともできそうだし、ヴィジュアル素材が少ないのがいつもながらの問題ではありつつも、雑誌としてはとても読み応えがある。

ちなみに、来年はキューバ革命 50 周年。いろいろと考えてみるいい機会になるのは間違いない。