"Kompakt Benefit Compilation for Japan" (Kompakt) ★★★★☆
Link(s): iTunes Store / bandcamp
前にレヴューした "The Sun Still Rises in the East" と "Something We Can Do" に続いて、コレも震災支援のコンピレーションで、リリースしたのはドイツの Kompakt(コンパクト)。内容以前の特徴として最初に目につくのは全 34 曲っていうヴォリュームと、iTunes Store で ¥1350 って価格の安さ。コレには素直にちょっとビックリ。まぁ、安いからって内容で手を抜いてるわけではないんだけど。
サウンド的には、"The Sun Still Rises in the East" がアブストラクト・ヒップ・ホップ系、"Something We Can Do" がドラムンベース系だったのに対して、今作はテクノ〜エレクトロニカ系のレーベルとして人気の高い Komapkt からのリリースなので、サウンドは当然、Kompakt らしいモノになってる。
ただ、いわゆるテクノ〜エレクトロニカ系だけかっていうとそんなことはなくて、bandcamp のページのタグにも 'dance, disco, electronic, house, tech house, techno' なんて書いてある通り、アンビエント、チル・アウト、テクノ、エレクトロニカ、ディープ・ハウス、テック・ハウス、ダブ等、わりとヴァリエーションに富んだ内容になってる印象で、いろんなスタイルのサウンドが楽しめる。
個人的には、わりと実験的でアブストラクトなエレクトロニカを積極的にリリースしてたレーベル設立当初の Kompakt は熱心に追いかけてたこともあったんだけど、それ以降はその頃ほど熱心に追いかけてたわけじゃなかったんで、「へぇ、今の Kompakt ってこんな感じなんだぁ」なんて思ったりもしたんだけど、確認してみたところ、今作は Kompakt の音源だけではなく、世界中のいろんなレーベルから音源を提供してもらってるらしいんで、必ずしも Kompakt のサウンドが全面に押し出されてるわけじゃないらしい。
ただ、だからって内容が薄いのかっていうと全然そんなわけじゃなくて、当然、Kompakt ってフィルターを通した上で選ばれてるわけだから、どのトラックも一定以上のクオリティには達してるし、大きな意味での Kompakt ブランドから著しくハミ出してる曲が収録されてる印象もない。知らずに聴けば「最近の Kompakt ってこのくらいの触れ幅があるんだぁ」って思っちゃいそうな感じで、でも、同時に「やっぱ Kompakt っぽい」って思える部分はキチンと維持されてる。
その 'Kompakt っぽい' ってのは何かというと、個人的な印象は '抑制が利いた世界観' ってことになるのかな。バカっぽい飛び道具とか予定調和的な安易な仕掛けが全然ない感じ。音色は無機質なエレクトロニック・サウンドが中心なんだけど、でも、あまり攻撃的ではなく、クールなんだけど、どこか温かみも感じさせるような柔らかさも併せ持ってる印象。構成的にも、唐突な展開はほとんどなくて、ジワジワと変化していく感じだし。まぁ、地味っていえばその通りだし、ある意味ではストイックともいえるサウンドなんだけど、それが逆にジワジワ効いてくる感じっていうか。今作も、「アンビエント、チル・アウト、テクノ、エレクトロニカ、ディープ・ハウス、テック・ハウス、ダブ」って書いた通り BPM やビートのパターンはトラックによってなんだけど、世界観はバッチリ統一されてるんで、全然違和感なく聴き通せる。
結果としては、ある程度、ヴァリエーションを出したことが大成功してるんじゃないかな。より多くの人に聴いて(買って)もらって、より多くの義援金を集めたいってのが最大の目的だろうから、レーベル・イメージをストイックに打ち出しすぎるよりも、ある程度、サウンド的な間口を広げた上で、曲をたくさん入れることで幅広いリスナーに取っ掛かりのキッカケを与えつつ、価格を抑えることでお得感とか買いやすさを出す、と。もちろん、当事者に確認したわけじゃないから、この読みが当たってるのかはわかんないけど。
収録アーティストについては、この手のジャンルに関してはそれほど熱心に追いかけてるわけじゃないんでそれほど詳しくは知らなくて、Kompakt から自身の作品をリリースしてる Hiroshi Watanabe さんの KAITO 名義の作品(Hiroshi さんらしい叙情的で美しいトラック!)が入ってることくらいしか目につかなかったりして(あと、Yuko Matsuyama っていう、日本人としか思えない名前のアーティストも収録されてるのは目を引くけど)、曲自体も未発表なのか、新曲なのか、その辺のことはイマイチわからないんだけど(何曲かには 'Exclusive' って表記されてるから、それ以外はエクスクルーシヴではないってことなのかな?)、まぁ、この手の音楽をそれほど熱心に聴いてるわけじゃなければ、どれも新曲みたいなモノなので、フツーに聴き応えは十分にあった(なにせ 4 時間近くあるし)。
まぁ、この手の動きが増えてくることは素直に素晴らしいことだと思うし、いろんなジャンルで積極的な動きがドンドン出てくるのは、ワールドワイドなアンダーグラウンドのネットワークの結束が固いクラブ・ミュージック・シーンならでは。フットワークが軽くてキチンと世界観を持った、本当の意味でのインディペンデント・レーベルが、多額のバジェットをかけなくてもこういうことができるようになった時代の恩恵をフル活用してる感じもすごくいい傾向ことだし、いろいろなジャンルやタイプのモノがリリースされれば、好みに応じて選べるし、関与する頭数が増えやすいと思うん。たぶん、この '関与' ってのがポイント。これは B311 からずっと思ってて、親しい人には話してたりしてたんだけど、'関心を持って、自分から関わること = 関与(commitment)' って感覚がこれからは 今まで以上に大事なんじゃないかな、と。それこそ、消費・購買(= 買い物)とか(商)取引(= 仕事)とかに代わる感覚として。何年か前からずっとそう思ってたんだけど、A311 には、これまで以上に明確に、広いジャンルでそうなっていくのがいいんじゃないかな、と。もちろん、この "Kompakt Benefit Compilation for Japan" や "Something We Can Do"、"The Sun Still Rises in the East" みたいなモノを買うこともその好例。明らかに、ただ '買う' ってレベルのコミットメントじゃないと思うんで。
* "Kompakt Benefit Compilation for Japan" (Kompakt)
* Related Item(s):
"Something We Can Do" Link(s): entry on Apr 4, 2011
日本人のドラムンベース・アーティストたちが集結した震災支援コンピレーション。すべて未発表の全 15 曲収録。
"The Sun Still Rises in the East" Link(s): entry on Mar 27, 2011
イギリス人の DJ / プロデューサーのパット・D が主宰するア・ブリッジ・トゥー・ファー・レコーディングスと『ザ・ファインド・マガジン』誌の企画によるコンピレーション。
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